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【誰でもできる、本業で社会貢献】#1「公益経営」って何?

社会貢献――最近よく聞く言葉ですが、セレブが多額の寄付をしたり、週末にボランティアをしたりと、普段の生活とは切り離したところにあると思っていませんか? そんなイメージを覆す「誰でもできる、普段の仕事を通じた社会貢献」について解説します。

【誰でもできる、本業で社会貢献】#1「公益経営」って何?

世の中は「社会貢献」花盛り。CSRにサステイナビリティetc.、多くが世のため人のために何かしようとしている昨今です。

とはいえ多額の寄付をできる余裕はないし、ボランティアをする時間もないし、NPOは給料が低そうだから本業にはできないし……と、ここまで考えて思考停止。

結局ゴミや洋服のリサイクルと、たまにお釣りを入れる募金箱でいいかとお茶を濁してしまう。社会貢献って結局気張らないとできないのかも、言い換えれば「非日常感」が漂う行動だと思っている人が多いんじゃないでしょうか。

この連載を通じて、社会貢献ってなんかやっぱり私にはしっくりこないと思っているアナタ、サステイナビリティとかCSRとか社会起業家って何なの? と思っているアナタ、自分のできる範囲で、無理なく誰かの役に立ちたいと思っているアナタの「?」にお答えしたい。

そして願わくば、世のため人のために立ち上がってほしい、と願っています。

■どんな会社が「公益経営」をしているの?

社会貢献において、「公益経営」という言葉を聞いたことはありますか? 公益経営とはなんぞや? という説明に入る前に、まずは実践している会社をひとつ、ご紹介しましょう。

LIXIL(リクシル)という会社があります。M&Aによって最近できた会社なので、なじみがない方もいるかもしれませんね。でも、前身だった企業のひとつはINAX、と言われるとピンとくるのでは? そう、トイレを作っている会社です。

日本のトイレは世界に誇れる製品ですが、お尻を洗ってくれるものばかりが最先端のトイレじゃありません。今、LIXILの製品で爆発的に売れているのは、途上国向けの「水を使わないトイレ」です。

途上国では水道などのインフラが整備されている場所は少なく、当たり前ですが水は貴重な資源。きれいな水を、飲まずにトイレ洗浄に使うなんて、ほとんど悪に近い。だからLIXILの開発した水を使わないトイレは諸手を挙げて歓迎され、たくさん売れているのです。

途上国に暮らす人の利便性をあげて、水問題にも配慮しているなんて、立派な社会貢献ではありますが、別にLIXILは慈善事業でやっているわけではありません。開発費用をかけてこのトイレを開発し、寄付しているわけじゃなく売っている。

日本と同じ状況で使える製品ではないし、当然ながら国内向け製品と同じ値段では売れません。だから過酷な環境でもできるだけ清潔に使用でき、途上国の物価に合わせた値段で売れるようにすべく知恵を絞って商品開発をしている。

それがLIXILのノウハウになり、新たな商品開発のネタになる。儲けと、ノウハウと、高い顧客満足度。これらは、LIXILが普通に目指しているビジネスの目標であり、この事業活動はいわゆる「本業で利益をあげている」状態です。

本業で利益を上げることが、いつの間にか社会貢献にもなっている。いいじゃない、これを単なる偶然でなく意図的に作り出しながらみんなで仕事をしようじゃないか! というLIXILのような経営のあり方が「公益経営」なのです。

■目指すは三方良し! だけど、三方良しって何?

なるほど、本業をしながら社会貢献もできちゃうと。じゃあ「公益経営」って、そもそもは偶然の産物なの? と思いきや、それがそうでもない。むしろ公益経営は、意外にも日本人に馴染みの深いコンセプトなのです。

みなさんは「三方良し」という言葉、聞いたことはないでしょうか。読み方は「さんぼう」でも「さんぽう」でもいいみたいですが、江戸時代くらいから伝わる商人(あきんど)の心得で、この三方とは「売り手」「買い手」「世間」のことを指します。

この三者が全て「良し」となる、言い換えれば満足するように、良くなるように商売するのが良い商人というわけです。

ちょっと待てよ。売り手は利益が出るからハッピー、買い手も欲しいものが手に入ってハッピー。でも、「世間」って? 商売をしていく上で、お客さん以外の人たちもハッピーにするって大事なの? 「商売=ビジネス」を単純に捉えると、そう思いがちですよね。でもこれって、気づいていてもいなくても、日本には根付いている商売のありかたです。

たとえば近所に、おばちゃんがやっている、小さいながらも必要な物は何かと揃う「よろずや商店」があったとしましょう。おばちゃん経営のお店ですから、昼間はおばちゃんたちの溜まり場になっています。

単なる井戸端会議場とも見えますが、物理的に集まれるということは実はおばちゃんたちの健康チェックの機能も果たしているし、おしゃべり=ご近所情報の共有の場でもあるのです。

それからよろずや商店は小学校も近いため、自然とおばちゃんは通学途上の小学生を見守ることにもなるし、子どもたちの保護者が「学校周りで変な人を見たら、よろずやに駆け込むのよ」と言い聞かせていれば簡易避難所にもなっている。立派な防犯拠点でもあります。地域に溶け込み、役に立っているお店なのです。

こうした商店を「ビジネス」という目で眺めれば、物を売って利益をあげるのが「良い」ビジネスということになると思いがちですよね。でも、よろずや商店のようなお店は、都心にこそないかもしれませんが、日本中どこに行ってもあるし、商売としてもちゃんと成り立っていて地域の人にも愛されたりしている。

「売り手」と「買い手」だけじゃなく「世間(地域)」も含めたみんなの役に立っている「三方良し」は、今も日本の商売に受け継がれている考え方なのです。

■「公益経営」は再発見された「三方良し」なのです

そして、これをちょっと硬い言い方に変えたのが、前述の「公益経営」です。よろずや商店のおばちゃんのように、本業をやりながらお客さん以外の人もハッピーにし、よりよい社会を作るための役に立とうじゃないかと。

LIXILの例で、「偶然ではなく意図的に」という話をしましたが、まさに社会貢献を本業に組み込んで考えていこうということですね。

けれど、これってよろずや商店くらい小さいビジネスなら考えやすいですが、上場企業のような大きい会社だとなかなかわかりにくいですよね。きっと企業で働いている人たち、つまり私たち自身にとっても、今まではそうだったのだと思います。

これまでバブル時代をピークに「経済成長して、豊かになろうぜ!」と、日本はいろいろなものを作って売り、その結果大企業がたくさんできました。もちろんそれらの企業が生まれたばかりの町工場規模のときは、よろずや商店と同じように地域に溶け込み、身近に親しまれていたのかもしれません。

が、大きくなる中でだんだん「稼ぐ」ことのみに集中し始めていきます。だって、従業員は増えるし、拠点は増えるし、上場すれば株主はうるさいし……と心配事が増えるから、「世間よし」は後回しにして、「とりあえずたくさん稼ごう」となるのは必然だったのかもしれません。

ところが、流れはまた変わっていきます。開発途上国の貧困問題や、食糧危機、地球温暖化や環境問題が明らかになるにつれて、大企業には冷たい視線が向けられるようになっていったからです。簡単に言ってしまうと、「自分のところだけ儲かればそれでいいわけ?」と。海外では「世間よし」じゃない企業の製品はボイコットしよう、なんて動きもありました。

こりゃマズいと感じた企業側が最初に始めたのがCSR活動。聞いたことある、という人も多いでしょうが、Corporate Social Responsibilityの略で「企業の社会的責任」が日本語訳。要は企業の社会貢献のはじめの一歩、ということです。

会社側が音頭をとって文化活動を支援したり、地域のお掃除をしたり、寄付活動を展開したり……きっとみなさんも「ああ、あれね」と思い浮かぶようなことです。

もちろんこれは「儲け主義!」で突っ走ってきた企業にとって、大きなターニングポイントではあります。でも、企業のCSR活動って良く見るとその本業とは関係ないことがほとんど。

関係者は社内でもキワモノ扱いされたり、「ボランティアもいいけどしっかり稼げ!」という上司の一言の元に活動に参加しづらくなったり……と形骸化していくことも多かったのです。

でもきっと、CSR活動を目にする中で多くの社会人の心の中には「誰かのために役に立つって気分が良いことだ」とか「儲け主義一直線の会社で働くのはちょっと居心地悪い」とかいう思いが目覚め始めたのかもしれません。

そもそも豊かな社会を知らないと言われる若手社会人も一緒になって、「どうせなら本業を通じて、より良い社会を作るために貢献するような仕事をしたい」という人も増えてきたのです。社会問題に対しての「意識高い系」な人々ですね。

この流れの中で生まれてきたのが、おざなりにされていた「世間よし」をもう一度復活させようじゃないかという動きです。これが公益経営。だから公益経営、本業で社会貢献は「三方良し」の再発見なのです。

■だから公益経営はする価値アリ!

最後に、今回見てきた「公益経営」のメリットをおさらいすることにしましょう。

一番のメリットは、企業経営のお題目である「儲け」も出しながら社会に貢献し、社会問題を解決する手助けができること。これはここまでで何回も繰り返してきたことです。

これに加えて、社会の問題を解決する手助けをすることで、その地域に住む人たちから感謝されることもあります。そして、その感謝を目に、耳にすれば、会社で働く人たちも自分の仕事に誇りと愛着を持つようになる。

「いい会社じゃない!」と株主(資金提供をしてくれる人)も増えるかもしれません。お客さんの住む地域だけじゃなく、日本の、世界の人たちの中にも、「あの会社、いいことやってるね」とファンを増やすことにもつながります。

社内外に会社のファンを増やすこと、これが公益経営のメリット、大きなふたつ目なのです。お客さんからも、従業員からも、世間一般からも愛され・支援される企業になれる。そうすれば評判は上がり、顧客や株主も増え、尊敬される企業になるでしょう。自然と競争力もつき、長く存続できる企業になります。

そう、公益経営は企業を永続させていくためにも有効な方法なのです。情けは人の為ならず、ではありませんが世のため人のために良いことをすれば、それは回り回って自分にも良いことになって帰ってくる。そんな、とっても日本的な考え方が公益経営なのです。

今回は大きな会社経営の部分での「本業で社会貢献」についてお伝えしました。次回からは働く私たち、個人レベルでの「本業で社会貢献するには?」について見ていきましょう。

佐々木 希世

コミュニケーション設計士。10代からの10年を米国で過ごす。採用や転職支援、ビジネススクールでのプログラム開発や講師業務に従事し、社会人のキャリア形成や成長への支援をやりがいとしてきた。3年間イタリアに移住したことをきっかけ...

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