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死を意識する子どもたちに寄り添った心理学者――伝えたのは「なぜ?」という問いを捨てること

穏やかで静かな気持ち、何かを責め立てるような落ち着かない気持ち。今あなたがほしいのは、どちらですか? 西洋科学とシャーマンの知恵を融合させた独自の方法で人々を癒してきたアメリカの心理学者が、重い病の子どもたちの問いから得た知恵を教えてくれました。答えの出ない問いの闇にはまったら、このやりとりを思い出してください。

死を意識する子どもたちに寄り添った心理学者――伝えたのは「なぜ?」という問いを捨てること

こんにちは、島本薫です。

日が暮れるのが本当に早くなりましたね。
もうすぐ一年で一番日差しの短い日、冬至です。

太陽の復活を祝う日であったといわれるクリスマスにちなみ、本日は『Do They Celebrate Christmas in Heaven?(天国でもクリスマスを祝うの?)』という本から、心に光を届けてくれるやりとりをご紹介しましょう。

■子どもから、答えに詰まる問いを投げかけられたら

『天国でもクリスマスを祝うの?』というタイトルが物語るように、この本には、もう長くは生きられないことを自覚している病気の子どもたちが登場します。

死を意識しなければならない状況は、当の子どもにとっても家族にとってもつらいものですが、彼らを支える力になったのが、アティテューディナル・ヒーリング・センターの「重篤な病を抱えた子どもたちのためのサポートグループ」でした。

著者のトム・ピンクソンは、ここで子どもたちの真摯な問いを受け止めることになります。

トムは生と死について探求を続けながら世界中を旅し、メキシコのシャーマンのもとで11年も修行を積んだ異色の心理学者です。トムがどのように子どもたちの思いに寄り添ったのか、ふたつの会話をご覧ください。

“Do They Celebrate Christmas in Heaven?”
(天国でもクリスマスは祝うの?)
著:Dr. Tom Pinkson

※原文は著者のウェブサイトでご覧になれます。
http://drtompinkson.com/

■答えられない問いを受け止める

「天国でもクリスマスを祝うの?」と、問いかけてきたのはブライアンという8歳の男の子。長い間小児がんとの闘病を続けていましたが体調は思わしくなく、今年のクリスマスを迎えるのは難しい――というか、明日をも知れぬ状態でした。

「天国にも、ぼくのうちみたいな家があるの?」

「死ぬってどんな感じ?」

……こんなとき、何と答えたらいいのでしょうね。少なくとも、ごまかしたくはありません。

何と言っていいかわからなかったトムは、そのままを答えました。「わからないよ」と。けれども、続いてこんな言葉が口をついて出たのです。

「ただ、もし天国でもクリスマスを祝うとわかったら、教えてもらえるかな? センターの子どもたちにも伝えるから」

■ただ、「今、ここ」にいる

トムのように答えるのは、なかなかできないことですね。

その場しのぎのことを口にせず、良かれと思ってのアドバイスもしない。

つらいことから、目を背けない。

けれども、まだここにない未来の恐怖にはとらわれない。

相手を「楽にしよう」または「気持ちをそらそう」とはせず、ただ目の前の人と共にいる。本当に相手を尊重する、その気持ちに寄り添うというのは、こういうことなのでしょう。

この後、トムとブライアンは死に対する不安や怖れを話し合い、互いにあたたかな気持ちになって別れました。

過去の出来事や未来の不安にとらわれず「今、ここ」にいる。

――それがマインドフルネスの極意だとわかっていても、実践するのはなかなか難しいもの。では、わたしたちにもすぐに取り入れることのできるあるコツを、次の会話から探ってみましょう。

■君がほしいのは、やすらぎ? それとも?

幼い頃から白血病と闘ってきた10歳のエリックは、病が再発し、死が迫っていることに苛立っていました。

「なんでこうなるのさ? 人生の半分は白血病にかかってて、ようやく良くなりかけたところだったのに。再発なんて、フェアじゃないよ」

神様にも怒りをぶつけ、そのことに罪悪感を覚えるエリック。その思いが余計にエリックを苦しめていると悟ったトムは、怒りを感じてもいいし、表に出してもいいんだよと言って、エリックのやり場のない思いを受け止めます。

「なんでこんな目にあうの?」

トムは、答えます。

“I don’t know why, Erik, and I wish it weren’t happening to you or anyone else. But what I do know is that when you ask the ‘’why” questions, I notice your pain gets worse again.”

(「なぜかはわからないよ、エリック。君も、他の誰も、そんな目にあわなければいいと思う。ただね、わかることもあるんだ。君が『なぜ?』と言うたび、苦しみがひどくなる、っていうことは」)

エリックがうなずくと、トムはこう続けました。――死は近づいているようだけど、今じゃない。そして、僕たちにあるのは「今」だけだね。

「今君がほしいのは、やすらぎ? それとも苦しみ?」

もちろん、やすらぎだと答えるエリック。

だったら、僕たちは『なぜ?』と問うことをやめなくてはね

■“Why?”という問いの落とし穴

「なぜ?」
「どうして?」
「なんでこんな目にあわなくちゃならないの?」

そう問いかけるとき、わたしたちの心は「今、ここ」にはありません。過去の傷を再現しているか、未来の痛みを先取りしているかの、どちらかです。

「なぜ?」と現実を否定しても、苦しいだけ。今を否定しても、つらくなるだけです。

いら立ちや焦燥感がほしければ、なぜほしいものが手に入らないかに目を向けてもいいでしょう。でも穏やかな気持ちの方を選ぶなら、「なぜ」と問い続ける必要はありません。

存在するのは、今、この瞬間だけ。

「現在」(Present)には「贈りもの」という意味があります。自分を苦しめる質問は終わりにして、かけがえのない今このひとときを、どうぞ大切に味わってください。

島本 薫

もの書き、翻訳家、ときどきカウンセラー、セラピスト。 大切にしている言葉は “I love you, because you are you.” 共感覚・直観像記憶と、立体視不全・一種の難読症を併せ持ち、自分に見えて...

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