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不妊治療と保険診療の話

不妊治療には、保険診療が適応されるものと、保険適応外とされるものがあります。特に体外受精に関わる診療は、保険をまったく適応できないのが現状。保険診療・自費診療という観点から考える不妊治療について、山中智哉医師が詳しく解説します。

不妊治療と保険診療の話

政治家や議員による「女性の妊娠、出産」に対する失言は、今も昔も変わらず問題になっています。最近もまたありましたね……。

今では、不妊症の原因には女性因子だけでなく、男性因子もあることはよく知られるようになりましたが、かつては「不妊の原因は女性に問題がある」とされたり、「不妊症は病気ではない」と言われたりしたこともあり、ややもすると、ある世代にはそういった認識がまだ残っているのかもしれません。

実際、不妊治療には、保険診療が適応されるものと、保険適応外(自由診療)とされるものがあります。特に体外受精に関わる診療に関しては、保険をまったく適応できないことになっています。

すべての治療を保険適応にすることは、国の医療費の膨張につながることにもなり、不妊治療に限らず、保険が適応されない治療も多々ありますが、政治に関わる方々の認識は医療の方向性にも重要な意味をなすものと考えます。

そういったこともあって今回は、保険診療と自費診療という観点から、不妊治療についてお話しします。

■不妊治療に保険適用できるのはどういうケース?

不妊治療にはさまざまな検査や投薬がありますが、「排卵日にどういう治療をするのか」という視点から見ると、「タイミング法」「人工授精」「体外受精」の3つしかありません。

「タイミング法」は病院やクリニックで何かを行う治療ではなく、ご夫婦に性交渉を行ってもらう方法なので、そのこと自体には保険も自費も関係ありません。「人工授精」と「体外受精」のふたつは自費診療で行うこととなっています。

では、不妊治療に保険が適応できるのは、どういう場合なのかというと、不妊症の原因となる疾患を調べる「検査」と、原因を治療する「投薬」の部分になります。

しかし、ここに不妊治療に保険診療を適応させる難しさがあります。

■保険診療とは

病院を受診されるときのことを思い出してみてください。

通常、病院に行くときには、例えば「お腹が痛い」とか「頭痛がする」とか、何か症状があって受診しますよね。その症状を医療的には「主訴」といいます。

主訴に基づいて、医師は「いつから症状があるか?」「鋭い痛みか、鈍い痛みか」など「問診」を行ないながら、ある程度、疾患を想定した上で、血液検査や超音波検査、CTなどの「検査」を行い、最終的に「診断」をつけ、「治療」をします。

保険診療は、原則、この過程に基づいて行われる必要があり、診療録(カルテ)にもそのように記載する義務があります。また、すべての検査や治療には、それに合った「病名」が必要となります。

■不妊症には「症状」がない

「なかなか妊娠できないこと=不妊症」は、ご夫婦にとって大きな悩みではありますが、多くの場合、「何か症状がある」という状態ではありません。

中には、子宮内膜症が原因の強い月経痛があり、その内膜症が卵巣や卵管の癒着を引き起こして、不妊症となっていることもあります。しかし、この説明は最終結果を述べているだけで、「月経痛が強い」という症状があったとしても、それは子宮内膜症の症状のひとつであって、不妊症の症状ではないということ。

不妊症というのは、医学的に「夫婦またはパートナー同士が、避妊をせずに1年以上妊娠をしない状態」と定義されています。

保険診療において「不妊症」という病名はありますが、他の疾患と異なるのは、患者さんの症状(=主訴)から始まる診療ではないということになります。そして、かつて「不妊症は病気ではない」と言われた所以があるのではないかと思います。

■不妊治療と保険診療

不妊症の原因といわれる疾患が種々あることはわかっていて、「問診」で既往疾患や月経の状態などを確認して、ある程度、推測することはできます。

保険診療にとって「推測」は重要なことです。最終的な「病名」は検査がすべて終わってからしか診断できませんが、推測によって行う検査は「疑い病名」という仮の病名によって保険を適応することができるからです。

しかし、症状のない不妊症の場合、不妊症の原因を推測するにあたっては多岐に渡る疾患を推測することになります。ありとあらゆる不妊の原因疾患を疑って検査をしたという医療行為は、保険診療の審査において妥当ではないと判断されてしまうことも多々あります。

この審査は、各都道府県の厚生局によって行われていて、それぞれ基準が異なる部分もありますが、「排卵日を確認するための超音波検査は月に何回まで」というようなルールが定められています。

保険診療の審査は毎月ごとに行なわれていますが、定期的にランダムに選ばれた10名ほどの患者さんのカルテを厚生局がチェックをして、カルテの記載方法や、検査や治療が保険診療に即したものであるかどうかの精査も行われています。

次回は、不妊治療と保険診療について、もう少し掘り下げるとともに、体外受精治療と保険診療についてもお話しします。

山中 智哉

医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医 現在、東京都内のクリニックにて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっています。 不妊治療は「ご夫婦の妊娠をサポートする」ことがその課題となりますが、...

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