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結婚や育児で磨きがかかる「他者意識」はマネジメントの武器になる

結婚や育児などを通じて、人は思い通りにならないと理解すること、立場の違う相手の気持ちを想像すること、つまり「他者意識」が磨かれることは、人として成熟する機会のひとつ。我慢をすること、折り合うこと、分け合うこと、助け合うこと、感謝を伝えること――それらは自分の栄養になり、仕事にも活きるようになります。

結婚や育児で磨きがかかる「他者意識」はマネジメントの武器になる

女性が働くことに否定的な男性は未だにいます。しかし、結婚・出産して、職場に戻ってきた当事者として断言しましょう。子育ての経験は、必ずや会社経営やマネジメントの武器になります。

プライベートな都合である産休や育休で職場を離脱する女なんて、使い物にならない――。そんなふうに考えている男性の職場が、果たしてうまくいっているでしょうか? 市場や人権感覚の変化に対応できなくなるのも当然かと思います。

■「他者意識」が磨かれると、仕事にも活きる

長男出産後、家事や子育てに時間を取られて思うように仕事ができなくなってしまったと悲しんでいたころ、あるクライアントさんにこう言われました。

「あれ、お母さんになったね! 鋭い感じが抜けてソフトな印象になったよ」

それを聞いて、私は「ああ、私の牙は折れてしまったのか……」と、絶望的な気持ちになりました。一方で、夫や子どもという他人と長い共同生活をすることは、本当にいろいろと学ぶことが多いとも感じていたのです。

結婚や子育てなどによって、自分とは立場や考えの違う人がいると理解し、相手の気持ちを考えられること、つまり「他者意識」が磨かれることは、人間として成熟する機会になります。我慢をすること、折り合うこと、分け合うこと、助け合うこと、感謝を伝えること。それらは自分の栄養になり、仕事をする上でもきっと役立つものです。

会社は他人の集合体。かつては「社員は家族」と言う日本企業が多くありました。それは、社員を家族のように大事にするという意味だったのかもしれませんが、実際にはひとつの共同体として価値観を強要したり、家族という名目のもと無理を押し付けたりしているところも多かったのではないでしょうか。

今では、子どもであってもひとつの人格であり、親と同じ価値観を強制することはできないと言われるようになりました。会社では、社員同士が助け合ったり、ゴールを明確にして同じ方向を見ることは大切です。しかし、最終的には「他人」だという意識を忘れてはいけません。人格や人権が昔より意識されるようになった今だからこそ、仕事の上でも「他者意識」を磨くことは意味があるのです。

クライアントさんの言葉も、今考えれば「未熟な角が取れて、人として付き合いやすくなった」という意味だったのだろうと思います。もっとも、結婚や子育てをする・しないに関係なく、もともと成熟した感覚を持っている人もたくさんいますが、私にとっては大きな変化でした。

■子どもの遊び方から「時代の未来」が見えてくる

これ以外にも、結婚や出産の経験が、さまざまな場面でビジネスに生かされるチャンスがあると感じます。特に大事なのは、マーケティングの感覚です。

今では小学校高学年に成長した長男が、ゲーム機、パソコンやスマホで私たちとまったく違う価値観で遊ぶ様子を見ると、時代の未来が見えるようです。これは、ネットメディアを中心とするデジタルビジネスを運営するうえで、とても参考になります。

夫との生活を通じて「男ってこんな感じなのか!」という発見もあります。男兄弟がいなければなおさらではないでしょうか。逆に男性から見ると、いろいろと感じるところはあるのでしょうね。そこはきちんと直面して女を理解してもらうのもいいと思います。

振り返ってみれば、私が新卒で入った会社では、独身アラサー美女の教育係から「結婚か仕事か、どちらか選びなさい」と言われたものです。彼女の主張は、こうでした。

「男女平等なんて言っていても、まだ男性社会なのよ。男性と同じように働いていこうと思ったら、結婚を諦めるくらいじゃないとダメ。女を捨てて必死にならないと。もし結婚をしたいのなら、仕事は中途半端になるから辞めなさい」

■部下が続かなかった女性が、育児を経て人を育てる上司に

彼女の目から見ると、私にはそういう覚悟が足りないと感じられたのでしょう。翌年、私は別の部署に異動になりました。落ち込んで、異動先の男性マネージャーに教育係から言われたことをつい漏らすと、彼はこのように答えてくれました。

「蜷川さん、働く女性が結婚をして子どもを持つことで、いいこともあると思うよ。子どもが生まれてから、仕事がさらにうまくいくようになった人もいるんだから」

当時まだ子育てをしながら働いている女性は少なかったのですが、その会社ではひとりだけ、子育てをしながらフレックス勤務をしている女性がいました。彼女は社内外ともに評価が高く、いつも笑顔でポジティブでした。そんな彼女も、昔は他人への要求が高く、いつもキリキリしていて、下につけたスタッフが続かなかったそうです。

でも、彼女は子どもを産んで戻ってから変わりました。子どもは、部下以上に思い通りになりません。そんな子育ての経験から、いろいろなことが許せるようになり、部下の指導もできるようになったのだそうです。人に対するまなざしも優しくなりました。

「いろいろな人の立場で考えられることはプラスになる。それを活かすことができれば仕事の幅だって広がるはずだよ。僕は、彼女が子どもを産んで戻ってきたことは、会社にとっても良かったと思っているよ」

そのときは、「そういうことがあるのかも」という程度にしか聞いていませんでしたが、今ではそれがよくわかります。

Text/蜷川聡子

蜷川 聡子

株式会社ジェイ・キャスト 執行役員。 インターネットメディア協会 理事 1972年生まれ。商社系マーケティング会社を経て、2002年入社。2006年の「J-CASTニュース」創刊時には営業部長として、創成期のウェブメディ...

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