都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。
(詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』より「青色の詩」)
現代東京のリアルな空気を感じる -『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 古川ケイの「映画は、微笑む。」#11
2016年5月に発売され、現代詩集としては異例の27000部の売り上げを記録した詩人・最果タヒによる詩集「夜空はいつでも最高密度の青色だ」。この詩集を、映画『舟を編む』の石井裕也監督が実写化。2017年現在の東京を舞台に、不器用ながらもひたむきに生きる二人の男女の孤独と希望が、観る者の胸を切なく、静かに打ちます。
◼︎原作を書いた詩人・最果タヒって?
2008年、京都大学在学中に、女性誌人として最年少となる21歳で、第13回中原中也賞を受賞した詩人・最果タヒ。
彼女の詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、現代詩集としては異例の27000部の売り上げを記録しました。
◼︎『舟を編む』の石井裕也が詩集を映画化!
本作はこの詩集を元に脚本が作られるという大胆な試みから誕生しました。
監督・脚本を務めたのは弱冠33歳の石井裕也監督です。
『川の底からこんにちは』(09)では、日本映画史上最年少の28歳で第53回ブルーリボン監督賞を、『舟を編む』(13)では、第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した同監督による本作の脚本は、東京という街で今を生きる若者の気分を、余すところなくすくい取ります。
恋愛映画としてだけでなく、都会で生きる人なら誰でも共感し、入り込める作品に仕上がっているのは、これまでも多数の人間ドラマを手がけてきた同監督の手腕によるものでしょう。
◼︎気になるストーリーは?
古いアパートで一人暮らしをしながら、建設現場の日雇い労働者として働く慎二(池松壮亮)。
同じ現場で働く、同僚の智之(松田龍平)や岩下(田中哲司)、フィリピン人のアンドレスらと日々つるみながら、どこか漠然とした不安を胸に抱えて過ごしていた。
そんなある日、智之に誘われて入ったガールズバーで、慎二は美香(石橋静河)という女性と出会う。彼女を口説こうと必死になる智之に、作り笑いを浮かべる美香。
実は美香は、昼間は看護師として病院に勤務しながら、夜の間だけガールズバーでアルバイトをしているのだった。
その夜の帰り道、深夜の渋谷の雑踏の中で、たまたまひとりで歩いて帰る慎二を見つけた美香は、「東京には1000万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だね」と彼に声をかける。
路地裏のビルの隙間から、青白い月を見上げるふたり。美香もまた、慎二と同様に胸に孤独と虚しさを抱えながら東京で生きていた。
そんな美香と、なんとかデートにこぎつけたことを慎二に自慢する智之だったが、ある日建設現場で倒れ、そのまま帰らぬ人となる。
智之の葬儀場で美香と再会する慎二だが、言葉にできない感情を前に、どこか距離を置くような会話を続けてしまう。
その後も過酷な労働を続ける慎二は、ある日建設現場で怪我をし、治療に行った病院で美香と2度目の再会を果たす。
「また会えないか」と聞く慎二に、「まぁ、メールアドレスだけなら教えてもいいけど」と答える美香。
夜、帰宅して家計簿をつけながら、慎二はふとつぶやくーー「会いたい」。
この想いは恋なのか? 不器用でぶっきらぼうなふたりの距離は近づいては離れ……。
◼︎見どころは、主演ふたりの絶妙なやりとり
本作の見どころは、何と言っても慎二と美香を演じた主演の池松壮亮・石橋静河のふたりでしょう。
東京という、少し生き辛く、それでも何かを感じさせる場所で、日々を生きる若者たちの不安や孤独、絶望と希望を、全身で演じきっています。
路地裏のビルの隙間から青白い月を見上げて「嫌な予感がするよ」とつぶやく慎二。「わかる」と答える美香。「でも、綺麗だ」と続ける慎二。
ふたりの飾り気のないやりとりが、よくある恋愛映画とは一線を画す繊細さを表現しています。
互いに距離を置くかのように発せられていた会話が、いつしか互いの距離を埋めるために紡がれていく中、物語の終盤で、ふたりはある奇跡を目撃します。
ふたりの間には、甘さやドラマティックな展開は存在しませんが、だからこそ逆に、恋や愛を信じたくても信じられない、若者たちの切羽詰まったリアルな誠実さがあります。
5月13日より一部の劇場にて先行公開され、評判を呼んでいる本作は、いよいよ5月27日より全国公開となります。気になる方は、お近くの劇場をぜひチェックしてみては。
◼︎『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』公開情報
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』
5月13日(土)より新宿ピカデリー、ユーロスペースにて先行、5月27日(土)より全国公開
監督・脚本:石井裕也『舟を編む』
原作:最果タヒ(リトルモア刊「夜空はいつでも最高密度の青色だ」)
出演:石橋静河、池松壮亮、市川実日子、松田龍平、田中哲司
配給:配給:東京テアトル、リトルモア
上映時間:108分
公式サイト:http://www.yozora-movie.com/
(C)2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会
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