みんなのビキニ

オーストラリアのビーチでは、赤ちゃんから老人までいろんなビキニ姿で泳いでいる。日本でも中年やおばあちゃんにビキニが増えるといい。

みんなのビキニ

一家でオーストラリアのパースに引っ越してちょうど1年経ったのだが、南半球は今は真夏。オーストラリアでは基本的に海沿いに人が住む。内陸部は強烈に乾燥しているので、都市部はみな海沿いにあり、住宅地は延々と海沿いに延びる。私の住んでいる家も、車で5分走ると綺麗なビーチだ。

子供の水泳教室やらビーチで誕生会やら、今日はすることないから海に行こうやら、とにかく夏はしょっちゅう水着になる。ビーチに行くときは、家から水着で行く。水着の上にペラっとなんか羽織るか、ワンピースをスポンと着て、ビーサンで行く。乾燥しているため、シャワーを浴びてタオルで拭くとすぐに乾くから帰りの車の座席はほとんど濡れない。もし濡れても気にしない。

私は水着を2枚しか持っていない。5年くらい前にロン・ハーマンで買った、ジャングルに鳥がいる模様のビキニ。パースで買った白地に青い花みたいなのがついてるワンピース。日本だと、背が高くて胸が扁平な私に合うワンピースはなかなかないが、水着大国オーストラリアにはあらゆるサイズのものがあるので有難い。

浜に行くと、当然みんな水着。赤ちゃんから老人までいる。そして赤ちゃんから老人まで、いろんなビキニ姿が見られる。お肉がはみだそうがシワ腹だろうが関係ない。とにかくみんな好きなビキニを着て、冷たい海で大いに泳ぐ。パースには南氷洋から回り込んだ水が打ち寄せるので、真夏でもなかなかの冷たさなのだが皆さん気にしない。私も少しずつ慣れてきた。

泳ぐ時には水着を着る。自分の好きな水着を着る。だからいろんなビキニが浜を歩く。そりゃ当たり前だ。だけど、どうして日本の浜には若いビキニしかいないのかな。中年のビキニももちろんいるけど、おばあちゃんは滅多にいない。中年でも、若作りとかみっともないとか言われることを気にしがち。女の水着は鑑賞に堪えるものじゃなきゃいけないって、男も女も思い込んでいるみたい。そう、男の欲情をそそるような肉体じゃなきゃ、見苦しいって。でもちょっと待て、すべての女はあらゆる男の喜び組か?!

ワンピースの水着を買うとき、試着して夫や息子たちに見てもらった。3人が「それ似合う」と言った水着は、ほぼピッタリのサイズだけど、お尻の肉が少しムニッとなる。うわ、ハミケツしてない?と思わず言ったら、夫は「水着なんだから当たり前」と言い、息子たちは「ママがケツって言った!お尻じゃなくてケツ!」とそっちに注目。みんな、この肉は気にならんのか?日本だったら男からは「イタいおばさん」女からは「残念な水着(ああはなりたくない)」って言われそうなラインよ?

しかし、確かにいつも行く浜では、ヒップラインがムニムニしているのが普通。必死にラインを直している人なんていない。そうか、そんなこと、誰も気にしてないんだ!…水着をレジに持っていきながら、ああ私、ハミケツを気にしないで水着が着られる国に来たんだわ…と、とても自由な気持ちになったのだった。

ここでは、水から上がるときに尻肉を水着に押し込まなくても、座った時にお腹の余った肉を引っ込めなくてもいい。胸元が貧弱でも、肌にハリがなくても、カラフルな水着を着ていい。人目を気にせずにリラックスして海で遊べるのだ。そしてその姿は、中年でも老人でも、すごく健康的で幸せそうなのだった。

日本の浜がこんなふうになるのはいつだろう。あと15年かかるかな。30年かな。しみじみ考えてしまった。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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