ダンス公演『ふしぎの国のアリス』――「たいくつ」を「どきどき」に変えてくれる不思議な世界へ
身体の動きで感情やストーリーを表現していく「マイム」にセリフを取り入れ、ダンサブルで不思議な空間をつくりだすパフォーマンスカンパニー、カンパニーデラシネラ。新国立劇場で初演された「ふしぎの国のアリス」は、演じ手の身体と美術の絡み合う独特な美しさ、エスプリの効いた演出が印象的な、子供も大人も楽しめるダンス作品です。
こんにちは、島本薫です。
空に雨雲の増えてくる6月、すべてを忘れてどこかに出かけたくなることはありませんか?
ほんの少し日常を離れて、違う世界に触れたくなったときは、身近な不思議の国、劇場に足を運んでみるという手があります。
本日は、パントマイムの動きにセリフを取り入れた独自の世界を創り出し、今もっとも見逃せない作品を送り出しているカンパニーデラシネラの魅力を、2017年6月に新国立劇場で初演されたダンス公演『ふしぎの国のアリス』からお届けします。
■「たいくつ」が「どきどき」に変わる――笑いあり、驚きあり、何でもありの「アリス」の世界へ
イラスト:Ohno Mai
「アリスはなんだかとっても退屈してきました(Alice was beginning to get very tired……)」。
これは、あの有名な物語『不思議な国のアリス』の冒頭です。ちょっぴり意外じゃありませんか? 実はアリスの冒険は、そんな退屈な日常の1コマから始まります。
もしかしたら、退屈と退屈のはざま、隙間なくぴったりと結びついているはずの世界のどこかには、不思議の国への落とし穴が開いているのかもしれません。
カンパニーデラシネラの『ふしぎの国のアリス』は、幕開けから見事な動きでこの「ふしぎ」を、わたしたちの目の前に取り出して見せてくれます。
では、どんなふうに、わたしたちを「ふしぎの国」へ連れていってくれるのか……? 公演の内容から、その見どころを解き明かしていきます。
■言葉に頼らない豊かな表現世界『ふしぎの国のアリス』の魅力とは
見どころ1:身体の動きが作り出す美しさとおもしろさ
不思議の国の入り口はウサギ穴。でも、穴の中をどこまでも落ちていくって、どうやって表現しましょうか。
落ちたところで暗転して、穴の底に着いたところからまた始める?
「ああ、どんどん落ちていくわ」って、セリフで説明する?
フライングを使ってみる?
これを、主としてキャストの身体の動き=「マイム」で表現するのが、デラシネラなのです。
穴の中を、ゆっくりと、どこまでも落ちていく――その感覚が視覚的に表現され、感覚として伝わってくる。かと思うと、一方では原作の「アリス」のもつ不可思議な言葉の世界が、時には音楽で、動きで、セリフで立ち上がり、理性をゆさぶる。目も耳も舞台にくぎづけになって、胸のどきどきが止まりません。
観る人の想像力をかきたててやまない、不思議な美しさ。それも、ただ美しいだけじゃなく、どこか「心のざわめき」を呼び覚ますような何かをもって訴えかけてくる。それが、デラシネラの舞台の一番の魅力です。
しかも、演技するのは人だけではないのです。
見どころ2:演じるのは人だけじゃない――小道具も大道具も雄弁に語り、華麗に踊る!
ここでは、なんと小道具や大道具もパフォーマーのひとつ。
ウサギ穴の底でアリスがたどり着いたのは、ずらりと扉の続く長い廊下でした。ここではキャストとともにいくつもの扉が舞い踊り、アリスを取り巻く空間が次々と変化していきます。
また、大きくなったり小さくなったり、目まぐるしく変わるアリスの大きさを表現するにも、大小道具が大活躍。
小さすぎる扉から顔を覗かせたり、大きな鍵に手を伸ばそうとがんばったり。そうかと思えば、アリスその人も一体誰なのか、誰がアリスなのかもわからなくなってくるような仕掛けも施され、わたしたちをふしぎの国の奥へ奥へと誘い込みます。
扉だけではありません。シンプルな椅子が、机が、キャストと渾然一体となって創り出す造形美は、圧巻そのもの。命ある人間と、無機質なモノたちが醸し出す一瞬一瞬の美しさには、時に息を呑むような危うさもはらんでいて、一時も目が離せなくなるのです。
見どころ3:大人も子供も笑って、楽しめる「アリス」という世界
美しさの中に、笑いをしのびこませるのがデラシネラ流。
それも、「くすっ」「あはっ」という笑いから、チェシャ猫のように「にやり」とさせる笑いまで、さまざまな笑いの要素が散りばめられています。
キャストの動きと間が生む笑い、時に挟まれるセリフがアクセントとなって生じる笑い、もちろん、大小道具の「演技」が生み出す笑いも忘れてはなりません。言葉に頼らないことで、日本語で「アリス」を読んだときにはとらえきれない不可思議な「ずれ」のおもしろさが、いきいきと浮かび上がってくるのです。
今回の「ふしぎの国のアリス」は、新国立劇場の「夏のこども劇場」の対象作品になっていることもあり、客席には親子連れが多いのですが、幼い子供たちがさまざまな笑いをよくとらえているのが印象的でした。
大人が思うより、子供は不条理な笑いというものをわかっているのかもしれません。また、子供たちの屈託のない笑い声に誘われて、わたしたち大人も、笑いを誘うシンプルな動きを大いに楽しむことができました。
イラスト:チャーハン・ラモーン(劇場のロビーでは、こちらのイラストが入ったTシャツやボールペンなどのグッズも販売されていました)
■劇場に行くときに忘れてはいけないもの、それは「幼な心」
不思議の国の入り口がウサギ穴だったことはよく知られていますが、物語の終わり近くに、こんな場面があるのはご存知でしょうか。
ハートの女王の法廷で、にわかに大きくなるアリス。すると、隣にいたねむりねずみがこう言います。
「ここで大きくなるなんて、そんな権利はないんだよ(You’ve no right to grow here.)」
この「大きくなる(grow)」は、身体が大きくなることはもちろんですが、同時に「大人になる」という意味にもとれます。原文の「ここ(here)」はイタリック体になっていますし、「ここ」はただ法廷というよりも「不思議の国」そのものを指すのかもしれません。
あまりに「大人になりすぎる」と、不思議の国にいられなくなる。そして、あまりに分別臭く毎日を過ごしていては、ときめく心の回路まで錆びてしまいそう。
そんなときに、カンパニーデラシネラの舞台は、頭と心を目一杯揺さぶってくれます。人間の身体って、こんなにすごいんだ。こんな表現ができるんだ、とその光景が心に焼き付いて離れないほどに。
白ウサギのごとく時間に追われ、日々の暮らしがモノクロームになってきたと感じたら、劇場に出かけてみませんか。忘れずに持っていくのはふたつだけ――チケットと、あなたの中の幼な心、「不思議を楽しもうとするきもち」だけ。それさえあれば、新しい世界の扉が開くのですから。
劇場の入り口には、アリスになった気分で写真を撮れる場所もありました
カンパニーデラシネラ:今後の公演予定
■「WITHOUT SIGNAL! (信号がない!)」
(※日越国際共同製作プロジェクト KAAT×小野寺修二(カンパニーデラシネラ))
日程:2017年9月29日~10月1日
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
■「変身」
(※演出:小野寺修二(カンパニーデラシネラ))
日程:2017年11月18日~12月10日
会場:SPAC‐静岡芸術劇場SPAC
■「ロミオとジュリエット」いわき公演
日程:2017年12月2日~3日
会場:いわき芸術文化交流館 小劇場
■「椿姫」「分身」
(※「CoRich舞台芸術まつり!2016春」グランプリ受賞記念公演)
日程:2018年3月16日~21日
会場:世田谷パブリックシアター
(参考)カンパニーデラシネラOFFICIAL WEB SITE
http://www.onoderan.jp/website/