何でもいい、一番を目指してみる。それが女性の自由への近道。
「目からビームを、毛穴からオーラを。」AKB総監督、高橋みなみさんの言葉が胸をよぎる。拳を握りしめて、私は舞台の中央に立った。第一声は緊張のあまり声が震えたが、審査員一人ひとりの目をゆっくり見て語りかけるように話し始めた。
「優勝したら人生が変わる。」募集要項にそう書いてあった、スタートアップ企業のプレゼンイベント「IVSLaunchPad」(以下、IVS)に参加した。優勝企業は大型の資金調達に成功したり上場したりと、注目度がすごいのだ。
初めは、今の自分たちの位置を知りたい程度の感覚だったが、ある社員から「せっかく挑戦するなら優勝したい」と言われてハッとした。勝つのはたやすくはない。日本一の投資家向けプレゼン(=ピッチイベント)だ。けれど彼女の期待にこたえたい。
本選に進めるとわかった時、スイッチが入り、周囲に相談しまくるようになった。まずは、経験者に話を聞こう。自力でできることなど限られているのだから、どん欲にはずかしげも無く、アポイントをとって相談した。
「うーん、インパクトが無いね」「資料がいまいちと」反応は薄い。でも、「優勝したいんです」と言うと、「○○さんに話を聞くと良いよ」「誰が審査員か調べてみたら?」などアドバイスをもらった。そこで一つひとつの助言をまるで小学生のように忠実に実行した。勧められたプレゼンのコツが書かれた本も全部読んだ。そこで分かったのは、きれいな話し方や美しい資料よりも大切なのは、聴衆の心を動かすこと。皆を共感させ、感動させ、巻き込むこと、それこそがプレゼンテーションなのだ。
そうか、私の育児支援のあり方を変えたいという想いは誰にも負けない。ゼロから創業して上場までした会社を辞めてまでもキッズラインをやりたかった気持ち。それをしっかり伝えよう。プレゼン前日は、立ち上げの背景やサービスに込めた暑苦しいほどの思いをブログに書き、審査員たちにメールで送信した。「頑張って」との返信を励みに、徹夜で練習した。
そして当日。まさに順番がまわってくる1分前まで資料やトークをブラッシュアップしプレゼンに臨んだ。私が3人の子供を育てながら上場できたのはベビーシッターのおかげであること、育児支援が不足する日本は、女性活用も進まず、少子化の波も止められないこと。安くて早くて便利なキッズラインを通じて、ベビーシッターの文化を日本に広めたいこと、それには男性経営者の皆さんの協力が必要で、法人導入してほしいことなど、社会を変えたい想いを魂から伝えた。
決して上手にプレゼンできたとは思わなかったが、会場の熱気はすごく感じた。プレゼン技術はいまいちだったし、他社の資料の完成度もすごかったしと、結果を待つ間は反省ばかり。
なかなか名前が呼ばれず、入賞すら出来なかったのかと泣きそうになったとき、名前を呼ばれた。そう、優勝したのはキッズライン。私たちだった。「すごくよかったよ」「感動した」。多くの人に声をかけられ、後にそのプレゼンで泣いた人が何人もいたことを知った。
優勝後、私たちを取り巻く環境は激変した。キッズラインへの申し込みが殺到し、サービスだけではなく、会社や私個人にも注目が集まり始めたのだ。何より社員が大喜びしてくれた。売り上げがほとんどない日々、本当にうまくゆくのか分からないまま、地道にシステムを改善し続けるしか無かった私たち。まさに砂をかむような日々が報われた気がした。
実は2度めの起業なのに、残念な結果だと恥ずかしい、でもあくまで告知になれば良いか……などと低レベルの目標を設定していた自身を恥じた。そうだ、人生を変えたかったら、周囲が驚くほどの大きな夢を持つべきなのだ。
そして行動した者だけが人生を変えることが出来る。夢が無ければ、何でもいい一番を目指そう。一番高い山は富士山だけど、2番の山は答えられない。Winner takes allだ。自己満足では意味がない。人に評価されて価値がうまれる。そして、自分の価値を上げていけるのは自分しかいない。人生を変えたかったら、そう、挑戦するしか無いのだ。
何でもいい、一番を目指してみる。
それが女性の自由への近道。
経沢香保子
Text / Kahoko Tsunezawa
DRESS 2015 9月号 P.139 掲載
経沢香保子(つねざわ かほこ)
桜蔭高校・慶應大学卒業。リクルート、楽天を経て26歳のときに自宅でトレンダーズを設立し、2012年、当時女性最年少で東証マザーズ上場。 2014年に再びカラーズを創業し、「日本にベビーシッターの文化」を広め、女性が輝く社会を実現するべく、1時間1000円~即日手配可能な 安全・安心のオンラインベビーシッターサービス「キッズライン」を運営中。オンラインサロン「女性起業家サロン」も人気。
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