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キャリアウーマン(死語)とプリティウーマン(これも死語)のあわいには

やりがいよりも安定? 不安定な社会情勢を反映しているとはいえ、考えたい女の生き方。

キャリアウーマン(死語)とプリティウーマン(これも死語)のあわいには

最近、若い女性の専業主婦願望が高まっているらしい。やりがいのある仕事よりも、安定した職業の夫を見つけ、高齢出産になる前に子どもを産むことが、最優先の目的だそう。右傾化を心配されている今、世の中の気配がそうさせるのだろうか。正直いって、昔に逆戻りしているようにも思える。

 で、そうした幸せな家庭を手に入れた上で、かっこいい「仕事」を持っているのが理想なんだとか。仕事といっても、パート的なそれではなく、男性と対等にやりあうそれでもなく、自分の感覚や個性を生かすためのそれ。家庭+あくまでも家庭に支障をきたさない範囲での仕事、というのが、いわゆる「勝ち組」だという。

 私は、この勝ち組とか負け組っていういい方が、生理的にダメ。ダサすぎる。そんなふうに他人や世間と比べていたら、何を手にしたって永遠に勝てない(=幸せではない)と思うよ。

 まあそれはさておき、乱暴にまとめると、なりふりかまわず仕事をがんばる女は時代遅れってことのようだ。男女雇用機会均等法の初期に社会に出た者としては、もう、すみませんねえ、と平謝りするしかない。

 私たちの世代が、いい気になって徹夜したり、権利を主張したり、ちょっとばかし重たい肩書きを手にしたり、稼いだお金で旅行したり買物したり、挙げ句の果てが、「主婦願望高まる」じゃあねえ……。そんなにみっともなかったですか? 我々、と問うてみたい。

 それだけじゃなくて、ウイスキーでも飲みながら、みっともない姿って意外と魅力的だよ、と説教したい気もする。だって、生きてるってそれだけでみっともないことじゃん。なーんちゃって。あいだみ○を、か、私は。

 結婚を生活の手段と割り切れる人も、結婚は最大の恋愛表現と夢見ている人も、結婚願望なし! という人にも、ぜひ見ていただきたいのが、ウディ・アレン監督の最新作『ブルージャスミン』である。

 主人公のジャスミンは大金持ちの夫とNYで超リッチな暮らしを送っていたが、突然、資産も家庭もなにもかもを失い、落ちぶれてしまう。

 なんとかして華麗なる日々に返り咲こうと、右往左往するジャスミンの奮闘や葛藤や不安を描いた物語である。

 ジャスミンは、とにかく最低最悪の女だ。お金もないのにファーストクラスに乗ったりブランドもので着飾ったり、あたかもまだリッチなセレブリティであるかのように平気で嘘をついたり、妹の少々ワイルドな恋人にケチをつけたりする。本名の「ジャネット」を、平凡だから、という理由でジャスミンに変えるぐらいの見栄っ張り。

 それなのに、なんだか、彼女がきらいになれない。

 ジャスミンを演じたケイト・ブランシェットは、この作品でアカデミー賞主演女優賞をとった。アルマーニのドレスでオスカー像を手にした彼女は、きれいだったなあ。成熟した魅力にあふれていて。

 映画では、もう若くはない女が、今さら落ちぶれてしまい、いらだったりとまどったりする様子が、見ている側にひしひしと伝わってくる。アイラインがにじんでいたり、マスカラが落ちていたり、脇汗がにじんでいたり、そういうディテールがわざとらしくなく、でも印象的だった。みっともないってことが魅力的だと思えるのだ。

 贅沢な暮らしを失って、自分が何者でもないことを突きつけられた彼女は、それでも、自分が何者かになろうとはせず、またもやリッチな男性に人生を預けようとする。なんと、まあ、向こう見ずでギャンブラーな。あきれながらも感心してしまった。

 反省、まったくなし。小心者の私だったら、もはや誰かの付属品でいるのは危険だと、よたよたしながらも一人で歩こうとすると思う。で、一人で歩いている者同士が出会って、もしお互いの気持ちが重なったら結婚、ていうのがいいなあ。

 な〜んて、のんきなことをいっているから、いつまでたっても嫁入り前、なんていわれるわけですね。ここら辺で、ギャンブル打たないと一生独身かもしれない……。

 ジャスミンの生き方は正しいのだろうか。ウディ・アレンの作品に、そんな野暮な答えは、用意されていない。自分の意思で選択する。それが唯一の正解なのだと思う。

Illustration / Yoshiko Murata

DRESS 2014 JULY P27

甘糟 りり子

作家。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『産む、産まない、産めない』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。公式ブログ http://ame...

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