『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』を観て考える「コントロール不可能」な女の幸せ。- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#2

■『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』（レベッカ・ミラー監督）

DRESS読者のみなさんに本日おすすめしたいのは、『50歳の恋愛白書』のレベッカ・ミラー監督が贈る最新作『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』です。

レベッカ・ミラー監督ってどんな人物？ 夫はダニエル・デイ＝ルイス！

1962年、アメリカ・コネチカット州で、劇作家の父と写真家の母の間に生まれたレベッカ・ミラー監督（現在54歳）。

1980年、名門・イェール大学に入学し、絵画と文学を専攻していた彼女は、卒業後にドイツのミュンヘンで数年を過ごした後、1987年に帰国し、ニューヨークのニュースクール大学で映画を専攻しました。

ニュースクール大学は、本作のヒロイン・マギーが働く大学として本編にも登場しています。

その後、舞台女優としてデビューした彼女ですが、その後は脚本家・映画監督としてのキャリアをゆっくりと重ねていきます。

夫は『マイ・レフトフット』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』でアカデミー主演男優賞を3回受賞したダニエル・デイ＝ルイス。彼との間に、2人の息子をもうけています。

『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』はどんなストーリー？

本作のタイトル「マギーズ・プラン」は直訳すると「マギーのプラン」。NYの大学で働く30代の女性マギーが考えついた、とあるプランのことなのですが……。

このプランとはいったいどんなプランなのでしょうか？

マギーのプラン1．男友達から精子をもらって、シングルマザーになる！

大学で、アーティストの学生と企業などのビジネスを結びつけるコーディネータとして働く主人公・マギー。

これまでの恋愛が6ヶ月以上長続きしたことがなく、30歳を過ぎても結婚の兆しがまったくないことから、優秀な男友達から精子をもらって、シングルマザーになる決意をします。

白羽の矢が立ったのは、元は理系の数学者で、現在はピクルス屋のベンチャー企業を営む変わり者のガイ。

子どもが生まれても、子育てには一切関わらないという約束のもと、人工授精の協力を依頼します。

一見、突拍子もないこのプランですが、思わず「それもアリかもなぁ……」と頷いてしまいました。

筆者の周りでも「結婚したい」「（結婚はしてもしなくてもどちらでも良いけど）子どもがほしい」といった声はよく耳にします（もちろん、そうでない方もいますが）。

一方、周囲の男性陣からは「女性から結婚したいとか、子どもがほしいと聞くと、自分のことが好きなのではなく、結婚や出産がしたいだけなのではないかと思ってしまう」といった意見を耳にしたりもしますが……。

しかし、女性の場合、出産に年齢的なリミットがある以上、「子どもがほしい」から「結婚したい」と思うことは、ちっともおかしなことではない、とわたしは思います。

マギーは恋愛が6ヶ月以上長続きしないことから、最初からシングルマザー希望でしたが、もし「子どもがほしい」という思いから「結婚したい」と思ったとしても、相手を心の底から愛することができない、なんてことはありません。

「結婚したい／子どもがほしい」と「好き」は両立できるのです！

「結婚したい／子どもがほしい」と公言していたとしても、それであなたを好きになるわけではないので、どうか男性陣には引かないでほしいなぁ……なんて思いながら観ていました。

マギーのプラン2．不倫略奪した夫のジョンを、前妻ジョーゼットに返す！

すっかり話が逸れてしまいましたが……。話をマギーに戻します。

そんなわけで、男友達からもらった精子で人工授精を試みようと準備をすすめるマギーでしたが、ある日、大学でハンサムで知的な文化人類学者のジョン（イーサン・ホーク）と出会います。

小説家になるのが夢のジョンは、自分の小説についての意見をマギーに聞くようになり、ふたりの中は急接近！

ジョンには、コロンビア大学の教授として働くバリキャリの妻・ジョーゼット（ジュリアン・ムーア）と2人の子どもがいましたが、子どもの世話や家のことをジョンに任せっきりの妻に疲れた彼は、離婚を決意し、マギーと再婚します。

3年後、娘を授かり、幸せに暮らしていたマギーとジョンでしたが、小説家の夢を追い続けるジョンは、大学の仕事も辞め、彼の前妻のジョーゼットのように、子育てや家のことをマギーに任せるようになっていきます。

自分への興味もあまり示してくれなくなったと感じるマギーは、日に日にジョンへの愛を失っていきます。

そして、ジョーゼットとの間に生まれた子どもたちの面倒を見るうちに、ジョーゼット自身とも親しくなったマギーは、彼女が決して鬼嫁なんかではなかったこと、そして、彼女がまだジョンを愛していることに気づき、ジョンをジョーゼットに「返す」というプランを思いつくのですが……。

■『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』の見どころは？

アラフォー女子の大好物!?　ダメなモテ男・ジョンを演じるイーサン・ホークが見逃せない

本作でとにかく見逃せない人物が、ダメなモテ男・ジョンを演じるイーサン・ホークです！

アメリカ・テキサス州出身のイーサンは現在46歳。

過去には『リアリティ・バイツ』や『ガタカ』、最近ではアカデミー助演男優賞にノミネートされた『6才のボクが、大人になるまで。』で知られるイーサンですが、アラサー／アラフォー女子にとって外せないのが、リチャード・リンクレイター監督による『ビフォア〜』シリーズ3部作でしょう。

『ビフォア〜』シリーズの第1作目となる『恋人までの距離（ディスタンス）』（原題はBefore Sunrise）で、主人公のひとりジェシーを演じたイーサン。

恋人たちの会話劇が特徴的な本シリーズ。続編となる『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』ではイーサンは共同脚本も務めています。

俳優・斎藤工も『ビフォア〜』シリーズのジェシーとセリーヌ（ヒロイン）のような関係が理想と語っているように、この2人の会話劇はとにかくステキ！　の一言です。

本作にも登場する知的な会話は、イーサンのお得意芸。『ビフォア〜』シリーズのジェシー同様、ちょっぴりダメなモテ男を演じさせたら、彼の右に出る者はいないのです！

マギー、ジョン、ジョーゼット、主演3人のファッションにも注目！

また、本作の主演3人のファッションも、見逃せないポイントです。

マギーのファッションは「Archerie NYC」というNYのブランドとヴィンテージのものが多く、カラフルなファッションは見ているだけで楽しい気持ちになります。

一方、ジョーゼットは「Ryan Roche（ライアンロッシュ）」「3.1 Phillip Lim（3.1フィリップリム）」 「Eileen Fisher（アイリーン・フィッシャー）」などの高級ブランドを愛用。NYで働くキャリアウーマンのライフスタイルを感じさせます。

そして、劇中でジョンが着ているオレンジ色のTシャツはなんと日本の「天然色工房 手染メ屋」というブランドのもの！

京都に店舗を構える同ブランドは、植物が持っている色目を使い、一点一点丁寧に染め上げるのが特徴。なんと、本国のコスチュームデザイナーから直接、商品提供依頼がきたというから驚きです。

■果たしてマギーは幸せになれるのか？　『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』が提示する幸せの形とはーー

男友達に人工授精の協力を依頼した上に、不倫略奪した夫を前妻に返す、というとんでもないプランを思いついたマギー。

自分の人生や、他人の人生までコントロールしようとして生きて来た彼女の策略は、果たしてうまくいくのでしょうか？

そして、そんな彼女のプランに乗っかろうとする前妻・ジョーゼットの思いとはーー？

すったもんだの三角関係の末に訪れる新しい愛の形に、DRESS世代のみなさんも、きっと何か感じるところがあると思います。

個人的には、ラストに訪れる小さなサプライズに、ほっこりと胸があたたかくなりました。

『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』は、明日1月21日（土）より公開です！

■『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』公開情報

『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』
2017年1月21日（土）ロードショー
監督：レベッカ・ミラー『50歳の恋愛白書』
出演：グレタ・ガーウィグ『フランシス・ハ』、イーサン・ホーク『6才のボクが、大人になるまで。』、ジュリアン・ムーア『アリスのままで』
配給：松竹株式会社
上映時間：99分
公式サイト： http://maggiesplan.jp
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