「自分の言葉で語れるくらい好きなこと」で結果を出せたら、チームみんなが幸せになる【ナンバー2の仕事術#1】
組織やチームの二番手として活躍する人の仕事術に迫る【ナンバー2の仕事術】。第1回目は、月間3000万人以上の読者が訪れるウェブメディア『東洋経済オンライン』の副編集長・吉川明日香さんに話を伺った。
本連載では、組織やチームの二番手として活躍する人にインタビュー。二番手はリーダーをサポートしながら、スキルを補い、ときに間違いを指摘したり、意見を出したりして、トップのやりたい計画を実行に移していきます。
同時に、二番手は部下たちをマネジメントする能力も持ちます。こうした優れたバランス感覚を持っているのがナンバー2の特徴とも言えるでしょう。ここでは、そんな組織を支える大きな柱として活躍する人たちの仕事術に迫ります。
第1回目では、ビジネス情報から教養、センスを磨くコンテンツまで、充実した情報を発信するメディア『東洋経済オンライン』の副編集長・吉川明日香(よしかわ・あすか)さんにお話をお伺いしました。
「周囲とのコミュニケーション」や「仕事の効率化」、「成果を出すためのノウハウ」などは女性に限らず、ビジネスに携わる方々の多くが意識していること。でも、こうした難しい話はいったん置いといて……まずは自分の中にある「好きなこと」「得意なこと」を大切にしてみる――そうすると誰かの「好き」を尊重する生き方にもつながっていくのかもしれない。
そう思わせてくれるインタビューとなりました。どうぞ最後までお付き合いください。
『東洋経済オンライン』の副編集長 吉川明日香(よしかわ・あすか)さん
――本日はよろしくお願いします。まず始めに、吉川さんの副編集長としての仕事についてお聞かせください。
『東洋経済オンライン』には、もともと副編集長というポジションがなかったんです。
ただ、メディアが急成長していくうちに、見ていただく人たちも増えてきました。そこで、支える人が必要だろうということで、去年(2016年)の4月に副編集長という役職が誕生したんです。
なので、「副編集長はコレをやる」っていう決まりもなければ、仕事の引き継ぎもなかったんですね。自分にできることや、やるべきことを考えて、やっている……という状況なんです。
■月に3000万人以上が訪れるメディアの副編集長として
――具体的にどのようなことを考えているのでしょうか?
まず、サイト全体に貢献できることは何かを考えてやる、ということを心がけています。ひとりの編集者として成果を出しつつ、サイト全体のクオリティチェックや新しい機能のアイデア出しなどですね。
さきほども申し上げた通り、『東洋経済オンライン』を見ていただける方は以前よりも爆発的に増えました。ですので、以前は問題にならなかったことが問題視されるようになることもあります。その中で自分たちのメディアがどのような見方をされているのか、記事への反響、コメント欄などをパトロールしながら日々反省や思索をして、次に活かす……といった感じです。こうした機能や企画のアイデアは、なるべくなんでも言うようにしています。
――“編集”という仕事以外にも、複数の視点を持ってらっしゃるんですね。「言うようにしている」とのことでしたが、社内やチーム内のコミュニケーションで気を付けていることなどはありますか?
会社に来れば顔を合わせることができるので、たわいない雑談から、「こういうふうにしたほうが良いんじゃないですか」っていう仕事の話までなんでも喋るようにしています。
メールやチャットツールを使えば伝えやすいこともあるでしょうけど、「これ聞いても良いのかな……」って思ってしまうこともありますよね。でも、お互い近くに座っている特権で、何を聞いても良いかなって(笑)。
それから、『東洋経済オンライン』は編集長ともうひとりの副編集長が男性なんです。部長などその上もそうです。
仕事において「男性だから」とか「女性だから」とかは関係ないとは思いますが、コミュニケーションに関して、男性同士とか女性同士とかだと言いにくいことってありませんか? 角が立ってしまうことが多いというか……。カチンときてしまうこととか……。コミュニケーションのそうしたズレを減らすために、彼らに言いにくいことはなるべく私が言うようにしています。
――同性だからこそ言葉にしにくいことは多々あるかもしれません。そういったケアも含めて細かい、気軽なコミュニケーションをとれる環境をつくってらっしゃるんですね。
周りから見たらただうるさいだけかもしれませんけどね。
本当にずっと喋っているので、仕事をしながら雑談をしている感じです。その中から企画が生まれることも、お互いの考えがわかってくることもあります。健康状態の悪い人がいれば、会話のなかでちょっとした異変に気づくことができるかもしれないですし。
――ぼくの個人的な経験則ですが、女性はその人の体調や感情の動きに敏感だなという印象があります。関わる人をよく観察しているなぁ、と。
あぁ、たしかに、そういった部分を見ますね。
■思いついたらその場で話して即解決。会議の場で改まって話すことってそんなにないんじゃない?
基本的に会議は週に1回しかありません。そもそもあまり会議をしないんです。
さきほどお話した「雑談」で、話すべきことはつぶしている感じですね。扱っている仕事の量が膨大なので、週に1回の会議まで待っていたら忘れちゃうんですよ(笑)。だから、思いついたその場で話して潰しちゃうほうが効率的かなと。
――これが、気軽に話せる環境でないと、自分の中にため込んで、週に一度の会議の場で意を決して発表する……なんて可能性も出てきますね。
あと、大勢で意見を言えば良いモノができるとは限らないかなと。仕事はなにごとも企画だと思うんですけど、大勢の意見を聞けば企画が面白くなるとは限らない。逆に角がとれて面白くないものができあがる、なんてこともあります。
なので、ひとり、とは言わないですけど2~3人に協力をしてもらえばよいと思います。もちろんどんなビジネスか仕事かにもよるのですが、日常の多くは実はそれでよいのではと。うちは、みんな何が得意で、何を苦手としているのかが明確なので、そういうのを頼みやすい環境がありますね。
■自分のメリットだけを考えず、みんなが幸せになれる「好き」を見つける
――そういった周囲への「頼み方」の部分で気をつけていることはありますか?
自分を振り返ってみてもそうですが、人って得意なことばかりじゃないなと思っていて。誰でも明らかに得意なこと・苦手なことってあるじゃないですか。それっていつもその人の仕事を見ていると、わかってきます。
わたしなんかは、苦手なものをたくさん抱えているので、そういうことで仕事を振られると困ってしまうんです。だから、それを人にはしたくないなと思っています。苦手なことを振られるよりも、「得意なこと」「好きなこと」で仕事を振られたほうが、やる気が出て結果的に良いものを生み出せると思うので。
自分がされて困ることを人にしない……というか。やっぱり嫌々仕事をされても、効率としても悪いじゃないですか。
――効率、という話が出ましたが、吉川さんのそういった考え方は、どのようにして生まれたのでしょうか?
小学生の子どもがふたりいて、夕方、学童が閉まるまでに子どもを迎えにいく必要があるんです。保育園時代から今現在に至るまで、誰よりも早く帰る生活をしてきました。もともと仕事に割ける時間も人より少なかったんですよ。だからこそ、無駄は省かなければいけなかったんです。
――その無駄か、無駄じゃないかの線引きってどのようにされていたんですか?
無駄か、無駄じゃないか……。でも無駄って、「これやってもダメだな」ってはっきりとわかるケースが多くないですか?
――あぁ、たしかにそうです。
難しいのは、これグレーゾーンだなって思うもの。やっても良いかもしれないし、やらなくても良いかもしれないもの。こういったグレーとなるものって多いですよね。それを、どうさばくかっていうところかなって。
それで、「気乗りしないのはなぜなのか」を言語化してみる。「なんとなく……」ではなくて、言葉にすることによって「やる・やらない」を仕分けしていく。それで、気乗りしないを言語化してみると、ボトルネックが見つかるんです。
――自分の「好き・嫌い」を言葉にすることで、グレーゾーンへの対応の仕方がわかってくるんですね。
以前のわたしは、このグレーゾーンにいろいろ理由をつけて手を出していたんです。「勉強になるから」とか「なにかネットワークをつくっておくべきじゃないか」とか。でも何かにつながるかも……ってきっと何にもつながらないですよ。
だから自分だけにメリットがあるからといって無理して苦手なことをするよりも、好きなことで成果を残すほうが、きっとみんなが幸せなんじゃないかなって思います。
■「好き」「嫌い」な理由を自分の言葉にすること
――とくに若い世代の方々は、苦手だとわかっていても無理に飛び込んでしまうケースが多いかもしれません。そういった今の吉川さんの考え方に、影響を与えてくれた人やモノなどあればお伺いしたいです。
昔から本が好きだったので、今日はいろいろ持ってきました。
――おぉ! ありがとうございます。
こちらが経営学の楠木建(くすのき・けん)先生が出されている本なんですけど、『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社刊)、そしてこちらが『経営センスの論理』(新潮社刊)ですね。これらがわたしの好きな本です。
『「好き嫌い」と経営』は、少し前の本ですね。経営って聞くと、論理でするようなもの、良し悪しでするようなものだって、たぶん思われがちで、世の中にもロジカルシンキングの本とかたくさん出ていますよね。でもそればっかりだと、行きつく先はみんな同じで面白くない。
世の中では「論理で何をするか」って考え方が大切だとされている場面が多くて、そういったことにすごく違和感があるんです。
だけど、この本では「物事っていうのは、論理的な判断だけではなくて、好き嫌いで分ければ良い」と。個性的な剛腕経営者に、「好き・嫌い」についてずっとインタビューしてまわるっていう内容なんです。これすごく面白いですよ!
何が正しいか、間違っているか――さっきも何が無駄で、何が無駄ではないかって話がありましたけど、けっきょくグレーを分ける自分の物差しでしかないので、その中のひとつが自分の「好き嫌い」だと思うんです。
本の中で話されている経営者の方々のお話を読んでいても、重要な決断は好き嫌いでされていることがわかる。なにごとも正しい、悪いではないので。しかも、ここで出てくる経営者の方々は、なんでそれが好きなのか、なんで嫌いなのかをちゃんと語ることができるんですね。なんとなく「好き・嫌い」というんじゃなくて。
――自分の好き・嫌いで判断すれば良い、というのは今の吉川さんの考え方に通じるものがあるなと感じました。
やりたくない仕事や苦手なことはどうしても効率が悪くなってしまいます。なので、それをいかに人生の中から減らしていくかが大切ですよね。でも、かといって同じことばかりやっていても視野が狭くなってしまうし、成長しない。だから好きな分野を広げるための修行も必要なんですけど。
――ただ、苦手なこと・嫌いなことって、常に自分の周りにつきまとってくるものだとは思います。
それでもやっぱり苦手なことで最高の結果が出ることは少ないですよ。それはそういうものだと思って、そこに時間をかけないことも必要ですね。
それから、「これは苦手だから、嫌いだからやりません」だけだと、単なるわがままになってしまう。「わたしにこれをやらせるくらいなら、こちらのほうが得意です。結果が残せます」と交渉してみると良いかなと思います。
世の中には、ロジカルシンキングによる仕事術があふれています。
もちろん、そういったものはビジネスシーンにおいても役に立つことが多々ある気がする……。けれども、吉川さんのお話にあったように、自分の中の「好き」「やってみたい」と思う気持ちを仕事の原動力にすることで、さらにワクワクするような世界を見ることができるのかもしれません。
(取材・Text/小林航平)
吉川明日香さんプロフィール
早稲田大学商学部卒業後、2001年に東洋経済新報社に入社。記者として食品、建設、精密機械、電子部品、通信業界などを取材し、『週刊東洋経済』や『会社四季報』等に執筆。2度の産休・育休を経て復帰。2012年秋の東洋経済オンラインリニューアルより、同編集部。2016年4月から東洋経済オンライン副編集長。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。