壮絶なレイプシーンから始まる――世界中で物議を醸した『エル ELLE』が問いかけるもの- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#20
話題作『エル ELLE』。壮絶なレイプシーンから始まるサスペンスでありながら、ブラックコメディの要素も併せ持つ本作は、賛否の分かれる作品として世界中で物議を醸しています。これまでも強い女を描いてきたオランダの鬼才・ヴァーホーヴェン監督が、本作では強烈な主人公ミシェルを通じて、観客の善悪の価値観に揺さぶりをかけてきます。
◼︎衝撃作『エル ELLE』が世界中で物議を醸したワケ
※本作は過激なレイプシーンを含んでおります。そのような描写が苦手な方や、嫌悪感のある方は鑑賞にご注意ください。
第89回アカデミー賞・主演女優賞ノミネート、第74回ゴールデン・グローブ賞・主演女優賞、外国語映画賞受賞など全世界で125ノミネート、64の賞を受賞した話題作『エル ELLE』。
壮絶なレイプシーンからスタートする衝撃的な本作。
この作品が世界中で物議を醸している理由は、強烈なキャラクターを持つ主人公・ミシェルがレイプ犯に向けてとる「ある不可解な行動」にあります。
そして、本作がサスペンスでありながら、全編を通じてウィットに富んだブラックユーモアに溢れ、コメディとして仕上がっている点も、賛否が分かれる一因といえるでしょう。
被害者が「被害者らしく」あることを求められる世間に対し、常識やモラルなんてクソくらえ! と真っ向から挑みかけるようなミシェルの強烈なキャラクターは、「女性の権利にとって革命的である」と賛成派から多数の支持を集めています。しかし一方で、そのあまりに衝撃的な展開に異を唱える否定派も存在しているのです。
◼︎身の毛もよだつ衝撃の展開『エル ELLE』のストーリーは?
豪華な自宅で、猫とふたりで暮らす新鋭ゲーム会社の社長ミシェル(イザベル・ユペール)。
ある日、彼女は自宅で覆面の男から暴行されてしまう。
だがミシェルは警察にも通報せず、風呂に入ると、訪ねてくる息子・ヴァンサンのために、いつもと変わらぬ様子で寿司の出前の注文をする。
翌朝もいつもと変わりなく出社したミシェルは、合間に病気の検査、そしてまた犯人が来たときのための武器を購入を済ませる。そしてその晩、協同経営者のアンナとその夫、そして自分の元夫・リシャールとのディナーの席で「昨日レイプされたの」とさらりとした報告をするのだった。
そんなミシェルの元に、まるで見張っていたかのようなタイミングで送信者不明のメールが届く。
さらに会社で残業中にも卑猥なメールが届き、ミシェルは周囲の人間に疑惑の目を向けていく。容赦なくダメ出しをするミシェルを恨んでいる会社の部下たち、元夫で売れない小説家のリシャール、セクシーな向かいの家の主人・パトリック……疑い始めるとキリがない。
そんな中、39年前に衝撃的な犯罪で終身刑となったミシェルの父親が、仮釈放を申請したというニュースが流れる。当時10歳だったミシェルも、事件に何かしら関与しているのではないかという疑惑の目を向けられていたのだった。
二度と警察には関わりたくないと、自ら犯人を探し出そうとするミシェル。だがついに、犯人が暴かれたとき、ミシェルがとった不可解な行動により、犯人よりも恐ろしい彼女の本性も明かされていく――。
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