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結婚は「誰もが見るドラマ」じゃなくなった【小野美由紀】

結婚は「誰もが見るドラマ」、たとえば昔の月9みたいなドラマではなくなった。人々のライフスタイルや人生の選択は多様化し、今や「結婚=して当然のもの」ではないからだ。小野さんの連載【オンナの抜け道】#2では結婚をテーマに書いていただきました。

結婚は「誰もが見るドラマ」じゃなくなった【小野美由紀】

■おじさんはなぜ、独身女性を見ると必ず「結婚しないの?」と聞くのか

駆け出しのライターだった頃、仕事をしていた週刊誌の編集部(40代から50代のおじさんがほとんど)では毎月のように飲み会があった。

「なんでこんなに飲み会ばっかりやるんだろう。つまんない飲み会やるぐらいなら、好きな相手と個人的に飲めば」と思いながらもしぶしぶ参加していたのだが、あまりに毎回毎回、
「小野さん、結婚まだなの?」
「興味ないの?」
「相手いないの?」
と質問されるので、うんざりした私はあるとき、こう切り返してしまった。

「あの、なんでおじさんって、若い子と飲むと必ず結婚について聞くんですか? 他に質問することないんですか?」

私は若かった。何を言っても許されると思っていた。それで仕事を干されても別にいいや、と思っていた。

案の定、場は凍りついた。私の直属の編集者のおじさんは、目を白黒させた後にふと、切なそうな顔をして、「……話題が、他に、ないんだ」とポツリと言った。

それを聞いて、私はすごく申し訳ない気持ちになった。

そっか。おじさんって、話題がないんだ。だからいつも判で押したように同じ話題を繰り返すんだ。

この人たちは決して何もセクハラしたくて、もしくは若い女の子を困らせようとして聞いてくるんじゃない。単に、若い子と話したくて、でも仕事に忙殺されて、愚痴か同僚の噂話、他社の悪口くらいしか話題がないから、どうにかこうにか、人類最大の共通項である「結婚」を持ち出すんだ。たとえ自分がどんなしょぼくれた結婚生活を送っていようと、一応は経験あるし、語れるし、ということで。

そう、おじさんたちにとって、結婚は「月9のドラマ」みたいなものなのだ。
大昔、同じテレビドラマを誰もが見ていた時代、火曜日の午前中には「昨日の、見た?」で必ず盛り上がれた頃の。

■結婚は今や『水戸黄門』。全員が見ているドラマじゃない

しかし、結婚は今や「誰もが見ているドラマ」ではなくなってしまった。

性的嗜好は人それぞれだという認識も少しずつ広がっているし、結婚しても、子供を作る人作らない人、夫婦で同居する人しない人、と形態は様々。ひと昔前までは相手のプライベートに踏み込むには良いとっかかりだったのかもしれないけれど、生き方が細分化・多様化している昨今、ベストな話題ではないのは明らかである。

それはコンテンツ消費に関して個人の好みが細分化し、超メガヒットともいえるドラマ以外「あれ見た?」では通じなくなっているのと同じである。ロンリープラネットしか見ない人もいれば、ネットテレビしか見ない人だっている。テレビ番組自体見ない人だっている。それなのに「みんなが見ている」前提で口に出せば、「はぁ?」と返されるのは当然だろう。

言うなれば結婚は『水戸黄門』。誰もがその存在を知ってはいるものの、全員が見てるものじゃないし、人生で一度も見たことがなくったって、何らおかしくないドラマでしか、もはや、ないのだ。

■欲望のランキングは人それぞれ。結婚が「17位」でもおかしくない

最近「結婚願望はあるんですか?」とよく聞かれる。31歳で未婚なのだから、まず願望の有無から聞いたほうがいいだろうという配慮なのだろう。聞かれるのは別にいいが、この聞き方ひとつで相手の成熟度が透けて見えるというか、意地の悪い言い方だけど、その後もその人と付き合いを続けるかどうかを測ってしまう。

「結婚して当然」というような聞き方の人は、もうその時点でダメですね。恐る恐る聞いてくるような人に対しては「あー、気を使われてるなぁ」という気持ちと「そんなん聞いてどうすんの」という気持ちが半々。

答え方にも以前は気を使っていたが、最近は面倒くさくなって「ああ、私、宇宙と結婚して作品という神の子を産んでるんで」と答えると「あ、この人はやばい人だ」と思われて一切結婚(及びプライベート)に触れられなくなるので塩梅がいい。

真面目に答えるときには 「ありますけど、他の欲望が大きすぎてランキングでいうと17位くらいですね」と言うと、「低っ!」と笑って納得してもらえる場合がほとんどである。

そう、欲望のランキングは本当に人それぞれだ。コンテンツの消費に関して、テレビ・スマホ・ゲームアプリ・ネットと細分化・多様化が起こっているように、ライフスタイルも様々。結婚はもはや、誰もが見ているドラマじゃない。

できればそっとしておいてもらうか、もしくは聞くにしたって、結婚に興味のない人がいても当然、という認識の元でお願いしたいものです。

そして私、できれば同じく結婚の優先順位を「第17位」くらいに思っている人と、人生の余力の1%も使わずにサクッと結婚したいんですけど、誰かいませんかねぇ……。

小野 美由紀

作家。1985年東京生まれ。エッセイや紀行文をWeb・紙媒体両方で数多く執筆している。2014年、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)15年、エッセイ『傷口から人生。~メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった』(幻...

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