男を変える近道

「女子は女子らしく」を求められにくい女子校育ちにとっては集団でまとめ役を買うことはとても自然なことです。ただ、男女混合社会に出てからは、男性がそのポジションを占拠しているため、「女子は女子らしく」という態度を求められてしまいます。そんな男性社会について小島慶子さんが語ります。

男を変える近道

先日、あるテレビ番組で「肌がきれいですね」とアナウンサーの方が気を使ってくれたので「はい、レーザーで毎月灼いているので」と答えたら、放送を見ていたメイクさんが「いらんことを言わんでも」と笑っていた。「いえいえ、なにもしていないんですよ」がテレビ的には正解だったのかもしれないが、別にそこで自然体を気取ってみてもな。

今のレーザー技術は本当にすごい。シミをとったのをきっかけに毎月行くようになって4年ほど経つが、行って台に寝れば、先生が肌の状態を見て、いろんな波長のレーザーを当ててくれる。シミの元をやっつけるレーザー、コラーゲンを励ますレーザー、毛穴を引き締めるレーザー、と大体3種類の組み合わせでやってくれる。

ぱちぱちと輪ゴムで弾くような痛みなのだが、私はとてつもなく痛がりのため、器具をうんと冷たくして、顔にもうんと冷たいジェルをたくさんつける。先生は30代半ばの、身をもって美容皮膚科の素晴らしさを証明している美人で、痛がりの私の気をそらそうとしてか、無駄に話が面白い。

面白すぎて施術中に患者が爆笑するのは如何なものかと思うけど、そんな爆笑患者の肌もぬかりなく灼き払ってさっさと終わらせる神スキル。黙っていればとても可愛らしい感じなのに、なぜ必要以上に笑いに持っていくのであろうか。

これは間違いなく女子校育ちだと踏んで尋ねたところ、やはり関西の女子校から医大に進んだという。誰も面白さを求めていない場面で過剰なサービス精神を発揮して、面白い悪口や自虐ネタを繰り出してしまうのは、自意識過剰であるがゆえに女子校でイケてるグループに入れなかった女子の宿命だ。

早速、女子校育ちのバイブル、辛酸なめ子さんの名著『女子校育ち』を薦めたところ、後日「あまりにもツボすぎて同窓生に必読メールを回した」と感動していた。

人が集団になると、盛り上げ役やまとめ役が必要になる。女性ばかりの集団で「きれいな憧れ女子」になれなくても、そういう配役をかって出れば居場所はある。私もその盛り上げ役とまとめ役で生き延びたのだが、困るのは男女混合社会に出たときに、そのポジションが男に占拠されていることだ。

彼らは、当然自分達の役割だと思っているので、女には譲ろうとしない。しかし、話がつまらなかったり、まとめ方が下手な男がのさばっていると非常に邪魔だったり効率が悪かったりするので、ついこちらは彼らよりも面白いことを言おうとしたり、とっととまとめて仕切ってしまう。と、ものすごーく恨まれることになる。この恨み方が実に姑息で湿っぽいことがあるので厄介なのだ。

つい先日、友人が勤め先を不当解雇された。小さな学習塾で、男性の上司が彼女に無理なノルマを課し、残業代も払わずに解雇したというのだ。もちろん彼女は弁護士に相談して対処を検討中だが、話を聞いていると男性上司の嫉妬としか思えない。

彼女は自他共に認めるモテ女で、実に魅力的な見た目をしている。いかにも可愛い女子的なイメージの彼女は、しかし非常に仕事のできる人でもあるので、無理なノルマもクリアし、売り上げを伸ばし、難しい人材も使いこなし、生徒からの信頼もあつく、保護者にも頼りにされていた。

たぶんそれが、無能な上司の癇に障ったのではないかと思うのだ。女子は女子らしくしてろよ、可愛い女子は男に頼っていればいいんだよ、というみみっちい了見で。

「女子は女子らしくして、男の領域を侵さない」が女の世渡りの鉄則だと知っている女性と、そうとわかってはいても効率重視、あるいはそんなアンフェアなことは許すまじと思う女性とでは、今のところ前者の方が得をする場面は多い。

不思議なことに、「女子は女子らしく」を目の敵にする女性と同じくらい、男に媚びて世渡りすることを良しとしない女性に対する嫌悪感をあらわにする女性は多い。「女子は女子らしくしてろよ」に不本意ながらも殉じている自分を否定された気がするのか、それとも本気で女子は女子らしく男を立てるのが美徳だと思っているのか。

それにしても「男は話が面白くてまとめる力があるべき」と言われて育った男性も気の毒だ。別に男性だからってそれが得意とは限らないだろうに。もしかしたら男性社会の中ではそのポジションにつけなかった人が、男女混合社会では女性よりも優位に立とうと躍起になるのかもしれない。

女は男よりも話がつまらなくてまとめる力がない、もしくは男に譲るはずだ、と思い込んでいるところへ、女社会でまとめ役と盛り上げ役をかって出ていた女たちが、あるいは男に譲ることよりも仕事の効率を上げることを重視する女たちがずかずかと乗り込んできたら、彼らのガラスのプライドは粉々になるだろう。

だけどそんな彼らを抱きしめて「いいんだよ、話がつまらなくても、まとめる力がなくても、あなたはダメじゃない」と認めてあげたら、彼らも楽になれるのだろうか。面子にこだわる男社会を変えるには、男に「男を降りたっていいんだよ」と言うのが、近道なのかもしれないとも思うのだ。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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