モラハラ彼氏のエピソード。「セックスを断ると暴言」「男性の連絡先を全消去」それでも別れられない理由は?
モラハラを繰り返してはパートナーを苦しめる彼氏。別れたほうがいいとは思っても、愛情があるとその勇気が持てず、また「いつか変わってくれるかも」という希望も捨てられません。ですが、モラハラは人として許されないこと。モラハラ彼氏と別れられないのはなぜなのか、専門家のアドバイスも交えて紹介します。
◾️モラハラ彼氏だけど別れられない
「モラハラ」は「モラル・ハラスメント」の略で、暴言や威圧的な態度で相手に精神的な苦痛を与えることをいいます。いろいろな人間関係で見られますが、特に恋人や夫婦間など1対1の関係で起こりやすいのが特徴です。
「彼氏がモラハラを繰り返してつらいけど、別れることができない」と悩む女性は多くいます。この記事では実際の体験談をもとに、どうしてそうなってしまうのかを考察していきます。
※モラハラは男女問わず加害者になり得ますが、本記事では男性→女性のモラハラを想定しています。
【体験談】Aさん(34)の場合
「何をやってもダメだな」
「もっとかわいくなれないのか」
など、モラハラのようなことを言います。
最初は私が悪いのだと思って一生懸命尽くしていましたが、彼が気にいるように考えて行動してもやっぱりダメ出しが続くし、彼の好みになれるようにメイクやダイエットをがんばっても、いっさい褒めてはもらえません。
彼がため息をつくのが怖く、また「別れよう」と言われたらどうしようと不安になり、いつも私が謝っては許してもらうことの繰り返しです。友人からは
「どうしてそんな男と付き合えるのかわからない」
と言われますが、彼もたまに優しいときがあるんですよね。私が作ったご飯を「おいしい」と食べてくれたり、飲み会で迎えに来てくれたりするのを見ると、やっぱり別れたくないと思ってしまいます。
でも先日、残業で疲れていたのでセックスを断ったら
「じゃあ風俗でも行こうかな」
と言われ、慌ててシャワーを浴びながら“なんで私はいたわってもらえないのだろう”と涙が出ました。別れたいけど、彼を目の前にすると切り出す勇気がなく、結局ずるずると関係が続いています。
恋人に向かって平気でダメ出しができるのは、自分の満足しか考えていないからです。「彼女なんだから自分の理想通りにするのが当たり前」という気持ちがあるから、セックスを断ることを許せずに風俗に行くと口にできるのです。
それを聞けば彼女がどう思うか、普通は悲しむし、自分への愛情を失うかもしれないと想像できれば、まずこんな言葉は出ません。
彼女は自分と対等な人間ではなく、常に従う側。
こんな思いが透けて見えます。
気まぐれのようにやさしくするのは、たまたま“そんな気分だったから”で、行動や発言が一貫しないのもモラハラをする彼氏の特徴です。その姿が、普段から「愛されない自分」ばかり実感させられている彼女には、愛情の証に映るのですね。
本当に好きな相手なら、苦しむような振る舞いはできないし、また傷つけた後でも反省して謝罪の言葉が出るのではないでしょうか。そういう思いやりがいっさい見えない彼氏と付き合っていても、自己肯定感を奪われる一方です。
【体験談】B子さん(40)の場合
付き合うまでも、私の気持ちを試すように別の女性を褒めたり会いに行った話をしたり、私の誕生日を知っているのにあえてスルーして反応を見たり、大事にされていないことは感じていました。でも、同じ趣味の話で盛り上がったり、彼の気分がいいときは私の頭をなでてくれたり、そういう良い面もあるんですよね。
自分に自信がないから試し行為みたいなことをするのだと思うし、愛されている実感がほしいのはよくわかるので、不安にならないようにこちらからマメに連絡して機嫌をとっていました。それで雰囲気のいいときに思い切って告白したのですが、それからは
「俺は応えてやった側」
と思っているのか、私が気に入らないことをするとすぐに怒ります。
お付き合いが始まってからも私がほかの男性と親しくするのを責められていましたが、先日はついに
「スマホに入っているそいつらの連絡先を消してほしい」
と言われ、仕方なく削除しました。
バックアップを取ってあるので問題ないけど、これ以上束縛されるのは本当につらくて、別れることを考えています。でも、別れようと言ったら彼氏にどんな暴言を吐かれるか、また喧嘩すると壁を殴ったりドアを大きな音をたてて閉めたりする人なので、それを想像すると怖くてできません。
冷静に話し合いたいけど、いつも彼はすぐに怒るので私が折れるばっかりで疲れます。
自分に自信がないから相手の愛情を信じることができず、試し行為がやめられないし、自分以外の男性に気を向けることを許せない。感情のキャパシティが狭いこんな男性には、ささいな不安が大問題になります。
それでも、恋人の人間関係まで口を出し、自分以外の男性の連絡先を削除させるようなことは、普通はありえないですよね。「自分は付き合ってやっているんだぞ」という思い込みがあるから、恋人の気持ちを無視した振る舞いができます。
また、喧嘩になると物に当たる、暴言を吐くのも、相手を萎縮させて自分の思い通りにしたいから。「お前のせいで俺は怒っている」とアピールして、恋人に罪悪感を植え付けます。
この女性は、ここまで客観的に彼氏の状態がわかっていても、なお別れることができません。どこかで「愛されたい」「報われたい」と思うので、彼氏に合わせた行動をとってしまいます。ですが、その様子がかえって彼氏のモラハラを加速させているともいえます。
■モラハラ彼氏と別れられない理由
パートナーが傷つくようなことを平気で繰り返す彼氏。つらいことが続けば別れたいと思うのは当然ですが、踏み切れないのはどうしてでしょうか。
1.優しいときがあるから
こちらを馬鹿にするような態度も多いけど、たまに体調を気遣ってくれたり、優しい言葉をかけてくれたりすることがある。つらい思いをすることが多いなかで彼氏のそんな様子を見ると、うれしくなるし「やっぱり好きだ」と思ってしまいますよね。
苦しみの反動で相手の良い面が強調されるのですが、モラハラ彼氏と別れられない人は「こちらが彼氏の本当の気持ち」と受け取ります。彼氏にとってはただの気まぐれでも、女性にとっては確かな愛情の証となるので、普段のモラハラを否定してしまいます。
忘れてはいけないのは、「本当に愛情がある相手なら、優しさは一貫するもの」という事実です。
2.別れたら自分が寂しいから
たとえば何年も彼氏がいない状態でやっとつかんだ恋の場合、モラハラはつらいけど「別れてしまうとまた私はひとりぼっちになる」という不安が芽生えます。モラハラ彼氏であっても「ひとりよりマシ」と思うと、我慢して付き合っていこうと思うのですね。
また、「こんな私でも好きになってくれたのだから」と、相手の愛情を過大評価しているときもあります。別れたら自分自身が寂しい思いをするので、別れに踏み切れません。
3.「いつか変わってくれるかも」と思うから
モラハラ彼氏がたまに見せる優しさや自分への愛情を感じると、そこに希望を持つという女性は多いのではないでしょうか。
普段はモラハラがひどいけれど、良い面を見ると「いつか変わってくれるかも」と思うのは仕方のないことです。ですが、いつまでもその状態が続く、何度「やめて」と言ってもこちらを傷つける言動が止まらないときは、見切りをつけることも重要です。
どんな希望も、相手がその気にならないと叶わない以上は、手放して楽になるのも自分のため。変わるかどうかは相手の問題であって、自分では決められないのが現実です。
4.「私が悪い」と思うから
ちょっとした喧嘩でも、「お前がこうだから」とひたすら怒りを向けるモラハラ彼氏の場合、女性は「私のせいだ」と思い込みます。彼氏の機嫌が悪いのも暴言を吐くのも自分が悪いから、と考えてしまうので、へりくだって接していくことに疑問を持ちません。
恋人でも夫婦でも、関係は対等です。本当に自分が悪いときは謝る必要がありますが、問題の核心を避けて彼女を責めるだけの彼氏は、「自分が上」という間違った認識があると思いましょう。
つまずきや衝突はどんな関係でも起こります。そのとき、自分の振る舞いをいっさい反省せずに「お前が悪い」と決めつける側こそ、視野が狭く人を思いやる気持ちがないといえます。
5.別れようとすると「死んでやる」など言われるから
モラハラ彼氏でよくあるのが、別れ話を切り出すと「死んでやる」など極端なことを言い出して彼女に罪悪感を持たせようとすること。実際に、モラハラを指摘して別れようとする女性に「首を吊ってやる」と言った男性もいます。脅迫ともいえるこんな言動は、「見捨てられる自分」に耐えられないから、自分を拒絶する彼女が許せないからです。
そんな人間と向き合うと、こちらはひたすら疲れるだけで、やり直してもいずれ関係が破たんするのは目に見えています。誠意のある人間なら、相手を怯えさせるようなことは言わず、心を開いて会話しようとするはずです。そのことを忘れずに、きっぱりと決別する勇気を持ちましょう。
6.暴力を振るわれるのが怖いから
モラハラ彼氏は、気に入らないと暴力的な態度をとることが多いです。彼女に恐怖心を植え付け、萎縮させるのが目的ですが、これも自分に従わせたいからです。また、感情を抑えきれないから暴力に走り、そんな自分を「お前のせいだ」と言い切ります。こんな彼氏と一緒にいても、気が休まることはないですよね。
不安なときは、電話など直接会わずに別れることを伝える、第三者に入ってもらうなど、被害を受けない状況を用意しましょう。それは逃げではなく、身を守るための手段です。
7.周りの人に悪口を吹聴されそうだから
たとえば共通の友人が多い場合など、「別れたら自分の悪口を言いふらされそう」と思う女性もいます。反省ができないモラハラ彼氏は、別れるときも自分のせいとは思わず、相手が悪かったことにして自分を守るのですね。
ですが、話を盛ったり嘘をついたりすれば、それは必ず自分に返ってきます。
実際に、モラハラ彼氏と別れてからありもしない話を周囲に吹聴された女性がいましたが、友人は事実を確認してくれて、嘘をついた元彼が逆に責められる側になりました。モラハラ彼氏の悪意にもとづく言動は、見抜かれるのが現実なので、気にする必要はありません。
8.「絶対に幸せになるべき」と思っているから
モラハラ彼氏と付き合う女性は、「私がこの人を幸せにしてあげたい」と思うことがあります。人を受け入れようとする姿勢は誠意といえますが、相手がモラハラをなんとも思わないような男性の場合、自分の考える幸せと彼氏の理想の幸せは、まったく違うことも知らないといけません。
モラハラ彼氏にとって、幸せな恋愛とは「相手が自分に反抗せず、こちらの期待をすべて叶えること」です。対等な目線を持てないので、女性がどれだけ愛情を向けても、男性の理想から外れたらアウトになります。
幸せにする“べき”ではなく、まずは自分自身が幸せを実感できる恋愛を考えたいですね。
9.「この人には私しかいない」と思っているから
モラハラ彼氏のなかには、自分に自信が持てないことを、横柄さや傲慢さとしてあらわすことがあります。その弱さを知り、受け止めてあげたいと思うのは良いことですが、度が過ぎると「この人を理解できるのは私しかいない」など、思い詰める恋愛になります。
視野が狭くなると相手の振る舞いを正しく見ることができず、また自分の素直な気持ちも掴めません。なんでも受け入れるのが正解ではなく、好きだからこそ冷静に、客観的に相手の姿を見ることも自分のためといえます。
10.自分ばかりつらい思いをするのが許せないから
モラハラ彼氏と付き合っていると、つらいことばかりで自分は必死になるのが当たり前、気がつけば機嫌をとるだけで愛されている実感がない、こんな状態になります。
心が満たされないと、人はそのストレスから「自分だけが苦しむのは許せない」「自分は報われるべき」など、“つらさの元を取る”ことを考えるようになります。尽くしたぶん、愛される自分を見ないと気がすまないのですね。
一方で、モラハラ彼氏は彼女のことを平気でないがしろにできます。大事にしなくても彼女が離れていかないなら、あえて自分を変えることなど思いつかないからです。
元を取りたい気持ちがかえって自分を苦しめ、愛されない結末を招くことを、忘れてはいけません。つらいのは事実であり、そんな恋愛では自分が満たされることはないと、まずは思い出しましょう。
■モラハラをするのは、彼女を対等と思っていないから
モラハラ彼氏であっても、良い面や優しい姿を見れば別れることをためらいがちです。それは愛情があるからですが、貶められる自分を当たり前にすることは、前向きな交際とは決していえません。
恋人が苦しむことを当たり前にできるのは、彼女を対等と思っていないからです。
「自分はこんな振る舞いをしても許される」
「相手はこんな自分を受け入れるべき」
というモラハラをする側の思い込みと、それを許している(と見える)恋人の態度で状態は悪化していきます。
ふたりの関係は対等です。お互いを尊重しあえない恋愛が本当に自分にとって幸せなのか、もう一度冷静に考えてみましょう。
■精神科医 塙美由貴先生のアドバイス
モラハラ彼氏(夫)への心理や対処法について、心療内科「みゆきクリニック」院長の塙美由貴先生に伺いました。
Q.モラハラをする男性の心理について教えてください。
モラハラをする男性の多くは、自己愛性パーソナリティ(※)の傾向にあります。自己愛性パーソナリティにはいくつかのパターンがありますが、なかでも、他罰的な傾向の強い人がモラハラになりやすいと言えるでしょう。
上手に着替えができたとか、ひとりでトイレに行けたとか、小さな成功体験を周囲の大人たちに共有して褒めてもらい、得意満面になっている子どもってとてもかわいらしいですよね。幼少期に小さな成功体験を積み重ねながら成長することは、心の発達にとって、とても意味のある大切なことです。楽しんで褒めてくれる大人の「共感や優しさ」を取り入れて、子どもは成長するのです。
でもこのとき「そんなのできて当たり前だ」とか「いい気になるな」と否定され、共感してもらえなかったら、一気に心がしぼんでしまいますね。そして、そのような共感してくれない、否定し批判する大人の攻撃性も一緒に取り込んでしまうのです。
成長しても、共感性を欠いた攻撃的な対人関係パターンが、彼らにとっては馴染みのあるものとなってしまうでしょう。親しい人や愛する人と接しようとすると、攻撃的になってしまうのです。共感性を欠いた環境で育った人のすべてがモラハラになるわけではありませんが、モラハラ男性はそのように育てられている場合が多いのです。
Q.モラハラ発言にうんざり。言い返しても良いでしょうか。
攻撃スイッチが入っているときには、何を言っても無駄です。言い返すと何倍にもなって返ってくるので、むしろその場を離れ、一切反応しない方が良いでしょう。後日、落ち着いているときに「あのときはこう言われて傷ついた」と伝えてみましょう。暴言を録音しておいて、本人に聞かせるのも良いですね。
Q.優しい面も知っているので、改善することを期待してしまいます。
「本当は優しい人なんだわ」
「いつか変わってくれるはず」
そんな幻想をお持ちでしょうか。
モラハラ男性が、自分の攻撃性やいかに相手を不当に扱っていたかに自分で気付き、自ら態度や行ないを改めることは、あまり期待できないと思われます。「自分の言っていることは当然の要求だ」「自分の言うとおりにならないのは相手がおかしい」と本人は本気で思っているので、それがいかに理不尽なものか自分ではわからないのです。
切羽詰まったパートナーから「もうあなたとはやっていけない」と言われて初めて、自分の態度や言動に問題があったのかもしれないと気付くことがあります。本人がいくらかでも「自分が変わらなければパートナーを失うかもしれない」と思ってくれれば、そのときこそカウンセリングを始める時期です。適切な援助があれば、人は変わることができます。
しかし、絶対に自分の非を認めず、あくまでも相手が悪いという主張を変えない、カウンセリングを受ける意思もないようであれば、改善の見込みは薄いかもしれません。あなたが自分の人生を無駄にしたくないなら、離れる決心も大切です。
Q.付き合うのはモラハラ男性ばかり……私に何か問題があるのでしょうか。
何度も同じようなモラハラタイプの男性を選んでしまう、やっとモラハラ男と別れられたと思ったら次のパートナーもモラハラだった、という女性。同じことを繰り返してしまうのですね。
相手に対して「嫌われたらどうしよう」とビクビクしていませんか。相手を怒らせないように、自分の気持ちを抑え過ぎていませんか。そのようなあなたの態度が、相手のモラハラ行為を増長させている可能性もあります。
また、小さい頃に厳しい育てられ方をした人は、無意識に同じような人をパートナーとして選んでしまうことがあります。小さい頃の親、あるいは親のような存在との関係性が、無意識に影響している場合があるのですね。
人は同じ失敗を無意識で繰り返してしまう傾向があります。あなたが同じ失敗を繰り返すことを止めて、安定した人間関係を築き、思いやりのあるパートナーを選びたいと思うなら、あなた自身が変わる必要があります。
経済的に自立して誰かに依存的になりすぎないようにするなど、人はいくらでも変わることができます。過去を変えることはできませんが、未来は変えることができます。本気で自分自身が変わろうとするなら、カウンセリングが役に立つでしょう。
※自己愛性パーソナリティ障害は誇大性、賞賛への欲求、および共感の欠如の広汎なパターンを特徴とする。(「MSD マニュアル」より)