「西の窓辺に黄色い花を飾りなさい」という風水で幸せにはなれない
風水では「黄色い花を西向きの日当たりのいい窓辺に置くと運気が上がる」と言われることも。でも、西日は強烈。生花はすぐに腐ってしまいます。花にとっても自分にとっても心地よく、どちらも幸せになれるベストな置き場とは……?
会社の後輩ステ子のデスク周りが、最近とても怪しい雰囲気だ。机の上には金ピカのキリンの置物や何種類もの石が置かれている。パソコンには奇妙な絵のお札が貼られ、画面の下には、お皿にこんもりと盛り塩までされている。もともと占い好きだったステ子は、先月彼と別れてから、開運グッズにハマっているらしい。
「私のデスク、方角が最悪なんです。席替えをしてもらえませんか?」
と上司にかけあったと聞き、
「さすがにそれはやりすぎなんじゃないの?」
と私が止めても言うことをきかない。
「由樹子さん、私が先週買った幸せの壺、恋愛運と家族運がすごく上がるらしいんです。由樹子さんも買って家に飾ったほうがいいですよ」
その壺が20万もすると聞き、私は呆れすぎてツッコミそびれてしまった。
会社帰りに、私が花屋のおばさんの店に寄ると言ったら、ステ子は勝手についてきた。
そして花屋に入るなり、おばさんにこう言ったのだ。
「黄色い花がたくさんほしいんです。風水では、黄色い花を西向きの日当たりのいい窓辺に置くと、運気がめっちゃ上がるらしいんですよ〜!」
おばさんは、ハサミの動きを止めて、じろりとステ子をにらんだ。いつも不機嫌なおばさんだけど、今日は目が笑っていない。
「帰りな」
「え?」
「この店にあんたに売る花なんかないよ」
「そんなぁ。どうしてそんなイジワル言うんですかぁ?」
「そんなことしたって、あんたは幸せになんかなれない。花はインテリアグッズじゃないんだよ」
おばさんは、ステ子を正面から見すえ、ゆっくりとした口調できっぱりとこう言った。
「切り花っていうのは、人間の勝手で根っこを切りとってしまった植物だろ。人間でいえば怪我した人だよ。それを強烈な西日が差し込む窓辺になんて置いたらいっぺんに腐ってしまう。切り花は、涼しくて温度差があまりないところじゃないと長生きできないんだ。
花だってあんたと同じ生き物だ。あんたの運がよくなるためにと西の窓辺に花を置くのは、花の気持ちを無視したあんたのエゴなんだよ。そんな愛のない行いが、あんたを幸せにすると思うかい?」
ステ子はうつむいたまま、じっと自分の手を見ていた。目には涙がたまっている。
しばらく沈黙が続いた後、ステ子は顔を上げ、小さくはにかんだ笑顔でおばさんに向かってこう言った。
「わかりました。花も私も幸せになれるようにちゃんと考えます。だから私に1本だけお花を売ってください」
+++ もなみのちょい足しポイント +++
根っこを切られた植物は、切り口からバクテリアが繁殖しやすくなっています。だから、直射日光を避け涼しい場所に置くことで、その繁殖を遅らせ花を長生きさせることができるわけです。ものすごく暑い場所、温度差が極端に激しい場所、冷暖房の吹き出し口など、私たち人間が過ごしにくいと感じる場所は、植物も快適に過ごせません。花も居心地がいい、あなたも居心地がいい。どちらも幸せ。そのような環境を整えることが、いい運気を呼び寄せることにつながるのではないでしょうか。