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『コウノドリ』6話~医者は大きな失敗を乗り越えるものじゃない

産科が舞台の医療ドラマ『コウノドリ』第6話のレビューをお届けします。出演は、綾野剛、星野源、松岡茉優、坂口健太郎、吉田羊、大森南朋ら。今回も悲しいエピソードでしたね……。ある登場人物が迎えた重大な転機に焦点をあててみます。

『コウノドリ』6話~医者は大きな失敗を乗り越えるものじゃない

綾野剛主演の金曜ドラマ『コウノドリ』第2シーズン。先週放送の第6話のテーマは「突然の命の危機 母子の救急救命」。

サクラ(綾野剛)の後輩、産婦人科医の下屋加江(松岡茉優)が大きな転機を迎える話だった。

■母体死亡……悲しすぎるエピソード

下屋はアルバイト先のこはる産婦人科で、切迫早産で入院している神谷カエ(福田麻由子)と出会う。同じ「カエ」という名前で年齢も一緒のふたりはたちまち意気投合。カエの結婚式に出席する約束までする。

ある日、下屋が働くペルソナ総合医療に急患が運ばれてくる。カエだ。すでにカエは救急車の中で心肺停止になっていた。下屋はカエの異変の兆候を感じ取っていたにもかかわらず、それを見過ごしていたことに気づく。

サクラは死戦気帝王切開を行って赤ちゃんを取り上げる。死戦期帝王切開とは、『コウノドリ』第1シーズン最終回でも行われた、心肺停止した赤ちゃんを取り出した後に母親の蘇生を行うという手術のこと。赤ちゃんは無事に産まれたが、サクラや救命科の懸命の手当も虚しく、カエは亡くなってしまう。

強く自分を責める下屋。サクラたちから休むように命じられるが、再び産科に戻りたいという気持ちを強くした下屋は、全身管理を学ぶため、救命科への転科を願い出る。

大変辛く悲しいエピソードだったのだが、『女王の教室』や実写版『ちびまる子ちゃん』に出演していた福田麻由子が妊婦役を演じるなんて……と、時の流れの早さを痛感した視聴者も多かった模様。なお、福田の実年齢は23歳だが、カエの設定は28歳である(ホワイトボードに書かれていた)。

■失敗を「乗り越える」のは自分本位

カエとのことを楽しげに話す下屋に、同僚の白川(坂口健太郎)は「患者さんの事情っていうかプライベートに首突っ込みすぎじゃない?」と告げる。

「あんまり入れ込むと、何かあったとき辛いし、問題起きたとき、お前ひとりじゃ背負きれないだろ」

あまり患者と親しくなりすぎると、患者の身に何かあったときに冷静でいられなくなるし、自分自身もダメージを負う。今回の下屋がまさにそうだった。

では、下屋はどのように辛い試練を乗り越えたのだろうか? 結論から言えば、悪かった結果を乗り越えることは「できない」。それはドラマの序盤でサクラの口から語られている。

「何か失敗をしたとき、自分でリカバーして乗り越えられるようになりたいんです」と下屋が言うと、サクラはこう教え諭す。

「僕たち医者が大きな失敗をしたとき、それは乗り越えるものじゃない」

同様の言葉は、ドラマの終盤にも語られている。

失敗をリカバーして乗り越えるというのは、あくまで自分本位の行動だ。これが一般企業のサラリーマンなら、失敗を糧にして成長することは良いこととされ、周囲にも評価される。しかし、医療の世界はそうではない。医者の失敗はひとりの患者の生命に直結する。だから、失敗しないことが何よりも重要になるのだ。自分の成長は二の次。自分本位の行動ではなく、患者本位の行動が何よりも必要とされる。

では、下屋はどうすればいいのだろうか? ひとつはチームを頼ること。もうひとつは次のために入念な準備だ。

■医者に必要な「チーム」と「準備」

ペルソナ総合医療センターの産科のチームは本当に温かい。休みを取っていた下屋が出産の現場にいきなり戻ってきたときも、誰も非難めいた顔をしなかった。サクラは一瞬「よく帰ってきたね」と言わんばかりに微笑んでみせている。

サクラはいつでも良き先輩として振る舞っている。「救命科へ行きたい」という下屋の申し出を聞いたサクラは、自分の考えを伝えた後、「うん、いいんじゃないか」と笑顔で送り出す。「非難するな・認めよ・相手の欲しがるものを理解せよ」というデール・カーネギーの「人を動かす三原則」を熟知しているような話しぶりだ。

四宮も冷たく見えるが、いつも下屋のことを気遣っているし、そのことは下屋にも伝わっている。第5話ではプリンをプレゼントしていたが、今回はホイップクリーム入りのジャムパンを餞別代わりに与えていた。ちなみにこのジャムパンは「Posto」というドラマオリジナルの銘柄。コンビニに行っても売ってません。

白川も小松(吉田羊)も、いつも下屋のことを気にかけている。産科はひとつのチームであり、妊婦と赤ちゃんのためにいつでも一丸となれる。下屋はもっとチームを頼っても良かったのかもしれない。だが、彼女は救命科に転科を希望した。これは「準備」のためだ。

四宮(星野源)は第5話で、緊急カイザーのため、障害が残ってしまった赤ちゃんにお詫びの手紙を出そうとしていた下屋にこう語りかけている。

「俺なら絶対に頭を下げない。次の出産に向けて、綿密な計画を練るだけだ」

いくら失敗を避けようとしても、どうしても失敗はある。医者は失敗を乗り越えるのではなく、自責の念を胸に積んだまま、次の出産のための準備に進まなければいけない。下屋にとって救命科で新たな技術と知見を学ぶことは、準備を充実させることにあたる。

救命科での彼女への当たりはずいぶんキツそうだ(あんなにエラそうな救命医はめったにいないという現場からの指摘もあるが)。負けずに頑張ってほしい。

■原作との大きな違い

今回のエピソードは原作12巻収録の「転科」をほぼそのまま映像化している。下屋の訪問を受けた加瀬(平山祐介)が「告られると思ってドキドキしちゃった」と冗談を飛ばすシーンも同じだった。

ただし、ひとつだけ原作とドラマに大きな違いがある。原作では、カエは母子ともに死亡していたということだ。

この改変は、視聴者に衝撃を与えすぎないようにするためのドラマ制作陣の優しさの表れだろう。母体死亡だけでも衝撃なのに、母子ともに死亡ともなれば強いショックを受けてしまう視聴者もいるかもしれない。辛い現実を伝えるばかりがドラマの役割ではない。

赤ちゃんを抱いて退院するカエの夫・久志(笠原秀幸)の後ろ姿が寂しそうだったのも気がかりだ。『コウノドリ』の今シーズンのテーマは「出産とその後」である。今後、久志親子へのケアの様子も描かれるかもしれない。

大山 くまお

ライター。文春オンラインその他で連載中。ドラマレビュー、インタビュー、名言・珍言、中日ドラゴンズなどが守備範囲。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』『野原ひろしの名言集 「クレヨンしんちゃん」から...

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