1. DRESS [ドレス]トップ
  2. ワークスタイル
  3. 意欲冷却スパイラルを脱する

意欲冷却スパイラルを脱する

育休から復帰したママが陥りやすい「意欲冷却スパイラル」。中野円佳さんが「抜け出せたかもしれない」と気づいたきっかけは、自ら進んで仕事を引き取り始めたことだったそう。

意欲冷却スパイラルを脱する

2014年、『「育休世代」のジレンマ』という本で、(1)就職時はバリバリやる気満々だった女性ほど出産後に所属していた企業を退出し、(2)どこかの段階で上昇意欲を調整(冷却)できた女性のほうが継続しやすいというパラドキシカルな二極化の現象を指摘しました。

この本のもとになった論文を書いたのは2012年からの第一子の育休中。その後の私自身の新聞社での仕事復帰は、実は極めてスムーズでした。定時で帰っても、記事の量も質も決して他の人に引けを取っていない自負がありました。でも、長期的に時間的な制約が大きいことが「描けないキャリア展望」「評価されていない感覚」につながり、もっと自分の名前で発信したいという思いも相まって退職することになりました。

いわば自分が指摘した(1)の現象を地で行くことになったわけですが、それから1年、今年4月に転職先での2回目の育休からの復帰後、想定外のことが起こりました。(2)で「管理職になりたくないと言い、時短をできるだけ長く取ろうとし、意欲を冷却させマミートラックにはまる現象」を分析した他でもない自分自身が「意欲冷却スパイラル」にはまったのです。

二人の子どもたちが別の保育園となり、夫と分担しても送り迎えだけで疲れ果てる。上の子は「きょう、おそかった!」「もっとはやくむかえにきてよ」と言う。下の子の離乳食が始まる。できるだけ早く迎えにいって夕飯の準備をしたい。加えて妊娠前後で転職したばかりの会社で、業務に慣れていない面が残る。できれば責任を負いたくない、自分の能力が追いついてない、自信がない、できない――。

致命的なのは、能力が足りないときにそれをカバーする時間が圧倒的に足りないこと。だから逃げてしまいたくなる。GW明けには、「生後5ヶ月で復帰などせず、もっと育休を取ればよかった」、理解がありやりがいも感じて転職した会社だったはずなのに「もうやめてしまいたい」とまで思いました。

この意欲冷却スパイラル、「あー、抜け出せたかなぁ」と思うキッカケになったのは、「これ、私がやりますね」と自分から仕事を引き取り始めたことだったように思います。同僚は、私がしんどそうにしていたのでガンガン仕事を振ることについては少し遠慮をしていた面もあったと思います。

でも、責任回避の姿勢でいると、仕事がコントロールできなくて、どうにもならなくなったときに初めて焦ることになる……。むしろ自分で最終責任を引き取ってしまったほうが、言われたことだけをやるよりも、精神衛生上いいことに気がつきました。

子どもにも「今日はどう頑張っても遅くなっちゃうの、ごめん!」と言い切ったほうが「本当はもっと早く来れるんじゃないの」と疑念をさしはさまれる余地がなく、納得してもらえた気がします。

意欲冷却スパイラルにはまっている期間も、あたりまえのように期待してくれ、責任を与えてもらえる環境にあったことに非常に感謝しています。「過剰な配慮」で期待されなくなってしまい、苦しんでいるママも多いのではないかと思います。4月の慣らし保育、5月病を終えて、少しでも多くの復帰ママがこの6月にスパイラルを脱却できつつあることを祈ります。

中野 円佳

女性活用ジャーナリスト/研究者。『「育休世代」のジレンマ』(光文社新書)著者。東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総...

関連するキーワード

関連記事

Latest Article