理想の会社も社会も自ら創る。それが女性の自由への近道。
毎日電話が鳴り止まなかった。2000年にIT起業のブームに乗り社長になった私は、26歳の女性社長というレアキャラのおかげで多くの取材を受けた。
そして「どうやって起業したんですか?」と女性達からの相談攻めに。彼女達は仕事とプライベートの両立に悩んでいた。「社長」になれば自分の好きな仕事ができ、成功すれば経済的にも時間的にも自由になれる。そう、起業とはワークスタイルのみならず仕事もお金も自分で生み出す、究極にオーダーメイドな生き方なのだ。相談全てに答えたくて開講したのが「女性起業塾」。〝年商1億円、年収3000万円を自分らしいオンリーワンビジネスで目指す〞。そんな手法を提唱すると、テレビ局がこぞって取材にきた。地方の人の為に『自分の会社をつくるということ』という本を書いたら飛ぶように売れ、ビジネス書では異例の10万部のベストセラーに。ますます注目が集まった。
当時アラサーの私に、テレビ・新聞だけではなく女性誌の取材まで殺到した時、「女性の起業はブームになる」そう確信した。そして冒頭のごとく、トレンダーズのオフィスは講座申し込みの電話が鳴り止まない事態に。「女性起業塾」は半年待ちの人気となった。やがて卒業生は2000人を超え、日本一の女性社長ネットワークへ。彼女達は助け合い励まし合い、マスコミを賑わすほどの女性社長を輩出した。
リーマンショックで起業ブームに陰りがさした一方、当時トレンダーズはブログマーケティング事業が大ヒット。上場の準備もあり「女性起業塾」は一旦停止に。
その後、39歳でマザーズに上場した私は当時最年少女性上場社長となり、ミニスカートで東証の鐘を思いっきり鳴らし再びマスコミの注目を集めた。上場企業4000社のうち、女性社長は24人。IT業界に絞るとたった3人だった。今度は女性上場社長を増やすべきと考え、出資する側に回った。
そして昨年。トレンダーズを退任して14年の社長人生に幕を閉じた。小さな会社の頃は悩みながらそれなりに楽しめた社長業も、上場を機に景色が一変した。ハイキング気分からエベレスト登山くらいの緊張感と厳しさ、心労が続き眠れない日々。こんなにも命をすり減らし、まさに心血を注いだ私の大作。でも先頭に立って自分の足で進み続け、目にした光景は爽快で最高だった。事情により万感の思いでその作品を手放した。当分休もう。よくやった。達成感は大きかったが、大変すぎて2度と起業なんてするものかと決意した。
そんな私が、舌の根も乾かぬうちに2回めの起業をしたのはなぜなのか、自分でも正確にはわからない。ただ2000年当時のような熱狂が現在のIT業界にある。ソーシャルメディアやスマホの普及でビジネスの機会が広がったいま、再び起業チャンスなのだ。試しに自分のブログで仲間を募集すると100人もの人がエントリーしてくれた。
私の人生のテーマ「女性が輝く社会」を創るには育児支援が足りないと、ずっともやもやを抱えていた。だったら私がやろう。肩書きを失った私にあるのは起業家としての使命感だった。
ネットの良さをフル活用して、経営者の実績と経験と私財を全て投じよう。Facebookの実名性や利用者の口コミ評価を活かし、中間マージンを排除することで安さを追求し、スマホの即時性を活かした安全・便利なベビーシッターサービスを。お子さんの命をあずかるという厳しい分野だけど、やるなら1回めより難しくて、社会のインフラとなるようなサービスに挑戦したい。日本にベビーシッターの文化が根付くまでやろう。
ただの評論家にはなりたくない。何かを変えたかったら自分が立ち上がろう。理想とする人生は自分で創る。理想とする社会すら自分たちの力で創りたい。社会に共感され、愛され、前に進み続ければ、いつかそれは実現するはず。立ち上立ち上げた新サービス「KIDSLINE(キッズライン)」はいま山を登り始めたばかり。進み続ければ、いつかまた見た事のない素晴らしい景色が目の前に広がり、私たちの夢が叶うと信じている。
理想の会社も社会も自ら創る。
それが女性の自由への近道。
経沢香保子
Text / Kahoko Tsunezawa Photo / Kisei Kobayashi
Hair&Make-up / Maki Tokuji Styling / Yuko Hodono
DRESS 2015 5月号 P.138 掲載
経沢香保子(つねざわ かほこ)
桜蔭高校・慶應大学卒業。リクルート、楽天を経て26歳のときに自宅でトレンダーズを設立し、2012年、当時女性最年少で東証マザーズ上場。 2014年に再びカラーズを創業し、「日本にベビーシッターの文化」を広め、女性が輝く社会を実現するべく、1時間1000円~即日手配可能な 安全・安心のオンラインベビーシッターサービス「キッズライン」を運営中。オンラインサロン「女性起業家サロン」も人気。
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