過去を振り返って自信に変えることは、疲れたときの対処法になる
疲れたときの対処法を知りたい人へ――。前を向いて一歩ずつ進みながらがんばっている。そうして未来に向かう途中で「過去」を振り返ってみるのはどうだろう。今の自分がいるのも、明日の自分をつくるのも、これまでの積み重ねだから。がんばるあなたに自信を贈るショートストーリーです。
前を向いて進むのに疲れたときの対処法は、ひと息ついて、振り返って、歩いてきた道のりを思い出すことかもしれない。
「この1年、どうだった?」
前の会社でいっしょに仕事をしていた先輩と、久しぶりに会っている夜。わたしは1年前に会社を辞めて転職した。先輩はわたしが退職する少し前に辞めて、起業した。
お互い別々の道に進んだけれど、ずっと同じチームで仕事していたわたしたちは、ときどき連絡を取り合っていた。ただ、顔を見て話すのは辞めて以来。
■壁を乗り越えた過去を思い出す
「最初の頃、ほんとに失敗だらけだったよな。俺、何度も驚かされた記憶がある(笑)」
「学生」から「社会人」になったわたしには、何もかもが初めてのことばかりだった。
電話の対応、メールの書き方、名刺の交換。商談なんてもちろんやったことがない。部活やサークル、アルバイトで磨いたと自己アピールしたスキルは、ほとんどが役に立たなかった。
「お客さんへの提案も上手くいかなくてさ。でも、何回も練習したよな」
そう、早く結果につなげたくて、たくさん商談の練習をした。話す内容も毎日練り直した。業界ごとの特徴も細かく調べて、まとめて、分析した。
できるようになりたくて、周りに追いつきたくて、必死だった。
やるべきことを丁寧に積み重ねているうちに、契約につながっていった。先輩は、「コツコツが、勝つコツだよ」ってずっと教えてくれた。
失敗も壁も、反省しながら考えながら、行動して乗り越えたんだ。
■苦労が花開いた過去を思い出す
「チームで賞をもらったのも、嬉しかったな」
はい! とわたしは満面の笑みを浮かべる。
当時、わたしたちは5人の小さなチームだった。性格はバラバラで、みんなあまり器用じゃなくて、すれ違うこともぶつかることもあった。
もちろん、ぶつかった理由は憎しみじゃなくて、相手への思いやりとか期待とか、そんなのだったと思う。
忙しい日々の中でみんなが一生懸命だった。
お客さんのために何ができるだろうってよく話し合った。いい仕事をすることに力を注いだ。メンバー同士で理解し合うことに、時間を惜しまなかった。
それぞれの役割を果たすために、チームのために、全員が本気だった。
がんばりが報われて、もらったチーム賞。社内での小さな賞だったけれど、みんなで声をあげて喜んだし、わたしはちょっと泣いた。
仲間と団結して同じ方向に進んでいくことは苦労の連続だったけれど、まっすぐに向き合って、花開かせることができたんだ。
■選択して進んできた過去を思い出す
「辞めるって聞いたときは、びっくりしたよ」
会社が好きだった。先輩もチームも同期も、仕事だって好きだった。
大変なことも多かったけれど、お客さんに喜んでもらえることがどんどんやりがいになっていった。辞めなきゃいけない理由なんて、傍から見たらなかったと思う。
ただ、入社して5年ほど経った頃、「挑戦してみたいこと」ができた。上手くいく保証なんてなかったけれど、飛び込んでみたい世界があった。
気持ちはどんどん膨らんだ。
悩んで、悩んで、大好きな場所と慣れ親しんだ環境を手放すことに決めた。
最終出社日、花束をもらってエレベーターに乗って、決意したはずなのに涙がしばらく止まらなかった。でも、その選択をしたからこそ、やりたいことを少しずつやれている自分が今ここにいる。
「何、にやにやして」
「わっ、すみません(笑)転職して最初の頃は戸惑うことばかりで。これで良かったのかなって思うこともあったんです。
前の会社、みんな優しかったな、楽しかったなって。最近は担当する案件も多くなって、ちょっと疲れてたんですが……
今の自分、嫌いじゃないです」
うん、と先輩はうれしそうに笑ってくれた。
■疲れたときの対処法は、ときに振り返ること
前を向いて進むこと、未来を見ることが、美しいことなのかもしれない。
でも、たまに思い出して、たぐり寄せる過去が、自分を救ってくれること、自分に教えてくれることがある。
壁を乗り越えて、何かを選んで、手放して、ここにたどり着いたんだなって。疲れたときはこれまでを振り返って、自信につなげよう。
思い出せる「過去」があることは、人生を豊かに生きてきた証なのだと思う。
ライター/物書き