どこか行こうか、どこにする、じゃあ、香港にしよう。他愛のない会話から始まり、1988年1月、香港九龍啓徳空港ら降り立った。
夜半に到着したにもかかわらず、ホテルへと向う的士(タクシー)の窓越し、暗闇から飛び込んできたのは、巨大なおもちゃ箱をひっくり返したような、見たこともない景色。
それは予想もしなかった、とてつもなく強烈に面白い街との出会いだった。
(2ページより引用)
週末はふらっと香港へ、いいもの探しの旅【積読を崩す夜 #25】
【積読を崩す夜】25回目では、『週末香港、いいもの探し』(著:大原久美子)をご紹介します。忙しい毎日でも、香港ならふらっと行って帰れる、週末の小さな旅が可能。ただ観光地をまわるだけではない、生活に根差した素敵でちょっといいものを探す、粋な旅をご紹介します。
■会社を休まず香港週末旅でいいもの探し
積んであるあの本が、私を待っている……。少し早く帰れそうな夜、DRESS世代に、じっくりと読み進めてほしい本をご紹介する連載【積読を崩す夜】。
25回目は、『週末香港、いいもの探し』(著:大原 久美子)を取り上げます。
忙しい毎日だからこそ、旅に出たくなるときがあります。日本に限りなく近いのに、意外と深く知らない場所・香港。
多様な文化を持つ国で、気軽な気分で素敵な日用品を探す旅をご紹介します。
■多様な魅力にあふれる国 香港
毎日の暮らしにまつわる雑誌や広告等で、スタイリストとして活躍してきた著者が、長年、旅をしてきた香港。そこで出会った、道具や雑貨・日用品・食品の数々。これまでの観光ガイドブックでは紹介されていない、一歩踏み込んだ香港の魅力が数多く語られています。
第1章では、「食の道具と雑貨」「日用品と洋品」「身体のケア用品」「食品」というカテゴリーに分けて、さまざまな“ちょっといいもの”が紹介されています。
そして、第2章は、「公共交通」「故事散歩」「展覧散歩」「文化散歩」がテーマ。香港の市井や、多様な文化を持つ人々が織りなす暮らし。そんな毎日が見え隠れするような、リアルな町歩きについて指南されています。
好きになってしまうと、何年も通い続けたくなるような、中毒的な魅力がこの国にはありそうです。
■カジュアルに使いたい、ステンレスポットとの出会い
自分の日常へと気軽に持ち帰ることのできる日用品を探し、出会い、使いこなすことから、この小さく巨大なパラダイスの生活文化により近付こうと夢中になった(中略)
紅茶や中国茶に合う丸みを帯びた、一人用のステンレス製ティーポットに1989年、香港で出会った今でも毎日毎朝、お茶を淹れている。
(3・18ページより引用)
著書内には、日本でいうところの問屋街のような、実にディープなお店の品物が紹介されています。
たとえば、日本に持ち帰ったステンレスのポット。著者が九龍上海街をまわっていたら、棚の上で埃をかぶっていたのだとか。掘り出し物を探すような感覚と、モノとの出会いにときめきます。
あまりに高額だったり特別だったりする品物は、毎日気軽に使いづらいものですが、香港から持ち帰ったポットには、旅の愛着だけではなく、ガチャガチャっと使える気楽さがあると著者はいいます。
キッチンのおしゃれなお飾りではなく、いつでも気負わず使える生活感。そんな飾らない魅力が、香港街歩きの買い物にはありそうです。
■問屋街で珍しくて美しいボタンを探す
汝州街にある問屋の店先では目を惹きつけられる白い貝のボタンをディスプレイしている。気に留めながらもウインドウを覗いては何度も通り過ぎていた(中略)
いつもいつも気になっているだけではつまらない。えいっとドアを開けた(中略)
帰国の搭乗ゲート前、鼻先によく知った匂いが流れてきた。どこの誰かは分からなくても、おお、使っている、と思わず親近感を抱くのは我が家にも欠かせない和興白花油の匂いだ。
(67・71ページより引用)
香港には、用品の類にもキッチュな掘り出し物がたくさんあります。
たとえば、東京・日暮里の繊維街のような場所が香港にも。生地やビーズ、リボンテープなど、豊富な種類から選ぶ美しい細工が目をひくようです。
たとえば、繊細で東洋的なデザインの貝ボタン。日ごろ、裁縫などしなくても、パーツとして魅力的。ちょっとしたお土産にもなりそうですね。
身体のケア用品からも目が離せません。「和興白花油」は、香港の定番商品で、こめかみや首筋の疲れや虫刺され、鼻詰まりなどにも効能があるのだとか。香りが爽やかで、著者の定番であるといいます。
新しさだけではなく、今の日本にはもうないような、懐かしいレトロな空気感がある香港。週末、ふらっといいもの探しに出かけてみては。
『週末香港、いいもの探し』書籍情報
著者 大原久美子さんプロフィール
スタイリスト。
雑誌や書籍、広告媒体のインテリア、雑貨、料理を中心に活躍。最近の主な仕事に『ちりめん細工の小さな袋と小箱』『組み方を楽しむエコクラフトのかご作り』(朝日新聞出版)、女性誌(集英社)など多数。香港へは約30年通い続けている。