「半農半X」という生き方は実現できる?リアルな体験記を読んでみた
半農半Xという生き方が注目を集めています。半農半Xのライフスタイルを描いたコミックエッセイ『田んぼ、はじめました。』は、半農半Xを実戦したい人はもちろん、農業に多少なりとも興味のある人にとって、とても面白い1冊となっているのでご紹介します。
■半農半Xという生き方
近年耳にするようになったライフスタイル「半農半X」。ここ数年で知った方もいるかもしれませんが、「半農半X研究所」代表の塩見直紀さんが「自給自足を少しでも試みながら、自分の生きがいとなる仕事を同時に追求する」という、21世紀の新しい生き方、暮らし方として、1994年頃から提唱してきたものです。
気になるけれど、ほんとのところ、そんな生活って実現できるの……? 日々忙しく働いている感覚があると、たとえ半農半Xに興味があったとしても、農業と仕事を実際に両立できるのか、気になるところです。そんななか、半農半Xのリアルを描いたコミックエッセイ『田んぼ、はじめました。』が発売に。
著者のとびやあいさんの本業は栄養士。3.11の震災時、福島県に住んでいたとびやさんは、放射能の関係で田植えの授業が見合わせになった母校の小学校から、「子供たちにお米の大切さを教えてほしい」と依頼されます。
その仕事を引き受けたものの、授業の準備をするうちに「お米の大切さって……何を話せばいいんだろう?」と思い悩み、自分はお米のことを意外と知らないのではと気づきます。もっとお米のことを知りたい――そうして動き出したのでした。
■半農半X実践者の田んぼオーナーとの出会い
とびやさんはネット上で情報を集めるうちに、実は田んぼをやるのってハードルが高いのでは、と行き詰まってしまいますが、あるラジオ番組が突破口に。「仕事をしながら農作業をする半農半X」の話を聴き、そこで紹介されていた飲食店へ出向きます。
その店で飲んだ、無農薬で育てたお米からできた“自然酒”の美味しさに驚いたのをきっかけに、店主から酒蔵を紹介され、酒蔵見学ツアーへ参加することに。当主とお米について話をするなかで、紹介を受けてたどり着いたのが、とびやさんの人生を変えることになる、某米農家の代表を務める男性でした。
栄養士の資格を持っている彼は、大学の非常勤講師や塾講師として働きつつ、田んぼを管理している、半農半Xのライフスタイルを実践している人。田んぼ見学体験を経て、入会を決めたとびやさんの田んぼライフは、そこからスタートしたのです。
■大変だけど、発見と経験が日々楽しい。半農半Xというスタイル
普段お店でお米を買い、普通に食べているだけでは、お米が店頭に並び私たちの手元に届くまでの過程は想像しづらいのではないでしょうか。本書では稲作りの基礎から田植え、稲刈り、脱穀まで、細かいプロセスが丁寧に描かれています。
「稲作りの工程ってこんなにいくつもあるの?」「ビニルハウスで細かく温度調節しながら1ヶ月近くも置いておくの?」など、最後の最後まで発見がいくつもありました。
お米作りを通じて広がっていく世界、未知との遭遇に感動するとびやさんでしたが、なかなか思い通りにはいかない、ハードな現実と向き合うことも少なくありません。
人間を相手にするよりも、自然という人のコントロールが及ばないものを相手にするほうが、何倍も難しいことではないかと感じました。ある程度経験を積み、慣れている本業とは比べ物にならないほど、苦労したこともあったはず。
■新しいことにチャレンジしようと思わせてくれる
それでも「美味しいお米を自分で作る」という目標に向かって、一年に渡って初めてのお米作りに奮闘し、ついに収穫祭を迎えます。自分ひとりで管理した田んぼから約4kgのお米を収穫し、仲間や家族と食べながら、感動を味わったのでした。
半農半Xに興味のある人はもちろん、半農半Xまではいかなくても、農業体験に挑戦してみたい人、お米のことを知りたい人が読んでも引き込まれる作品です。
生活とは切っても切れない食の裏側、実は全然知らないなあと気づかされたり、自然に触れたいなと思わされたり。今いる環境をほんの少し変えたり、新しい世界に一歩踏み出してみたり。行動するきっかけを与えてくれる1冊でした。
著者 とびやあいさんプロフィール
福島県出身。『田んぼ、はじめました。』で漫画家デビュー。