ワイン好きはハマるかも。酸味を楽しむ「サワービール」は夏にぴったり
クラフトビールやサイダーがすっかり定着したここポートランドで、今「次のお酒」として大人気なのが、酸味の効いたサワービール。今回は、地元の果物を丸ごと使い、オーク樽でじっくり熟成させてサワービールを作る「カスケード・ブリューイング」にその魅力を伺いました。日本でも購入可能なので、この夏トライしてみてくださいね。
■サワービールとは
サワービールとは、通常の酵母で発酵させたビールを、さらに乳酸菌や自然酵母のようなバクテリアを使って二次発酵させ、酸味を引き出したビールのこと。名前の通り、酸っぱいことが一番の特徴です。
ベルギーやドイツを中心に昔から作られてきたスタイルのビールですが、近年、クラフトビール作りが盛んなアメリカでも、さまざまな種類のものが生産されています。
今回ご紹介するオレゴン州ポートランドの醸造所「カスケード・ブリューイング」では、(1)オーク樽で熟成させること、(2)長期間熟成させること、(3)地元の旬の果物他、自然素材のみを使うこと、(4)漬物や味噌などと同様、植物性乳酸菌を使うこと、以上4点にこだわったサワービールを作り、それらを「ノースウエスト・サワー・エール」と呼んでいます。
■サワービールができるまで
カスケード・ブリューイング創業オーナーのアートさん
「カスケード・ブリューイング」のブレンディング・ハウスは、サワービールの発酵、熟成、ブレンドから、出荷までを行う広大な施設。ひとつで約6800リットルものビールが入る9つの巨大な木の樽(foudres)に加え、サワービールを熟成させる樽が1500も並んでいるのは圧巻です。
創業ブリューマスターのロンさんとリードブレンダーのケヴィンさん
ベースとなるビールは別の醸造所から
まず、サワービールのベースとなるレッドエール、ブロンドエールなど12種類のビールが、別の醸造所からこの施設へと運ばれてきます。このベースのビールとサワービールは、それぞれのビールに使われる菌が混ざらないよう、違う場所で作らなければならないのです。
酸味のカギは乳酸菌。ビール樽で最長24カ月熟成させる
ベースとなるビールに乳酸菌を加えて二次発酵させ、酸味を引き出したビールは、オーク樽の中で10〜24カ月もの間、熟成されます。
この樽は、バーボンやブランデー、ウィスキー、ワインなど各種のお酒の熟成に使われていたものや、木の香りの強い新品などバラエティに富んでいます。
さらに、樽の原料のオーク材も、フランス、ロシア、ハンガリー、アメリカ各地産と木材はもちろん、内部のトーストの度合いまで、さまざまな種類が揃っています。この樽の違いが、熟成過程でサワービールにそれぞれのアロマとフレイバーを与えるのです。
また、熟成過程でアプリコットやブルーベリー、ぶどう、イチジクといった果物や、シナモン、ナツメグ、ジンジャーといったスパイスを追加します。地元の旬の果物を使うため、夏場は、巨大なトラックで大量のアプリコットやチェリーが農場から運ばれてくるそうです。
ブレンドによって生まれる芳醇な味わい
そして、熟成された100種類以上の個性的なサワービールは、ブレンダーの手によって調合され、ブレンディング・タンクに移されます。
ここでベストの状態になれば、炭酸ガスを加えて生ビール用樽に入れてパブに届けるか、もしくは瓶詰めしてから糖と酵母を加え、暖かい部屋で炭酸ができるまで3から5週間再発酵させてから、ラベルを貼り、出荷します。
■ノースウエスト・サワー・エールの魅力とは
このように、完成するまでにとても長い時間と手間とコストがかかるノースウエスト・サワー・エール。果物の旬もあり、同じ商品は、1年に1度しか作れません。新商品の開発にも、最低1年は確実にかかるそうです。
リードブレンダーのケヴィンさんは、果物の出来や樽の具合、ブレンド、とさまざまな要素が絡み合い、複雑なアロマとフレイバーを生み出せることがサワーエールの面白さだといいます。
これまで、レッドエールをベースにチェリーを加えた「サング・ノアール(Sang Noir)2016」や、ブロンドエールにシャドルネグレープを加えたサワーエール、カカオニブとブラック・ラズベリーを使った試作品、カリフォルニア産マイヤーレモンとオレゴン産マリオンベリーを使ったLAの「Bruery」醸造所とのコラボレシピなど、いろいろと試飲させてもらいました。
そこで驚いたのは、一つひとつ色も香りも味わいも、すべて違うこと。特に小さなオーク樽で長く熟成されたものは、爽やかながら味に深みがあり、すっかり魅せられてしまいました。
■サワービールの美味しい飲み方
1.4度に冷やす
ケヴィンさんが教えてくれたサワービールの自宅での美味しい飲み方は、まず、冷蔵庫で4度ほどに冷やすこと。これで、栓を抜いたときに泡が噴きこぼれるようなことはありません。
2.グラスはチューリップ型を
そして、チューリップ型のグラスに注ぐこと。この形のグラスが最もサワービールの香りと風味を味わうことができます。
3.ゆっくり飲む
それから時間をかけてゆっくりと飲むこと。一口目の「酸っぱい!」というショックから徐々に舌が慣れ、酸味以外の風味も味わえることに加え、温度が上がると、また別の香りが立ち上がってくるからです。
また、必須ではありませんが、チーズやサラミ、ドライフルーツのようなおつまみがあると、味のコントラストが楽しめます。そして最後、最も大切なのは、「友達と一緒に飲むこと!」。
■日本でも飲める初心者におすすめのサワービール
サワービールは、クラフトビール好きはもちろん、通常のビールのような苦味がなく、芳醇な味わいが楽しめるため、ビールがそれほど好きでない人でもハマる可能性が高いお酒。特にワインを飲み慣れている方は要注意です。
ケヴィンさんがサワービール初心者におすすめするのは果物を使ったサワービール。果物の風味を感じられるため、初心者も飲みやすいのだとか。
「カスケード・ブリューイング」の商品では、レッドエールにチェリーを加え、ワイン樽で最長17カ月熟成させた「クリーク(Kriek)」や、ブロンドエールに生のアプリコットを加え、ワイン樽で最長14カ月熟成させた「アプリコット」がおすすめだそう。飲み慣れてきたら、「サン・ローグ(Sang Rouge)」のような果物を使わない長期熟成サワービールにも挑戦してほしいとのことです。
「クリーク」や「アプリコット」は日本にも出荷しているそうですよ。この夏、さっぱり美味しいサワービールを仲間と一緒に味わってみてはいかがですか?
■店舗情報
「カスケード・ブリューイング」は、ポートランドで1988年に創立した醸造所。2005年からサワービール作りを始めました。
2010年にオープンした「カスケード・ブリューイング・バレル・ハウス」は、常時26種類ほどのサワービールを味わえる、アメリカ初のサワービール専門パブ。
また、サワービールに合う食事はもちろん、サワービールを使った料理も楽しめます。ポートランドでサワービールといえばここで、最近は日本からの観光客も少なくないそうですよ。
カスケード・ブリューイング・バレル・ハウス(Cascade Brewing Barrel House)
住所:939 SE Belmont Street Portland OR
電話番号:(503)265-8603
営業時間:日曜から木曜 正午 – 11 pm、金土正午-0am
http://www.cascadebrewingbarrelhouse.com/