書道家「海老原露巌」の今日の一文字「天」
墨アーティストで書道家の海老原露巌(えびはらろげん)先生に、漢字「一文字」を書いていただき、『DRESS』読者にその漢字の意味やメッセージをいただくコーナー。第三弾の漢字は「天」。
■「天」をイメージしてみよう
「天」と聞くと、どんなイメージがありますか?
宇宙、空、また人を超えた人の上の存在。
宗教的な世界観においては神の住む理想郷。
などイメージは広がります。
その色は何色なのでしょうか。朝焼けの赤、夕焼けの黄色、雲ひとつない青、紫がかった霞の色。また新月の夜の吸い込まれそうな黒。すべての色を統合したら黒(玄)になりますね。
「天」の字形は人間の体の上部から由来しています。「天」とは人間に関わるすべてを統合した言葉と言えます。
■智永の「千字文」とは
今回は智永の「千字文」の冒頭の文字「天」をテーマにしました。
「千字文」は初回に触れた王義之の筆跡を一千字集め、周興嗣(470年〜521年頃)が作りました。
1000字を重複なしに四言古詩250句にしたもので、以後、さまざまな人が書いています。中国、朝鮮、日本で識字、習字用の教科書として広く近年まで用いられていました。
智永(生没年不詳陳時代から隋時代580年代頃活躍した僧)は王義之の7代目の孫です。いろいろな人が「千字文」を書いていますが、私は智永の書いた「千字文」はテキスト的に優れていると考えます。なぜならその書体は
冷たくもなく
暖かくもなく
辛くもなく
甘くもなく
鋭くもなく
柔らかくもなく
智永の「千字文」には人間としての中庸さがあります。
次に進むためのこうあるべきという、指針のような法帖と言えるでしょう。
■天地玄黄 宇宙洪荒
「天も地も世界はすべての色に満ち、もっと広い宇宙はあふれかえり、わきかえっている」
「千字文」の冒頭の部分です。広大な宇宙観です。天地は地球上のすべてのもの、また宇宙はそれをはるかに超えた世界です。
人間には越えられない壮大な世界です。
■コンプレックスは誰にでもある
人間にはそれぞれ個性があります。すべてが完璧な人間などいないのです。
自分のいいところ、悪いところ、見つめていますか? ときどきでもいいので、自分のいろいろな面に心を向ける時間は必要です。
■書道は道とつくものです
道とつくものは書道、茶道、華道、武道などさまざまですが、道を学ぶとはどういうことなのでしょうか。
自分に向き合い、自分に足りないところは何だろうと考える。そして気づく。マイナスな面を補おう、中庸になろうと努力する。それが道とつくものの学び方の一面です。
■実際に「天」を書いてみよう
ワンポイントアドバイスとしては「気づく」「中庸」。
まず、広大な宇宙空間をイメージしてみよう。空間の構成をどうとらえるかが大事です。
自分に向き合い、偏りをなくし中庸を目指して練習しましょう。人には皆コンプレックスがあります。そこにとらわれる必要はないですが、「気づき」は必要です。
道とつくものを学ぶとは「気づく」ことなのです。心を落ち着かせ、自分の内面に目を向け「中庸を目指す」。そんな思いで「天」と書いてみましょう。