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『コウノドリ』はパパこそ見るべきドラマ~「夫婦はふたりでひとつ」じゃない

産科が舞台の医療ドラマ『コウノドリ』第3話のレビューをお届けします。出演は、綾野剛、星野源、松岡茉優、坂口健太郎、吉田羊、大森南朋ら。ゲスト出演したナオト・インティライミがSNSで話題です。どんな話題でしょう……?

『コウノドリ』はパパこそ見るべきドラマ~「夫婦はふたりでひとつ」じゃない

綾野剛主演の金曜ドラマ『コウノドリ』第2シリーズ。先週放送された第3話では、第1話から描かれてきたキャリアウーマン・佐野彩加(高橋メアリージュン)の“産後うつ”と、迷信を信じやすい女性・山﨑麗子(川栄李奈)の“無痛分娩”がテーマだった。

■「会社ではイクメンって呼ばれてる」

無事に出産し、病気を抱えた赤ちゃんの経過も良好。しかし、彩加は産科でも仕事復帰の話と保育園の話ばかりで明らかに様子がおかしかった。子育てに夫の協力はなく、子どもを保育園に入れることもできない。仕事復帰を焦るばかりの彩加は、産後うつに陥っていたのだ。

彩加の母親と夫の康孝(ナオト・インティライミ)の言葉と態度も彩加を追い詰めていく。九州人の母親は「男が外で稼ぎ、女は家で赤ちゃんを育てるべき」という考えの持ち主。赤ちゃんの病気さえ妊娠中まで働いていた彩加のせいにしていた。ひどい。そして康孝はナチュラルヒール(悪役)だ。根っからの悪人というわけではないが、だから余計に絶望感がある。

「会社ではイクメンって呼ばれてる」

「出産してから性格変わったよ」

「このままじゃ、俺、しんどいよ」

ストレスが頂点に達した彩加は、ペルソナ総合医療センターに赤ちゃんを置き去りにして、屋上の柵から身を乗り出す。サクラ(綾野剛)は懸命に彩加を探すが、いち早く手を差し伸べたのは彩加の担当医・四宮(星野源)だった。四宮に適切な治療を薦められた彩加は、すんでのところで自殺を思いとどまる。

しかし、康孝はこの期に及んで「言ってくれよ……」と嘆くのみ。子育ての当事者意識ゼロメートル地帯の男だ。康孝は基本的に妻の目を見ない。無意識のうちに妻と向き合うことを避けているのだろう。

■「夫婦はふたりでひとつ」という考え方の誤り

康孝はうなだれる彩加に「夫婦はふたりでひとつって、母さんも言ってたじゃない」と言葉をかけるが、四宮は「なんだそれ」と冷たい声を浴びせる。

「人間はふたりでひとつになんかなれない。死ぬまでひとりだよ。たとえ夫婦でも、別々の人間からこそお互いを尊重し合う。それで初めて助け合えるんだろう」

妻は夫や家の従属物ではないし、子どもを産み育てるだけの人間ではない。「ふたりでひとつ」という考え方は、言葉にしなくても相手は勝手に自分のことを理解してくれるはずだという男(夫)側の甘えがある。そうではなく、コミュニケーションを尽くさないと助け合うことなど到底できやしないだろう。

なお、第2話の放送後ぐらいからツイッターで「#ウチのインティライミ」というハッシュタグが生まれており、妻が感じる夫の問題点や夫に対する怒りと失望がすさまじい勢いで語られている。これを一冊にまとめたらすごい本になりそうだ……。ちなみにナオト・インティライミ自身は双子の父親である。

■意外とデキる夫だった喜屋武豊

『コウノドリ』は、以前から「パパこそ見るべきドラマ」という声が上がっている。この第3話がまさにそうだった。

世のママたちのヘイトを一身に浴びた康孝だが、ドラマの中では断罪されるシーンを極力描かず、挽回のチャンスを与えていた。夫に非難を浴びせてスッキリするだけでは何も解決しない。それより夫の成長を促すことが大事なのだ。では、どのように成長していけばいいのだろうか?

第3話に登場したもう一組の夫婦、無痛分娩を控えた妻の麗子(川栄李奈)を支える夫の友和(喜屋武豊)が良い見本だと思う。この男、見た目はチャラいが、理解力、説明能力、共感力がどれも非常に高い。

「お腹を痛める自然分娩じゃないと良い母になれない」という迷信を信じる麗子へのサクラたちの説得をいち早く理解し、「痛みがなきゃ愛情が生まれないって言うなら、俺たち男はどうやって父親になればいいんだよ」とさらっと言えるのだからたいしたもの。

麗子が分娩を行っているときも、いつも背後で喜怒哀楽を丸出しにして応援していた。きっとふたりは一緒にいる時間も長いはずだ。くだらないことを喋ってゲラゲラ笑いあっているふたりの姿が容易に想像できる。でも、それこそが大切なんだと思う。それにしてもバカっぽい川栄李奈が可愛かった。演技が上手い。

■『コウノドリ』は優しいドラマ

最後にかわされるサクラと四宮の会話にも、夫が成長するヒントが隠されている。

「本当に、僕たち産科医ができることは小さいね。ただ、気づくこと、誰かにつなげることしかできない」
「だけど、今回は止められた。産まれた瞬間から、赤ちゃんとお母さんの変化を見続けていく。それは、小さなことじゃないだろ?」

赤ちゃんの変化は専門の産科医や新生児科医にしかわからないが、妻の変化なら夫が見ていればわかることだ。赤ちゃんの世話は妻でもできるが、妻のケアはもっとも身近にいる夫の役割である。それが「父親」になることの近道なんじゃないだろうか。

「#ウチのインティライミ」に「コウノドリを見たがらない」というツイートがあったが、『コウノドリ』は優しいドラマだ。たとえば、彩加の産後うつにしても、もっとリアルに描くことはできたはずだが、それをしなかったのは、見ている人に不安をいたずらに煽り立てたり、過去の苦労をフラッシュバックさせないようにするための配慮だろう。

『コウノドリ』を見たがらない夫には「大丈夫、『コウノドリ』は優しいよ!」と伝えてあげたい。

大山 くまお

ライター。文春オンラインその他で連載中。ドラマレビュー、インタビュー、名言・珍言、中日ドラゴンズなどが守備範囲。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』『野原ひろしの名言集 「クレヨンしんちゃん」から...

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