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男ひとりで支えきれる程度の人生じゃない——ドラマティックな女【キス・オブ・ライフ #6】

忘れられないキスはありますか。友情のキス、親子の愛情のキス、嬉し恥ずかしのキス、性愛のキス、心に刺さって取れないキス……。女性の人生を彩るキスを、インタビューによる実話度80%、創作20%でセンシュアルに描いたこの連載。最終回は「恋愛は人生の燃料」と言い切る、ドラマティックな多重恋愛女性のキスです。

男ひとりで支えきれる程度の人生じゃない——ドラマティックな女【キス・オブ・ライフ #6】

ドラマティックな女? そうなのかな、自分ではわからないです。

ただ、私はとても不安でいつも迷っていて、だから常に隣に私を全身全霊で支えてくれる男性がいないとダメなんです。かといって、どの男性とも1年続かないんですよ。しかも、なぜか一度に何人かと並行してしまう、”多重恋愛者”。

自分としては変なのりしろなんか作らないで、きちんと清算して次へ、って行きたいんですけれど、男性側に引きずられる形でズルズルと……。結婚は一度して、子供はひとり。その子供を連れて家を出て、離婚が成立したばかりです。付き合った人数ですか。20……30人? もうカウントは忘れちゃいました。

でもそんな私が、去年ボロボロになるくらいハマってしまった人がいるんですよ。私の離婚の原因になった人。その時は体重が40キロ切って、ゾンビみたいになりました。

私、自分の離婚後に初めて彼のフェイスブックを見て、「なんだ、ずっと二股だったんじゃない」って。どんな言い訳も通用しないほど深い仲を感じさせる女性との密着感のある写真が、時折アップされていました。その女性のフェイスブックページへ行くと「飼い犬の散歩」なんて投稿をしていて、ああ、ふたりで一緒に住んで犬も飼っているのね、って。

同棲相手がいるのに、私にも粉をかけていたんですよ。私、彼のせいで離婚までしちゃったのに、なんで気がつかなかったんだろう。多重恋愛者が、多重恋愛者に引っかかった、そういうことなんですね。

■男に「ロックオン」され、猛烈なアプローチを受ける人生

男に「ロックオン」され、猛烈なアプローチを受ける人生

芸大を卒業後、ギャラリーに勤務して美術品買い付けと販売PRに携わり、今は企業資本の小規模なミュージアムでキュレーターをしています。彼は取引先の方で、40代後半、10歳年上です。離婚したてで、家を出て独身だと言っていました。もともと親が画家という家庭に育った彼は、ヨーロッパで幼少期を過ごして日本へ。今はアートディレクター、芸術分野のコンサルタントとして、業界でも有名な人です。

あるイベントで初顔合わせしたら、そのあと彼からのロックオンと猛攻がすごくて。本当のことを言うと私、若い頃から何かと男性にロックオンされて猛烈にアプローチを受けるのは慣れているんです。

でも彼は中でもすごく変な人でした。押しは強くなく、スルッと懐に入ってくるような人。女の子に超マメで、頻繁に私のオフィスへ足を運んだり、送迎したり、土日もわざわざ顔を出したりと、視界の中に入ってくる。深い仲になるのにそれほど時間はかかりませんでした。

当時の私は既婚者で、しかも保育園児の母でした。ですが、暗礁に乗り上げていた結婚生活と、転職後のプレッシャーで、押しつぶされそうだったんですね。夫とグチャグチャした大喧嘩をして、泣きはらした顔で子供の手を引いて保育園へ行き、そのまま出勤する日々でした。そんな積み重なった不安から、まるで麻薬依存症になるみたいに彼との体の関係にはまっていったんです。

■嫉妬深い夫は、携帯履歴チェックをしながら私の脈拍を測った

嫉妬深い夫は、私の携帯履歴チェックをしながら私の脈拍を測った

元夫はもの足りないどころかモラハラ。アーティストなんですが、作家活動では食べられずに予備校でも働いています。稼げないのに見栄をはる。出会った頃からいつも私の方が年収は上で、私が食べさせているようなものでした。

異様に嫉妬深くて、独身時代から私の携帯を見て、喧嘩のたびに不倫を疑ってくる。他の男性と会話をしていても、たとえそれが親戚だとしても「会話の距離が近すぎる、お前は隙がある」と注意されました。洋服に色気があると捨てさせられるので、服を買うのも一緒に行って、問題ないかどうか確認していたんです。

昔から、帰りが遅くなると「携帯見せろ、渡せない理由でもあるのか」って、履歴をすべて見るんです。そして、履歴を遡りながら、私の首筋の脈を測り、心拍数が上がるのを確かめる。そして今度は体を求めてくる。「他の男としてきたあとなら、断るだろう」と思っているので、断りでもしたらそこから一睡もしないで「なんでだよ。理由を言ってみろ」って追及が始まる。この人は異常だ、もう無理だ、ってずっと思っていました。

子供がいたから、だましだまし8年続いたようなものです。結婚してすぐに離婚騒動があって、その仲直りのセックスでできた子を出産しました。今度はなぜか妊娠中に浮気を疑われて、「顔が似ていない」と、全然子供をかわいがってくれないんです。

子供の保育園の送迎をお願いしたりすると「だから子供なんか産むなって言ったんだ。転職だって反対していたんだよ。お前は俺に『迷惑はかけない』」って言ってただろ」と、暴言。アーティスト気質なんだって思っていましたけれど、よく考えると人格に問題があるだけだし、精神的なDVだったんですよね。

一方で、アートディレクターの彼はお金に糸目はつけないですから、私といいお店でいいものを食べて、クリスマスにはブシュロンで指輪を買ってくれて、コンラッドのベイビューの部屋でキスして。私が彼との関係にはまったのは、働かないモラハラ旦那への当てつけもあったんです。

■逃げ込んだはずの「頼れる年上の男性」は最後まで嘘ばっかりの人だった

逃げ込んだはずの「頼れる年上の男性」は最後まで嘘ばっかりの人だった

そんな旦那から子供連れて逃げたけれど、新しい部屋も家電も整えてくれたのは、アートディレクターの彼。彼の名前で、初期費用なく新生活を始めさせてくれました。延べ1000万近く、私につぎ込んでくれたと思います。これで、あとは離婚を成立させれば彼と一緒になれると思い、目を盗んでの関係が大手をふるって……のはずが、コミュニケーションが途絶えがちになるんです。

一流ホテルや三ツ星フレンチでのデートは今まで通り。会ってるときには最高なんですが、でもえも言われぬ不安、モヤモヤがありました。一緒にいるときはすごく楽しいのに、なぜか「じゃあまたね」と言ったら次に会う約束をするまで何日も音信不通。関係の余韻が一切なくて、仕事が忙しいという理屈だけでは説明できない。もしかして、別の生活があるんじゃないかって考えがよぎりました。

そう言えば、彼が「ひとり暮らししている」と言っていた家に入らせてもらえなかったんです。「僕の家なんかより、いいところに泊まろうよって」って。「離婚したときに子供を置いてきたから、彼らが週末に遊びに来てもいいように他の女性の匂いはさせたくない」なんてことも言っていましたね。私、大事にしてもらえてると思っていたけれど、そうじゃなくて誤魔化されていたんですよね。付き合い始めてから初めて、彼のフェイスブックを見てみました。そこで、彼の日常の写真を見て、やっと気づいたんですよ。「ずっと二股かけられていた」ってことに。

ちょうどその頃、彼の態度や言動に明らかな変化が生まれたんです。「僕は君の最高の元カレでいたい」なんて言い出して、どういう意味なのかと。ハッとして、聞きました。「ねえ、あの女性と入籍したか、子供ができたんじゃないの?」「……なんでわかったの?」よりによって、両方だった。「あの女性に子どもができて、入籍」です。少しだけ毒を吐かせてもらうと、清純そうな、素朴でダサい女の人なんですよ。ああいうのが本当は好きなんだ、ってがっかりしました。

最後の最後まで嘘ばっかりだった彼が用意した家に、子供と住んで。あーあ、大それたことやっちゃった、子供の人生変えちゃった、って……食べものが喉を通らなかった。

■でも恋愛は人生の燃料だから

でも恋愛は人生の燃料だから

友人には、「あなたは高い女だから、普通の男を狂わせちゃうのよ」と言われました。例えば肉屋のような見当違いなところの店頭でシクラメンがほしいと言い出す客のようだ、と。肉屋のおじさんは困ってしまうけれど、でも狂った客があまりに美しいから花屋に買いに行って差し出して、あなたが喜ぶのを見て彼も「これはおかしい」と知りながら何度もあなたのリクエストに応えて、狂っていくんだ、って。

今までも、ほんの少し付き合った人がずっと私のことを忘れられなくて、その人の婚約者に怒鳴り込まれたことがあります。別の男性は、私と別れたのが辛すぎて何股もするようになってしまったり。その人は家の下でブーケ持ってて待っていたり、ポストに消印のない手紙が入っていたり、家の下のコンビニで”偶然”立ち読みしていて会ったりと、ストーカーまがいのことまでして、私のことを好きでいてくれた人です。彼を多重恋愛者にしてしまったのは私なんですよね。「だから、いちいちそういうのが”ドラマティックな女”なんですよ」って? そっか、ようやく理解できました。

ものすごい恋愛体質です。恋愛のせいで仕事が手につかなくなる。でも自分から狩るタイプで、向こうから来ると嫌になる。邪(よこしま)な恋愛には対価を求めるから、20代のころはすごく年上のおじさんに数百万の手切れ金を置いていかれたこともありました。基本、恋愛は燃料。別れる男は、私の人生における「彼らの役目」を終えたんだと思うんです。

いろいろやってしまったけれど、でも今、頭が冷えたらだんだん冴えてきて、私は仕事も子供も家も全部持っているんだと思えていて。あとは車でもあれば完璧だな、養う元夫もいなくなったことだし、レクサスあたりでも買おうかって考え始めました。こんな多重恋愛者の私の人生、男ひとりに支え切れる人生であるわけがないんですよね。車を買ったら、子供を連れて海へ行こうと思います。葉山に、いま新たにアプローチしてきてくれている別の男性の別荘があるので。

河崎 環

コラムニスト。1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。2000年より子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Web...

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