ディスカヴァー・トゥエンティワン代表 干場弓子さんが選ぶ、私に影響を与えた5冊の本
ディスカヴァー・トゥエンティワン代表 干場弓子さんが選ぶ、私に影響を与えた5冊の本
小学生の頃、「図書館の本は全部読む」と決めて本を手に取ったのが最初の本格的な読書の始まりです。中学生になると『風と共に去りぬ』『アンナ・カレニナ』などの海外文学を読みあさり、高校では安部公房やカフカのような当時の前衛文学などを好みました。一方、『古文研究法』『大学への数学』など優れた参考書も私にとって大切な本。思考力の基礎が身につきました。
『他人の顔』(安部公房)
事故で顔面に醜い火傷を負った男が、精巧なマスクをした途端、誰も自分だとわからなくなって……という話。まさに“顔”は自分の自我=アイデンティティ。人間とは? 社会とは?これを読んでから、他に違った見方はないか、前提を疑った上でみてみよう、といった意識を持つようになったと同時に文学の新たな可能性に気づき、漠然と自分も作家になりたいなと思うようになりました。
『ドゥルーズの思想』(ジル・ドゥルーズ)
形がつきそうになったら逃げ出せ! 私なりにそこだけを感じとりました。一方、差異から生まれる創造についても。あらゆるものは解釈に左右されています。会話も文章も相手に正確には伝わりません。個人によってその言葉の解釈が違うから。どんなに言葉を尽くしても解釈は微妙にずれ、そこには差異が生じます。でも、差異があるからこそ、それを埋めようとして会話が生まれます。差異、いわば間に新しいものが生まれる。そんな感覚を学びました。これは私の仕事の基盤になっています。
今回『夜明けのロボット』を読み返しましたが、その場面がどこにあったかも気づきませんでした。本が素晴らしいと思うのは、読み手と読み手の状況によって様々な価値を引き出せること。読み手が本当に求めるならば、たとえどんな本であっても必ず価値を見つけることも学ぶこともできる。それが読書の素晴らしさですね。
干場弓子さん
愛知県立旭丘高校、お茶の水女子大学教育学部出身。1977年、世界文化社入社。「家庭画報」編集部等を経て1985年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン設立。以来、取締役社長として、経営全般に携わり、書店との直取引で日本1の出版社に育て上げた。2011年には『超訳 ニーチェの言葉』が同社初の100万部を突破。
編集部全般も統括し、CDサイズのシリーズ、ミリオネーゼシリーズ、強育シリーズ、携書シリーズ、Discoverサイエンスシリーズなどを立ち上げてきた。自らも編集者として、勝間和代さんの各書籍、小宮一慶さんのビジネスマンシリーズ、流行語大賞にノミネートされた『「婚活」時代』を手がけるなど、常に新しい視点でヒットを創り出している。
最近では、『電子書籍の衝撃』を企画・編集し、いち早く自社でダウンロードサイトをオープンするなど、電子書籍への先進的な取り組みでも注目を集めている。
Text=新川五月
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