『セックスレス、それぞれの向き合い方』のバックナンバー
・「恋人を作っていいよ」と告げられた妻。セックスレス夫婦が唯一無二の信頼関係を築くまで・ 「シェアハウスに引っ越したらセックスレスが解消した」 “妻だけED”に悩んだ新婚夫婦の決断
付き合い始めて2カ月で同棲をスタートし、その年の暮れには入籍したという斉藤佳樹さん・亜矢さん夫妻(仮名)。しかし、実は一緒に暮らし始めて間もなくの頃から、佳樹さんは“彼女だけED”に悩まされていたのです。新婚のふたりは、どのようにしてセックスレスを乗り越えたのでしょうか。
“初々しい”という言葉がぴったりの新婚夫婦、斉藤佳樹さん(仮名、エンジニア、27歳)と亜矢さん(仮名、美容師、29歳)。ふたりの出会いは、共通の友人が主催するイベント。
最初は、大勢いる仲間のひとりとして、「会えば話す」くらいの友人関係でしたが、佳樹さんが当時、お付き合いしていた女性と別れたことをきっかけに、「一度ちゃんと話してみよう」とふたりで会うことに。
その初デートで互いに好感を抱き、何回かのデートを重ねた後、佳樹さんのほうから告白。お付き合いが始まり、結婚に至りました。
――付き合い始めて半年で入籍というスピード婚とのことですが、どういうところに惹かれ合ったのでしょうか。
斉藤佳樹さん(以下、佳樹):最初のデートでお酒飲みながら、家族の話を長くしたんです。そこに対する価値観、「仕事も大事だけど家庭はちゃんとしたい」っていうところが、すごく似てると感じて。そのときに「この人と結婚するかも」って思ったんですね。彼女も同じことを思っていたらしいんですけど。
斉藤亜矢さん(以下、亜矢):家族観もそうですし、あとは優しさですね。もともと彼はすごく気が使える人で、人間として素敵だなって思っていたんですが、ふたりきりで会ったことで、男性として惹かれるようになりました。
佳樹:それで付き合い始めたんですけど、ちょうど彼女のほうが、その翌々月に引っ越すことが決まっていて。僕は当時、シェアハウスに住んでいて、いつでも引っ越せる状態だったので、「だったら、引っ越すタイミングで一緒に暮らそうよ」って。
――トントン拍子で一緒に暮らし始めて、すぐに入籍……順調ですね。
佳樹:でも、同棲を始めてからすぐにセックスレスの兆候が出始めてしまって。最初は毎日のようにしていたんですよ。でも、夏に一緒に住み始めて、秋になる頃には、だんだんと期間が空くようになってきて……。二週間に一度くらいに。
ちょうどその頃、仕事が忙しくてとにかく睡眠を優先するようになってしまったんです。彼女に申し訳ないという気持ちも、「しなきゃいけない」っていう義務感もあるんだけど、応じられない。できないのが申し訳ないから、彼女のほうからその話題に触れられないようにもしていました。
――「二週間に一度のセックス=セックスレス」になるかどうかは人によって異なる感覚だと思いますが、相手の気持ちに応えられないことへの罪悪感が生まれていたんですね。亜矢さんのほうは、佳樹さんのそういう変化に気が付いていましたか?
亜矢:はい。けど、めちゃくちゃ忙しいってことを知ってたので、しょうがないかって。
佳樹:それでも入籍するまでは二週間に一度のペースは保っていたんですが、結婚した後に1カ月以上間が空いてしまって、「やばいな」って気まずくて。そもそも二週間に一回でも本意ではなかったし。
僕は同棲をするのが初めてだったので、これまで、自分の生活の中にずっとパートナーがいるという状態を経験したことがなかったんです。まさか自分がセックスレスに陥るなんて想像もしていなくて、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。他の人はどうなんだろうってずっと思ってたんですよ。でも、聞けないじゃないですか。
――セックスレスの問題って、パートナーのプライバシーにも関わってくるから、他人に相談しにくいですよね。
佳樹:そう。ただ、毎日、お風呂に彼女と一緒に入っていたのが、原因のひとつだとは気が付いていて。
亜矢:我が家の浴槽は追い炊きができないタイプなので、「お湯が冷めちゃうから一緒に入る?」って感じで、毎日のように一緒に入ってたんですよね。
佳樹:自分がリラックスしてる状態のときに、すぐ隣に裸の彼女がいるのが当たり前になってしまうと、そこからベッドに行っても、特に気分も変わらず、ただ寝るだけになって。
亜矢:それで「お風呂は別にする?」って提案されて、たまに別に入るようにはしていたんですけど、やっぱり一緒に入ることも多くて。
佳樹:ひとりでお風呂に入るって言うと、彼女が寂しい顔をしたりして、なんだか悪い気がしたんですよね。お風呂を別にしたい理由には、実はひとりの時間が欲しいというのもあって。僕はわりと、ひとりの時間がないと無理なタイプなんです。けど、彼女はずっと一緒にいたいタイプで。だから、どうしたもんかなと。
――一年も付き合っていない関係性だったかと思うのですが、セックスレスになったことに関してどのように向き合っていましたか?。
佳樹:この先の結婚生活は何十年もあるのに、初年でこうなったらどうなるんだろうってとにかく不安でした。まだ20代だし……。あるとき、共通の友人たち5~6人でキャンプに行く機会があったんですけど、そのときにやんわりと、みんなに聞いてみたんです。どうしてるのかって。
亜矢:そのときのメンバーの中にひとり、性の達人みたいな男性がいて(笑)。その人から「どうなの?」って聞かれたので「最近、元気がなくて……」みたいなね。
佳樹:「レスというか、性欲がない」っていう話をしたら、バイアグラみたいなED治療薬をすすめられたんです。でも試さなかったんですよ。薬に頼るのは怖いなって。
亜矢:「ああ、買わないんだ」って思った記憶はありますね(笑)。
佳樹:アダルトビデオを観るとちゃんと反応するので、性欲がまったくないわけじゃないとわかっていたんです。やっぱり、彼女に慣れすぎたことが原因じゃないかって。典型的な「妻だけED(※)」です。
そもそも、自分の家は睡眠のためにあるような感じで、仕事して帰ってきて、お風呂に入ったら寝るっていうルーティンができてしまって、そこにセックスが入る余地がなくなってしまったというか。
――家がダメなら、ラブホテルに誘ってみたりとかは?
佳樹:「ラブホテルに行って、解決するのかな?」っていう疑問もあったし、そもそも彼女は家族なので、ラブホに行こうとも誘いづらくて。
――亜矢さんから、誘ったことはありましたか?
亜矢:何度かありました。でも、いつもかわされてしまって。その度に「そんなに深刻に誘ってるわけでもないし」って、自分の中で悩まないようにしてた気がします。思考にストップをかけて、「そっかー」って流してました。考え始めたらダメだと思って……。
佳樹:僕は僕で、寝る前に布団の中で「今日で(前回のセックスから)何日目だっけ?」とか、いつも考えていて。夜はつい寝てしまうから、朝にやろうとしてみたり。でも、明るいと恥ずかしくて、やっぱり夜だなって思い直したりとか。
――試行錯誤してみたけど、なかなか解決には至らなかったんですね。
亜矢:わたしのほうも、おっぱいを大きくしようとしてマッサージしたりとか、下着を(少しセクシーなものに)変えたりとか。
佳樹:けど、下着を変えてくれても、僕も洗濯をするので、干すときに普通に見てしまうわけで。
――生活しつつ性的な関係をどうやって保っていくかって、難しいことだと思いますが、セックス以外のボディコミュニケーションはどうしていました? キスをしたり、手を繋いだりとかは?
佳樹:それは普通にあるんですけど。でも、キスはだんだん照れくさくなっちゃいました。もともと、僕、照れくさくなっちゃうタイプなんですよね。逆に彼女は、ずっと触れていたいっていうタイプで。電車とか公共の場所でも「くっつきすぎだよって。パブリックだよ」って、よく言ってます。
亜矢:他人はわたしたちに、そんなに興味ないだろうと思ってるので(笑)。
佳樹:ちょうどその頃に、AV男優の方が書いた記事を読んだんですよ。「ひとりの人と、ずっとセックスし続けるのは無理」って書かれていて。「浮気されて怒る人は、相手の欲求にずっと応えられるんですか?」って。
それを読んで、僕は応えられてないなと思った。それで、彼女が外に別の恋人を作るっていうのもありなのかな? という考えに至って「セックスが不満だったら、外に恋人を作っても大丈夫だよ」って伝えたんです。けど、彼女は、それは嫌だって。
亜矢:彼は家族でもあり、そういう(セックスの)パートナーでもあるので、セックスだけを他の人に求めるのは、わたしは、ちょっと無理ですね。好きな人以外との体液の触れ合いが気持ち悪いって思うので、「それは考えられない」と伝えました。
亜矢さん「外で恋人を作る、っていうのはちょっと……」
佳樹:そういう話はしながらも、変わらずセックスは……っていう感じだったんですが、シェアハウスに引っ越したことで、状況が変わったんです。
――夫婦でシェアハウスに引っ越したんですか?
亜矢:もともと私は業務委託の形で働いていたんですが、その契約が終わるかもしれないという話が持ち上がって。
佳樹:それで、僕の収入だけじゃ家賃を払えないと悩んでいたときに、たまたま友達経由で、できたばかりのシェアハウスに入れることになったんです。
もともと彼女と「固定の家を持たずに国内外を移動するような暮らしもしてみたいね」と話していたこともあって、じゃあこれをきっかけにシェアハウスに入っちゃおうかって。今は、一軒家のシェアハウスに住んでいます。それぞれに個室があって、リビングやお風呂なんかは共有で。僕たちはふたりで一部屋を使っています。
――シェアハウスに住むことで、どう状況が変わったんですか?
佳樹:僕がそれまで悩んでいた状況が、すごく好転したと感じていて。子どもがいない夫婦だと、どうしてもふたりだけで世界が完結しちゃうじゃないですか。でも、他の人たちと住むことで、相手の見たことのない一面が見られるんです。集団の中で彼女を見るというのが新鮮で。
たとえば、みんなで話している最中に、彼女のTシャツの胸元がチラッと見えて、ドキッとなる瞬間があったり。そうすると、裸が見たくなって(笑)。部屋に戻ってくっつきたいなとか……これ、ふたりのときは思ったことなかったなって。
――世界が広がったことで、彼女の良さを再確認できたんですね。
佳樹:セックスのやり方も変わるじゃないですか。シェアハウスなので、声を殺さないといけないとか。あまりオーバーにできないし。逆にそれで密着度が高まって、それも新しくて。
たまに誰も帰ってこないときに、ふたりでシャワーを浴びるんですが、そのときはめっちゃドキドキします。前は一緒にお風呂に入っても、何も思わなくなってたのに……。ふたりだけの空間じゃないので、ホテルに行く機会も自然に増えました。
――そうしてセックスが復活したんですね。
亜矢:頻度が増えましたね(笑)。あと、最近彼が筋トレを始めたのも大きい気がしていて。
佳樹:筋トレをしてる友達が、「性生活で困ったことがない」って言っているのを聞いて、なるほど、と。今はジムに週3くらいで行っているんですが、個人的に、精力回復にはスクワットが効くと思います。全身運動で、下半身も鍛えられる。そこはセックスのときに使う筋肉かなって。
亜矢:ふたりで暮らしていた頃、彼は私が寂しいだろうと思って、仕事からまっすぐ帰ってきてくれていたんですが、今はシェアハウスに誰かしらいるから、心置きなくジムに通えるようになったみたいです。
佳樹:前は彼女をひとりにしないように気を使ってたんですけど、今はひとりで映画のレイトショーやジムに行くようになりました。いい意味でふたりの距離があいた分、逆にふたりの時間を大事にしようという気持ちが持てるようになったんです。
――夫婦のセックスを保つ秘訣は、“程よい距離感”。なるほど、納得です。それがわかっていれば、将来的にまたふたり暮らしに戻ったとしても、セックスレスにはならないで済みそうですが、おふたりは今後、またふたりで暮らすことも考えているのでしょうか。
佳樹:実はタイで暮らしたいっていう夢があって。あとは鎌倉とか、その辺りで暮らすのもいいよねって。そしたらまたふたりで暮らそうかな、とは思っています。
亜矢:シェアハウスに入って得たものもいっぱいあるんですけど、わたしは夫の帰りを待ちながらご飯を作る、みたいな時間が大好きだったんです。だから、またふたりで住みたいなっていう気持ちも、やっぱりありますね。
佳樹:ただ、僕たちは、新婚でセックスレスって問題に直面して、それを乗り越えることができたので、この先また夫婦の間に問題が持ち上がっても、話し合って解決していける気がするんですよ。あとはふたり暮らしに戻っても、筋トレは続けるし、お風呂は別々にします(笑)。
(※)性欲自体はあっても、妻または彼女とだけセックスをする気が起きなくなってしまうことを表す俗語