子どもたちを守るための活動は、政治ではなく、人間性の話。
アメリカでは、フロリダの高校での銃乱射をきっかけに、10代の子どもたちが自ら声を上げ、銃規制を求める運動を起こしています。そんな子どもたちの姿に胸を打たれ、ここポートランドでも「自分たちができることから始めよう」と「ソウルボックス」制作に誘ってくれたママ友がいました。今回は、彼女にその活動や思うところを伺いました。
■【背景】アメリカ銃社会と立ち上がった高校生
高校生自らが立ち上がり、世論や法律を動かすきっかけになったのは、今年のバレンタインデーに起こったフロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校での銃乱射事件。この事件では、19歳の卒業生の少年が、ライフル銃で15人の生徒とふたりの教師の命を奪いました。
この事件が起きたとき、「またか」と思った人は少なくなかったと思います。こんな痛ましい事件が「珍しくないこと」になっているのが現実だからです。
実際、銃規制を呼びかけるアドボカシー・グループ「Everytown for Gun Safety」によると、2018年に入ってから、銃に関係する事件が学校もしくはその周辺で起きるのは、これで18回目だそうです。
また、2016年には、 当時犯罪史上最悪の死者50名、負傷者53名を出した「オーランド ナイトクラブ銃乱射事件」が、2017年にはさらにその被害者数を上回る死者58名、負傷者546名を出した 「ラスベガス・ストリップ銃乱射事件」が立て続けに起こり、メディアでも大々的に取り上げられていました。
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それなのに、未だ多くの州でビールも買えない年齢の若者でさえ、度重なる銃乱射事件の凶器AR-15ライフルを購入することができ、一向になくならないスクールシューティング。
しびれを切らした若者たちは、自らメディアで意見を述べ、政治家に意見し、デモを企画、実行することで、世論を動かし始めたのです。
VOX mediaによると、3月24日に彼らの呼びけかに応じて全米各地で実現したデモ「March For Our Lives(我々の命のための行進)」には、120万人以上が参加し、これは若者主導のベトナム反戦デモ以来最大規模だと伝えています。
■銃乱射事件に対する小学校や保護者の反応
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グレースさんは、小学1年生と5歳の子どもの母親。より良い環境で家庭を築きたいと2007年に舞台女優を引退し、ニューヨークからポートランドへと引っ越してきました。
彼女の長女は、私の娘と同じ公立小学校に通っています。
この小学校は、比較的治安の良い地区にありますが、入学当初から地震や火事に対する避難訓練と同じように、武器を持った不審者が侵入した場合の避難訓練(ロックダウン)も行われています。
フロリダ州の高校での銃乱射事件以降、2012年コネチカット州で起きた「サンディフック小学校銃乱射事件」、2015年のここオレゴン州ローズバーグ市で起こった「アンプクア・コミュニティカレッジ銃乱射事件」なども改めて思い出され、他人事ではない緊張感を感じるようになりました。
保護者の話題も銃事件にまつわるものが多く、誰もが子供達を守るためにできることを模索し、不安に駆られていたと思います。
そんな頃、娘たちの友人の誕生会でグレースさんと顔を合わせることがありました。彼女は「できることから始めようと思って」と、自身が取り組む活動「ソウルボックス」について教えてくれました。
■ 「ソウルボックス」とは
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「ソウルボックス」とは、銃被害者の「ソウル」を象徴する折り紙の箱(ボックス)のこと。このソウルボックスを作るプロジェクトは、2017年にポートランドで生まれました。
2014年から2017年の間に銃で死傷した16万8558人という、浦安市の人口にも相当する多数の銃被害者の数を、ソウルボックスという目に見える形で示すことで、被害者を悼むと共に、銃規制を実現することを目的としています。
グレースさんは、フロリダ州の高校での銃乱射事件後、子どもたちを守りたいと強烈に願いながらも、凍ったように行動を起こせず、自分の無力さに押し潰されそうな辛い毎日を過ごしていました。
そんなとき友人に誘われ、「サンディフック小学校銃乱射事件」を受けて、ひとりの母親が興した銃規制を求める団体「Moms Demand Action For Gun Sense In America」ポートランド支部のホームパーティーへ出かけました。そこで参加者と話し合う中、ソウルボックス・プロジェクトについて知ったそうです。
■ 自分が得意なことで、無理せずに貢献する
Photo by Grace Shapiro
このプロジェクトについて知ったとき、グレースさんは、これならできる! と強く感じたそうです。時間や場所の制約が少ないという現実的な面はもちろん、折り紙の美しい箱を作るというクラフトは、自分が普段から好きで得意なことだからです。保育園に通う息子や小学生の娘も一緒に取り組むことができます。
また、何かできることを探していた彼女にとって、箱を作るという作業自体が、怒りを沈め、心に平安をもたらしました。しかも、箱という成果が目に見えるのです。
Photo by Grace Shapiro
彼女は、同じような不安や苛立ちを抱えたままのママ友や小学校の先生にも声をかけ、「ソウルボックス」を作る集まりを自宅で開催しました。私を含め、そこに集まったみんなは、できあがった箱を見て、少し心が軽くなるような気がしたと思います。
完成したソウルボックスは、ポートランドで開催された「March For Our Lives(我々の命のための行進)」に運ばれ、銃規制をアピールしました。
■無垢な子ども時代が侵されているのは大人の失態
Photo by Grace Shapiro
デモに参加したグレースさんは、堂々とスピーチをしたり、詩を読み上げる子どもたちに感銘を受けたりしながらも、中高生が、普通に進路や恋愛、友人関係などの心配をする代わりに、命が奪われる心配をしなければいけない、単に子どもでいることが許されないような現実を目の当たりにして、改めてショックも受けたそうです。
「本来なら、私たち大人がすべきことなのに。初めての学校での銃乱射事件は、当然、最初で最後じゃなきゃいけなかったのに……!」
けれども、リベラルなポートランドで考えるよりも、対策として「学校の教師を武装させよう」と言うようなトランプ大統領の支持者も多いこの州や国の銃規制は、かなり大変なようにも思えます。
舞台女優として全米をツアーする中で、銃を所有し共和党支持者が大多数を占めるような田舎町もたくさん見てきたというグレースさん。十分にニューヨークやポートランドのリベラルさが「バブル」であると知りながらも、この先、銃規制が進むことに前向きです。
中国系アメリカ人の彼女は、白人ばかりの田舎街だと相当に目立ち、完全なよそ者として差別も受けてきました。けれど、彼女がその場所へ行き、住民と交流することで、彼らの意識を少し変えられるのだと言います。
「人は知らないことに恐怖を覚えて拒否反応を示すもの。だから、知ってもらうことが、何よりも大切。辛抱強く、彼らの中で腑に落ちるまで。これは、銃規制の考え方にも通じると思う」
Photo by Grace Shapiro
2018年5月7日の時点で、9736個のソウルボックスが集まっています。次の目標は、2019年2月までに1年の銃事件の犠牲者数だという3万6000個を集め、オレゴン州議会議事堂前に山積みにすること。
「銃規制に関しては、もう『政治の話だから』と言う段階じゃない。これは人間性の話。意見がないなんておかしい」とグレースさん。
今日(編集部注:5月18日時点)、また高校でスクールシューティングが起こりました。これは、この8日間で3つ目、今年に入って22回目の学校での銃乱射事件です。
とてもやるせない気持ちになりますが、私も自分には選挙権もないし無力だと諦めていないで、小さなことでも、できることを続けていかなければいけないと思っています。
ソウルボックス・プロジェクトに賛同する方は、こちらに箱を送ってくださいね。
Soul Box送付先:
PO BOX 19900 Portland OR 97280
Soul Box: https://soulboxproject.org/the-project;
<参照記事>
・Business Insider Japan: https://www.businessinsider.jp/post-162201;
・VOX media: https://www.vox.com/policy-and-politics/2018/3/26/17160646/march-for-our-lives-crowd-size-count;
・The Guardian: https://www.theguardian.com/us-news/2018/feb/16/americans-age-to-buy-ar15-assault-rifle-mass-shootings;
・The Wall Street Journal Japan: http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303495304579460483681641764;
・CNN: https://www.cnn.com/2018/05/18/us/texas-school-shooting/index.html;