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夫に洗ってもらったパンツしか履かない

昔、私は「良い仕事人」で「良い妻」で「良い友達」になりたいと思っていました。 <良い人にならなければいけない>という思い込みの穴に、いつ落ちたのでしょうか? 学校の授業だったのか、親の子育てだったのか、読んだ本や漫画なのか、メディアの影響なのか。

夫に洗ってもらったパンツしか履かない

夫に洗ってもらったパンツしか履かない

昔、私は「良い仕事人」で「良い妻」で「良い友達」になりたいと思っていました。

<良い人にならなければいけない>という思い込みの穴に、いつ落ちたのでしょうか? 学校の授業だったのか、親の子育てだったのか、読んだ本や漫画なのか、メディアの影響なのか。思い出してもわからないのですが、頑張り屋だった私は、ずっと<良い人にならなければいけない>と思っていました。

夫と出会って一緒に住み始めた頃、ちょうど、夫が勤めていた会社を退社して独立した時期でもありました。10年1つの会社で一生懸命働いてきたので「せっかくだから少し休んだらいいんじゃない?」と提案し、夫は独立の準備と人生の夏休みという休暇を過ごしていました(このときはまだ彼氏ですが)。

その頃、私は仕事の締め切りが重なることが多く、かなり忙しかったです。ちょうど2人で忙しさが1人に偏ってしまった時期でした。私の忙しさを夫に相談したら、頼んだわけではないのですが、家事を率先してやってくれました。「そのぶん、仕事がんばってていいよ」と応援されました。

初めて「甘えちゃおう」と思えた

今まで<良い妻><良い彼女>でいなければいけないと思い込んでいた私は、仕事が忙しくても、無理して家事をしたり、恋人や夫の世話ばかりしたりして、いつも疲労困憊でした。本当に毎日毎日疲れ切っていました。家に長くいるからと気を遣ってしまって、がんばっていたと思います。今思うと、よく身体や心がもっていたなぁと思います。

夫は家事をすることに何も言いません。「ボクやるよ」とか全く言いません。静かにただ淡々とこなしていきます。私と出会う前から、ちゃんと家事をしていたのでしょう。こなれ感があります。その姿に「なんて自立してるんだろう」といつも思います。なので、いままでなら気を遣ってしまうことも、素直に「もう甘えちゃおう! 任せちゃおう!」と思うことができました。

一緒に住み始めて、洗濯物が山積みになることがなくなりました。玄関が靴で埋まることもなくなりました。着る物がなくなって困ることがなくなりました。家の中がいつもきれいに整頓されました。今まで仕事をしながらしていた家事を、夏休み中の夫がほとんどしてくれたので、仕事が立て込んだ季節を、私は仕事だけに集中できて、体調を崩すこともなく乗り切ることができました。

「パンツが足りない事件」はもう起きない

今まで何度も徹夜が続いて、「パンツが足りなくなる事件」が勃発し、ユニクロに駆け込む日がありました(笑)。
夫と暮らすようになったある日。ふらふらの徹夜明けにシャワーを浴びて箪笥の引き出しをあけると、きれいに小さく畳んだ私のパンツが並んで入っていました。正直、今までのどんな贈り物より嬉しかったのを覚えています。疲れて精神的・肉体的に追い込まれ、薄暗い一日の最後の最後に、誰かが洗ってくれたパンツが待っている。パンツを履くだけで、ものすごい元気が湧いてきました。

「一人じゃないんだ」
私は箪笥の引き出しで、初めて知りました。長く長く苦しかった<良い人>という呪縛から、このときやっと解放されました。今までの強がりよ、さようなら。パンツすごい!

洗ってもらったパンツを履く喜びがあまりにも衝撃的で、夫にお願いしました。
「私、一生、アナタの洗ったパンツしか履きたくない」と。
夫は笑って、じゃあ洗濯はするからいいよと言ってくれました。私の残りの人生は、夫の洗ってくれたパンツしか履かないでいようと思っています。生きることにも仕事にも、不思議と気合いが入ります。本当にこの3年。自分でパンツを洗ったことがありません。

「良い人」呪縛が自分を傷つける

気持ちに余裕が生まれた数ヶ月後。
忙しかった時期の家事というサポートの感謝を夫に話しました。初めて誰かに素直に甘えることができたこと。パンツという自分の一番ダサくて弱かった部分をゆだねてみたら、生きるのがとても楽になったこと。良い妻をやめて、普通の妻になりたくなったこと。人生は一人じゃがんばりきれないこと。「良い人」という思い込みが、自分を自分で傷つけていたこと。我慢していたこと。

自分の一番弱い部分やダサい部分、辛い部分を素直に全部見せることができた。このとき、私の中で「彼と家族になろう、一緒に生きていこう」と、腹が決まりました。

夫が夏休みを終えて、本格的に仕事に復帰してからは、私も家事をしています。夫の苦手な事務処理や経理などは私が率先してします。自分の得意なことを誰かのためにするのは良いことなのだと気付きました。得意なことをするのはチームにおいてコスパが良いということです。

夫が自分の努力を見てくれる喜び

一緒に働いて、一緒に暮らしていると、パートナーの家事をする姿も、働く姿も、毎日見ることができます。私にはそのことが何よりの心の栄養になります。

家族のために家事をする姿を見る・見せる。
誰かに自分が大切にされていることを知ります。

自分のために働く姿を見る・見せる。
相手を尊敬する気持ちがふんわり自然体で生まれます。
助け合いながら尊敬し続けることができます。ある意味では、お互いがお互いの作品のファンです。

家族の意味や、感謝、一人で生きているのではなく、生かされていると知ります。頭ではわかっているのですが、やはり毎日見ることができるのは、とても嬉しいです。自分の努力も夫だけは見ていてくれるので、どんなときも「大丈夫だ!」と小さな勇気が持てます。

良い妻を辞めました。良い人も辞めました。それでもなかなか良い人生です。
今日も夫の洗ったパンツを履いてこの記事を書いています。

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兎村彩野

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。シンプルな暮らしの絵が得意。愛用の画材はドイツの万年筆「LAMY safari」。

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