映画『突然炎のごとく』感想。仏映画界を代表する女優ジャンヌ・モロー主演、フランソワ・トリュフォー監督屈指のラブストーリー!
フランス映画界の大女優ジャンヌ・モローが現地時間7月31日に亡くなりました。89歳でした。シネマの時間第12回は、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手フランソワ・トリュフォー監督がモローに捧げたと言われる映画『突然炎のごとく』の魅力を、アートディレクターの諸戸佑美さんに語っていただきました。
今回『DRESS』読者の皆様にお届けするのは、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手フランソワ・トリュフォー監督屈指の名作恋愛映画『突然炎のごとく』です。
第一次世界大戦前後のフランスを舞台に、親友同士のふたりの青年とひとりの女性との不思議な三角関係を描いています。
ジュールとジムというふたりの男に愛されながらも、多くの男性を虜にする美しく自由奔放なヒロイン、カトリーヌを演じたジャンヌ・モローの魅力が圧倒的。
モロー自身恋多き女性で、デザイナーのピエール・カルダンやトニー・リチャードソンなどとのロマンスは有名です。
ルイ・マルやロジェ・ヴァディムをはじめ、フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダールなど、映画史を物語る有名監督作品に立て続けに出演し、ヌーヴェル・ヴァーグ全盛期を代表する女優として知性と品格を備え、数々の輝かしい映画賞も受賞、国際的な名声を確立しました。
また、ジャン・コクトーやヘンリー・ミラー、マルグリット・デュラスといった文豪たちのミューズとして、あるいは親友として深く愛され共に素晴しい作品も世に残しています。
ここからも彼女がただ美しいだけでなく、いかに人間的に魅力ある女性だったのかがわかります。
その魅力とはいったいどのようなものだったのか。ぜひあなたの目でお確かめください!
鮮烈なモノクロ撮影は、映画『勝手にしやがれ』のラウール・クタール。音楽は、トリュフォーと名コンビと謳われたジョルジュ・ドルリューが担当。ジャンヌ・モローが劇中で歌う「つむじ風」の曲が印象深く心に残ります。
■映画『突然炎のごとく』あらすじー自由奔放で魅力的な女性像。トリュフォーが描く大人の三角関係
オーストリアの青年ジュール(オスカー・ヴェルナー)は、フランス青年のジム(アンリ・セール)と知り合ってすぐ意気投合し、親友となりました。
ふたりとも詩や小説を書いている文学青年で、のちに作家となるのですが、ジュールとジムの友情は絶対で、つまらぬことにも喜びお互いの違いを認め合う何でも相談し合えるドンキ・ホーテとサンチョ・パンサのような関係でした。
ふたりはあるとき、幻燈を見て、アドリア海の島にある美術公園の女神像の顔に魅了されます。
「こんな微笑みに出会ったことがない。出会ったらついていくだけだ」
啓示に満たされて、ふたりはパリに戻るのです。それからしばらくして、ふたりはカトリーヌ(ジャンヌ・モロー)という女と知り合い、胸をときめかせます。
彼女は、まさに「島の女神像の化身」のようだったからです。
先手をとったのはジュールでした。ジュールはジムに「カトリーヌに手を出すなよ」と言い、彼女との結婚を熱望して求婚し、ふたりはパリで結婚生活をスタート。
その頃ジムは、出版社と契約ができて作家生活の第一歩を踏み出します。
ジムはふたりが結婚した後も彼らのもとをよく訪れ、一緒に楽しい時を過ごしていました。3人で芝居見物に行ったある日、ジュールが芝居の議論に熱中すると、カトリーヌはなぜか突然セーヌ河に飛び込んで、ふたりを慌てさせます。
ふたりは自由奔放な彼女に翻弄されるも、彼女のことを愛していました。
やがて第一次世界大戦が始まり、ジュールとジムはそれぞれの祖国の軍人として戦線へ行きましたが、ともに生きて祖国へ帰ります。
歳月は流れ、ジュール家族の住むライン河上流の田舎に住む山小屋にジムは招待されます。その頃、ジュールとカトリーヌの間には6つになる娘もいましたが、ふたりの間は冷えきっていました。
ジュールは悩み、ジムに「彼女と結婚してくれ、彼女を愛してるなら遠慮はいらない」と頼みましたが、それはカトリーヌを失いたくない、自分も側に置いてほしいという条件でした。
3人の奇妙な共同生活が始まりました。しかしカトリーヌには、ほかにも男がいたのです。
ジムは瞬間しか人を愛せない彼女に絶望し、パリへ帰って昔の恋人とよりを戻しました。
数カ月後、カトリーヌは自分の運転する車にジムを乗せて疾走させ、ついに壊れた橋から転落してしまいます。
ジュールは、ふたつの棺を火葬場に運ばせました。これでカトリーヌは永遠にジュールのものとなったのです……。
■天才女優ジャンヌ・モローについて
ジャンヌ・モローは、仏パリ出身。
1928年、飲食業のフランス人の父と英国人ダンサーの母の間に生まれました。
18歳のときに観た舞台で演劇の世界に魅了され、女優を夢見るように。
フランス国立高等演劇学校で演技を学び、1948年にデビュー。
なかなか脚光を浴びずにいましたが、当時恋人だったルイ・マル監督の映画『死刑台のエレベーター』(58)でヒロインを演じ、一躍有名に。『恋人たち』(58)や『危険な関係』(59)でも人気を博します。
60年『雨のしのび逢い』では、カンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞するなどフランス映画界の看板女優として世界的に活躍。
フランソワ・トリュフォー監督作『突然炎のごとく』(62)など有名監督作品に立て続けに出演し、様々な女性心理を巧みに演じる女優として、国際的な名声を確立しました。
76年には監督にも初挑戦し、映画『ジャンヌ・モローの思春期』を発表、ドキュメンタリー『リリアン・ギッシュの肖像』(83)でもメガホンをとりました。
91年の『La vieille qui marchait dans la mer(英題:The Old Lady Who Walked in the Sea)』で、セザール賞最優秀女優賞を受賞。
このほか『鬼火』、『ビバ!マリア』、『エヴァの匂い』、『ニキータ』、『デュラス 愛の最終章』、『クロワッサンで朝食を』など数々の名作に出演。
映画界への多大な貢献を評価され、92年にはヴェネツィア国際映画祭で栄誉金獅子賞、97年にはヨーロッパ映画賞で生涯貢献賞、2000年にはベルリン国際映画祭で金熊名誉賞を受賞しています。
デザイナーのピエール・カルダンやトニー・リチャードソンなどとのロマンスは有名ですが、結婚は48年、ジャン=ルイ・リシャールと結婚して一児をもうけ65年に離婚。
77年にはウィリアム・フリードキン監督と再婚するも2年後に破局しています。
晩年も女優活動を続けていましたが、2017年7月、惜しくもこの世を去りました。享年89歳。
あのオーソン・ウェルズをして「地球上で最高の女優」と言わしめた天才女優でした。
全世界の女優達の憧れだったジャンヌ・モロー。
人生を人の2倍も3倍も彩り豊かに生きた女性だったと思います。
■映画『突然炎のごとく』作品紹介
原題:JULES ET JIM
原作:アンリ=ピエール・ロシェ
監督:フランソワ・トリュフォー
脚本・台詞:フランソワ・トリュフォー、ジャン・グリュオー
撮影:ラウール・クタール
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
製作国:フランス
製作年:1962年
ジャンル:ロマンス
映倫区分:G
カラー:モノクロ
上映時間:107分
■映画『突然炎のごとく』キャスト
ジャンヌ・モロー=Catherine
オスカー・ヴェルナー=Jules
アンリ・セール=Jim
マリー・デュポア=Therese
ヴァンナ・ユルビノ=Gilberte
サビーヌ・オードバン=Sabine
Boris Bassiak=Albert
Christiane Wagner=Helga
アートディレクション・編集・絵・文=諸戸佑美
本や広告のアートディレクション/デザイン/編集/取材執筆/イラストレーションなど多方面に活躍。