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不幸なできごとが幸せに転じることもある(アパ社長・元谷芙美子)

「私が社長です」のキャッチコピーで知られる、アパホテル社長の元谷芙美子(もとや・ふみこ)さん。順風満帆な人生を送ってきたように見えますが、それは数々の逆風を自ら「いい風」に変えて、前向きに過ごしてきたからこそなのだとか。元気に、かろやかに生きるヒントを伺いました。

不幸なできごとが幸せに転じることもある(アパ社長・元谷芙美子)

「私が社長です」のキャッチコピーで、「アパ社長」として知名度を全国区のものにした元谷芙美子(もとや・ふみこ)さん。印象的な広告だからこそ、記憶に残っている人は多いのではないでしょうか。

レディライクな帽子をかぶって、アパホテルの広告塔として、メディアに露出した途端、「精神衛生上、良くない」「モデルを替えてほしい」など、一部から誹謗中傷の声が寄せられたといいます。

「私の両親は常に前向きな言葉で、私たち3人姉妹を育ててくれたんです。『かわいい』『いい子』って言われてきたから、自分は美人で頭がいい女性なんだと信じて生きてきたんだけど、ああやって批判を受けて、『あ、違ったんや!』って知ったよね(笑)」

傷ついてしまいそうなことをネタにして、豪快に笑い飛ばす元谷さん。24年前にアパホテル社長に就任し、順風満帆な人生を送ってきたように見えますが、決してそうではありません。

アパ本社でのインタビューを通じて、数々の逆風を「いい風」に変えて、元気に、かろやかに生きるヒントを授けていただきました。

■どんな風が吹こうとチャンスに変える

元谷芙美子さんのバストアップ写真

――あの広告について、当時は一部の人から心ない声が寄せられたのですね。

そうね。でも、広告を出して一番困るのは、反応がないこと。風が吹かないとヨットは海で遭難するよね。

追い風じゃなくて、逆風であっても、とにかく風さえ吹けば、舵を切って前に進んでいける。風が吹かない=死につながる、とも言えるからね。

会社も同じで、周りから何か言ってもらえるほうが幸せなんだよ。ピンチはチャンスに変わるから。

■命があるだけでありがたいと思える

――ご著書『強運 ピンチをチャンスに変える実践法』でも感じたのは、社長の一貫したプラス思考。もちろん行動も伴わなければなりませんが、真似したいなと思わされました。

明石家さんまさんの有名な言葉に「生きてるだけで丸儲け」ってあるでしょ。私もまさにそう感じて生きてきたのね。

――この世に生を受けたとき、危ない状態にあったそうですね。

お医者さんからびっくりされるくらいの未熟児で、瀕死の状態で生まれたんだけど、翌朝に運良く回復したんだよね。

奇跡的なできごとは、もうひとつあって。1歳のときに福井地震(※)が起きて、家は崩れたんだけど、倒れてきた仏壇の隙間に体が入って、運良く助けていただいたの。

「二度も助けられた貴重な命だから、芙美子にはきっといいことがあるよ」と両親から言われて育ってきたのね。

そんな過去もあるからなのか、命があるだけで嬉しくて仕方がなくて、どんなできごともプラスにとらえて、人への感謝の気持ちを忘れないようにしてるかな。

※1948年6月28日16時13分29秒に発生した、福井県を中心とする都市直下型地震。規模はマグニチュード7.1。死者・行方不明者は3700人超。

■何が幸せに転じるか、予想はつかないもの

――高校卒業後、進学を断念して、地元の福井信用金庫に就職することになったときも落ち込まなかったのですか?

落ち込む時間がもったいないからね。高3のときに父が倒れてしまい、進学コースの中で私ひとりだけ進学を諦めたけど、希望でいっぱいだった。

大学での勉強は何歳になってもできると思ってた(※)し、何より信用金庫での営業職が面白くてたまらなくて。

※2001年に東京に転居し、自宅から通えてまだ入学試験の終わっていないところが法政大学だったことから、かねてから学びたかったという環境を学ぼうと、53歳で法政大学人間環境学部に入学し、2005年に卒業している。2011年、早稲田大学大学院公共経営研究科博士課程修了。

――夫さんであり、アパグループ代表の外志雄(としお)さんとも、信用金庫時代に出会っていますね。

「人間万事塞翁が馬」っていう言葉があるじゃない。幸せが不幸に転じることもあれば、不幸が幸せに転じることもあるのだから、一喜一憂すべきじゃない。そんなことを実感したできごとでした。

夫が当時、小松信用金庫職員で、労働組合(北信労)の副議長をしていて、会ったときに話のわかりやすさや頭の良さに惹かれたんです。今までいろんな人が講師としてやってきたけど、この人一番頭がいいわ、って感動したの。

■選ぶなら、お金持ちやハンサムよりも「頭のいい男」

元谷芙美子さんの笑顔

――地頭がいい人、ということですよね。

学歴じゃなくて、本当の意味で頭がいい人ね。私は自分よりも頭がよくて、尊敬できる人と結婚したいと思ってたの。

周りの女性たちは、「お金持ちがいい」「背が高くてハンサムな人がいい」とか言ってたけど、そういうのは気にならなくて。

――頭がいい男性は、結局のところ、一番いい男だと思います。

そう。頭のいい人は性格もいいし、優しさもあるからね。自分の人生を大事に生きている人だから、いろんなことを先読みできて、決断力もある

見た目とか財力ばかりに惹かれるんじゃなくて、この人は地頭がいいかどうか、っていう視点で見たほうがいいよね(笑)。

■尊敬できる人とパートナーになるとうまくいく

――肝に銘じます(笑)。夫婦として、そして仕事上のパートナーとして、長く二人三脚で生きていく秘訣はなんでしょうか?

もう結婚して50年近くになるって、自分でもびっくりする(笑)。相手のことを尊敬できるかどうか、に尽きるかな。

夫はとても能力が高い人で、今でも日々成長していて、私は夫からいろんなことを教えてもらって、24年も社長業をさせてもらってる。

尊敬していたらすべてが良い方に信じられるし、共に仕事を通じて社会に貢献できていることに、感謝しかないよね。

思ったことを天真爛漫に伝えることも大事かな。夫のことを本当にすごいと思っているから、私はよく褒め言葉を口にするの。

そのとき、持ち前のサービス精神を加えて言葉を発してるけど(笑)、決して嘘はついてないのね。

思ってもいないことは絶対に言わないの。気分良く仕事をして、自宅でくつろいでもらいたいから、ポジティブな言葉を伝えるようにしています

■聡明に、きれいに戦う人であれ

――最後に、もし元谷さんが現在の社長という地位ではなく、いち社員としてアパホテルに勤めていたとしたら、どんな気持ちで働いていると思いますか?

ずっと平社員でいたくないから、戦い抜いて人気を獲得して、まずは役員を目指すかな。今もそうですが、私は「ライオンの社長」になりたいと思っていて。

――ライオンの社長?

こんな話があるの、知ってるかな? 統計学上、社長ひとりがライオンなら、部下100人が羊でもライオンに変えられるの。

でも、社長ひとりが羊なら、部下100人がライオンでも、羊の群れのような優しい組織になってしまう。トップに立つものは羊の部下をライオンに変える気概がないといけない。

そういった気概をもったうえで、“自分”というブランドを確立して、聡明に、きれいに戦うジャンヌ・ダルクのようなリーダーでありたいと思っています。

(編集後記)
エネルギーにあふれ、どこかチャーミングで、しなやかな強さを全身から発しているかた。それが生の元谷社長を初めて前にしたときの印象でした。

「息子のお嫁さんたちや孫たちからも日々学ぶことがたくさんあるの」。話の中で出てきたこんな言葉からも、社長として、現役不動産営業マンとして働く若々しさや勢いを感じさせられたのでした。

元谷社長の著書『強運 ピンチをチャンスに変える実践法』では、「幸運を運ぶ7つの習慣」として以下の7つが紹介されています。

・自分をラッキーだと思う
・人付き合いはバリアフリーで
・人のいいところだけを見る
・あいさつは一足お先に自分から
・いつもまっさらな気持ちで
・健康の秘訣は「とことん仕事を楽しむ」こと
・お願いごとは明るく、真摯に


シンプルなようでいて、シンプルなようでいて、常に維持することは難しい7つの習慣。でも、これらを実践し続けることで、元谷社長のように元気に満ち溢れ、自分の人生を愛し、謳歌する人に少しでも近づけるのではないかと感じたのでした。


Text・Photo/池田園子

↓ 元谷芙美子さんの著書はこちらから ↓

元谷芙美子さん プロフィール

元谷芙美子(もとや・ふみこ)さん

アパホテル社長。福井県福井市生まれ。県立藤島高等学校を卒業後、福井信用金庫に入社。1971年、夫が起業した信金開発株式会社(現アパ株式会社)に入社。1994年、アパホテル株式会社取締役社長に就任。2011年、早稲田大学大学院公共経営研究科博士課程修了。2012年6月、東京国際大学客員教授就任。アパホテルネットワークの部屋数は2018年6月現在で7万5000室超に。著書に『強運 ピンチをチャンスに変える実践法』などがある。

※こちらは2018年6月21日に公開した記事内のリンク切れなどを修正したうえで再掲載したものです。

6月特集「聞かせて、先輩」

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6月特集は「聞かせて、先輩」。自分らしくありたい。自分らしく生きたい。でも、周りの目が気になることもある。そんな方に届けたいのが、自分なりのモノサシを持って、わが道を切り拓いてきた人生の先輩たちのお話。自分が目指す生き方を貫くヒントを探ります。

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