華やかなパリは魔法がかかった街【高田賢三】
高田賢三さんがパリの地を初めて訪れてから50年以上のときが経った。でも、不思議なことに、パリの街並みは時代が移り変わっても、ずっと美しさを保ち続けている。そんなパリという街に高田さんが感じることは。
フランス、とくにパリは、街の風景すべてがアートであり、街全体が美術館という感じさえする。
感覚的にも感性的にも街が美しい。時代が流れていっても、まったく変わらない景観。フランスの国の美意識なのだと痛感する。
それは外壁を崩さずに街の美しさを保っていることからも言える。ライトアップもネオン的なものではなく、電球色がやわらかさを醸し出している。
昼間の街も夜の街もその美しさに感動さえするのだ。近代的な建物ができても美観は損なわないよう、常に意識的に構想され、街自体がまるで絵画のようだと感じられる。
そして、カルーゼル広場に建つカルーゼル凱旋門からチュイルリー公園、コンコルド広場さらにエトワール凱旋門が一直線に作られている。
カルーゼル凱旋門のアーチと凱旋門のアーチの真ん中に夕日が沈むと聞いたことがある。パリの街づくり政策は本当に緻密でありながら、そこにはアートが潜んでいて魅力的だと。
■冬のパリの街並みは、イメージと違ったけれど
僕がパリに初めて到着したのが、1965年の元旦。マルセイユに船で到着して、汽車でパリに着いた。真冬の夜だったので、暗く、寒々としていて寂しかった。
翌朝ホテルの窓を開け放つと、パリ独特のグレーの風景が眼前に広がった。憧れのパリに着いて、想像していた街とはかなりかけ離れていた。
でも、花が咲き始める春になる頃、それは覆された。皆さんも知っているであろう、サンジェルマンのCaféにエッフェル塔。モンマルトルの丘、ルーブル美術館、オランジュリー美術館、グラン・パレなど。モードな人たちがどこからともなく、街に繰り出してきた感じさえあった。
また、パリ近郊に位置するベルサイユ宮殿。幾何学模様の本当に美しく設計された宮殿と庭園。とある夏の日、僕の友だちがベルサイユ宮殿へ誘ってくれた。
■春のパリの街並みは、華やかで魔法がかかったよう
宮殿の前の運河の見える階段に座り、輝くような夕日を見ていたのを覚えている。その後、夕日は瞬く間に運河に落ちてきた。まさかと思うほどの美しさだった。
そして、そのとき、友だちが「後ろを振り返ってみて!」と言うので、振り向いた瞬間、宮殿の「鏡の間」が夕日で真っ赤に染まっていた。あまりにも美しい光景に僕は息をのんだ。
そこにもまた、設計者の深い想いを見た気がして、僕はフランスの美の奥深い世界を痛感した。それは、僕を夢見心地にさせてくれるひとときだった。
僕の家からはエッフェル塔が一望できる。そして夕日も。映画を見ているような感覚になってしまう。
時空を超えてもパリの街は変わらない。そしていつも僕に感動を与えてくれる。そんな華やかなパリは、やはり魔法の街なのだと思う。