『ノクターナル・アニマルズ』は、人生の中で私たちがなす選択がもたらす結果と、それを諦めて受け入れてしまうことへの、警告の物語です。すべてが、人間関係すらも、あまりに安易に捨てられる廃棄の文化にあって、この物語は、忠誠、献身、愛を語ります。私たちみなが感じる孤独、私たちを支えてくれる人間関係をめぐる物語なのです。
トム・フォード
秋のアート気分にぴったり! 愛と復讐の美しきミステリー『ノクターナル・アニマルズ』に酔う- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#27
グッチやイヴ・サンローランのクリエイティブディレクターとして知られ、自身の名を冠したブランドを主宰する人気デザイナー、トム・フォード。デビュー作『シングルマン』に続く長編2作目となる本作は、主人公スーザンのLAでの生活と、テキサスが舞台の小説の世界、元夫とのNYでの過去の物語が交差する、愛と復讐の美しきミステリーです。
◼︎トム・フォードが魅せる、美しきミステリー
DRESS読者のみなさんなら、一度は「トム・フォード」の名前を聞いたことがあるかもしれません。
グッチやイヴ・サンローランのクリエイティブディレクターとしても知られ、自身の名を冠したブランドを主宰するなど、人気デザイナーとして知られる彼が、実は映画も撮っていることはご存知ですか?
トム・フォード長編2作目となる本作は、愛と復讐の美しきミステリー。
ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞したほか、多数の賞を受賞・ノミネートされた本作は、そのスリリングな展開はもちろんのこと、トップデザイナーであるトム・フォードが手がける美しい映像も必見です。
また、劇中には、トム・フォード個人のコレクションであるアンディー・ウォーホルやロバート・マザウェルらのアート作品や、トム・フォード自らが使用許可を取得したデミアン・ハースト、ジェフ・クーンズらの作品が登場し、秋のアート気分を高めてくれる作品としてもぴったりの一本です。
◼︎Who is Tom Ford? トム・フォードについておさらい
アメリカ・テキサス州オースティン出身のトム・フォードは現在56歳。
「グッチ」や「イヴ・サンローラン」のクリエティブディレクターを経て、2005年に自身のブランド「トム・フォード」を立ち上げると、高い注目を浴びました。
「007」シリーズのジェームズ・ボンドが着るスーツの衣装提供をしたり、アカデミー賞で多くのスターたちが彼のスーツをまとうことから、映画界とのつながりも少なくないトム・フォード。
そんな彼は、クリストファー・イシャーウッドの小説を原作とする映画『シングルマン』を発表し、2009年に映画監督デビューを果たすと、高い評価を受けました。
本作は、そんなトム・フォードの監督第二作目です。原作を大胆にアレンジし、自身のふるさとであるテキサスを舞台に盛り込むなど、オリジナリティ溢れる脚本を完成させました。
トップ・デザイナーであるトム・フォードの美的センスが炸裂した映像は、細部まで美しく、スクリーンから1秒も目を離すことができません。
◼︎『ノクターナル・アニマルズ』ストーリー
アメリカ、ロスアンゼルス。アートギャラリーのオーナーをつとめるスーザン(エイミー・アダムス)は、夫とともに経済的には恵まれながらも、心の満たされない生活を送っていた。
夫・ハットンの経営する会社は傾いており、週末なのに仕事でNYに行くという彼からは、浮気の匂いもちらつく。
そんなある日、彼女の元に小包が届く。それは、20年前に離婚し、何年も連絡を取っていなかった元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)が書いた小説だった。
その小説のタイトルは『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』。”スーザンに捧ぐ”と書かれたその小説を、スーザンは躊躇しながらも読み始めるのだった。
ページをめくりながら、スーザンは元夫・エドワードとの出会いを思い出していた。
テキサス出身で、幼馴染みだったふたりは、ある日NYで再会する。
コロンビア大学の奨学金の面接に来たエドワードと、芸術家の道を諦めてコロンビア大学の大学院で美術史を専攻するスーザン。ふたりは、激しい恋に落ち、結婚を決意したのだった。
だが、保守的なスーザンの母は、財力のない作家志望のエドワードとの結婚に大反対。数年後、ブルジョワ的生活が大切に思えてくるはず、とスーザンに告げ――。
◼︎小説『夜の獣たち』の内容とは?
本編に登場する、元夫エドワードがスーザンに送った小説『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』は、スーザンのLAでの現実の生活と交互に切り替わる形で、映画内で映像化されています。
小説『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』の主人公は、トニー・ヘイスティングス(ジェイク・ギレンホール二役)。
ある夜、トニーは妻のローラ、娘のインディアとともに、ハイウェイを走っていました。
だがトニーは、道中で2台の車から執拗な嫌がらせを受けます。思わずその車に向かって中指を立てたインディアに逆上したその車に車体を当てられ、トニーの車はパンクしてしまいます。
車に乗っていたレイ、ターク、ルーの3人は、一家を車から下ろし、トニーに激しく暴行を加えます。その隙に、レイは妻と娘を無理やり自分たちの車に押し込み、連れ去ってしまったのでした。
荒地に置き去りにされたトニーは一昼夜歩き続け、ようやくみつけた民家に助けを求めます。
事件を引き受けた警備補のボビーと再び事件現場を訪れ、現場検証を行うトニーでしたが、そこで衝撃的な景色を目の当たりにしてしまい……。
◼︎夫婦をめぐるラブストーリーとしても注目!
本作の魅力は、スーザンの暮らすLAでの生活と、小説『夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)』の舞台であるテキサスの物語、そしてスーザンと元夫のエドワードの出会いから別れまでを追ったNYでの物語が、それぞれに交差しながら進んでいく、スリリングな展開にあります。
現実と小説、そして現在と過去が見事に融合され、少しずつ謎が明らかとなっていくその手法は鮮やかで、思わず手に汗握ります。
物語の鍵となるのは、元夫エドワードがスーザンに小説を送ってきた、その理由。
激しい恋に落ちたスーザンとエドワードは、どのようにしてすれ違い、別れを選択することになったのか。スーザンと元夫エドワードの過去を描いたNYのパートは、夫婦の愛と別れをめぐるラブストーリーとしても必見です。
エドワードはなぜ、スーザンに小説を送ってきたのか。愛か復讐か、彼の本当の目的とはーー?
何度でも観返したくなる美しき極上のミステリー『ノクターナル・アニマルズ』は11月3日(金・祝)より全国公開です。
◼︎『ノクターナル・アニマルズ』公開情報
『ノクターナル・アニマルズ』【PG12】
11月3日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本:トム・フォード
原作:「ノクターナル・アニマルズ」(オースティン・ライト著/ハヤカワ文庫)
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン
配給:ビターズ・エンド、パルコ
上映時間:116分
公式サイト: http://www.nocturnalanimals.jp/
©Universal Pictures
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