この愛に泣け!”共感度ゼロ”のふたりが辿り着く究極の愛―『彼女がその名を知らない鳥たち』- 古川ケイの「映画は、微笑む。」#26
『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、実際に起きた事件をモチーフとした原作の映画化に定評のある白石和彌監督が、初の大人向けラブストーリーに挑んだ本作。蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊が演じる登場人物が全員「嫌なやつ」という設定でありながら、ラストに提示されるそのあまりにも美しい究極の愛の形に、号泣必至の一本です。
◼︎あなたの恋愛観を揺さぶる! 究極の愛の形
本作『彼女がその名を知らない鳥たち』で描かれるのは、まさに究極の愛の形。
恋愛に依存せずには生きられない危なっかしさを持ちながら、同居人の陣治にひどい態度をとる女・十和子。
十和子に執着する不潔で滑稽な陣治。
甘いセリフを吐き十和子と不倫の関係に陥る男・水島。
十和子のかつての恋人で、腹黒い策略家の黒崎。
登場人物は全員、共感できないような嫌なやつ。なのにそんな彼らが、彼らだったからこそ見つけることができた愛の形に魂が震えます。
「あなたはこれを愛と呼べるか」というコピーが示す通り、この結末に何を感じるかは観る人次第。どうぞ、あなただけの答えを見つけてください。
◼︎『彼女がその名を知らない鳥たち』ストーリー
自堕落な暮らしを送る十和子(蒼井優)は、15歳年上の同居人・陣治(阿部サダヲ)に養ってもらいながら、自分はまったく働かず、だらだらと日々を過ごしていた。
そんな彼女を心配し、陣治は1日に何度も十和子に電話をかけてくる。自分に強い執着心を見せる陣治に十和子は心底うんざりしていた。
食事中に足の指の間のごみを取り、食べ物をボロボロとこぼす不潔でがさつな陣治に、十和子は苛立ちを隠せない。
唯一、十和子が眠りにつくまで陣治がマッサージを施す間は、ふたりの間に穏やかな空気が流れていた。だがある日、陣治が十和子の胸に手を伸ばしたことで、十和子の苛立ちは爆発する。
汚い言葉で陣治を罵る十和子だったが、陣治はそれに怒るでもなく、ただひたすら謝り続けるのだった。
「レンタルしたDVDが見られなかった」とレンタル店にクレームを入れたり、もう部品がない古い腕時計の修理を断られたデパートに苦情を入れ続ける十和子。
そんな十和子の家に、ある日修理できない時計の代わりに新しい商品を持参した、デパートの売り場主任・水島(松坂桃李)が訪れる。
水島に、8年前に別れたかつての恋人・黒崎(竹野内豊)の面影を感じた十和子は、彼の虜となり不倫関係をスタートさせてしまう。
それからほどなくして、十和子は家に訪ねてきた刑事の酒田から、結婚して「國枝」という姓になった黒崎が、5年前から失踪していることを告げられる。
付き合い始めたころ、うんざりするほど黒崎のことを聞いてきた陣治が、いつからか何も聞いてこなくなったことを思い出した十和子は、黒崎の失踪に陣治が関係しているのではないかと彼を疑い始め……?
◼︎ゲスな男を演じる松坂桃李にも注目!
既婚者でありながら、十和子との不倫関係をスタートさせてしまうゲスな男・水島を演じるのは松坂桃李(まつざか・とうり)さん。
水島が十和子の自宅へ、”修理できなかった腕時計”の代わりに別の商品を持ってくるシーンがあります。水島の前で思わず泣いてしまった十和子に、「すみません、なぜかこうするよりないような気がいたしまして」と、急にキス……!
十和子と不倫関係になってからは、誰かに見られるとまずいと言いながらも、暗がりに導き「してくれる?」とズボンのチャックを下ろしたり……その見事なまでのゲスっぷりは必見です。
ベッドシーンでは「”あー”と言って」と十和子に声を出させたりと、その爽やかな変態ぶりも見逃せません。監督が「(松坂桃李は)本当に誠実にこの薄っぺらい役に取り組んでくれました」と語るその演技は、ぜひスクリーンでご覧ください。
◼︎”イヤミス”の女王、沼田まほかるによる原作小説にも注目!
「この本に描かれている『無償の愛』を映像化してみたいと感じた」
そう話すのは、本作のメガホンをとった白石和彌(しらいし・かずや)監督です。
「この映画は、原作者の沼田まほかるさんの力に支配されている作品になっています。仏像を作る仏師の人たちの『私たちは木くずをはらっているだけ。木の中にいる仏を出しているだけなんです』という言葉を読んだことがあるのですが、感覚はそれに近い。まさにちょっとずつ余計なものを払いながら映画を作り上げていった感覚」と語ります。
そんな強い力を持った原作を書いた沼田まほかるは、若くして結婚し、その後に離婚。主婦、僧侶、会社経営などの経歴を経て、56歳で小説家デビューした異色の経歴の持ち主です。
最近では、2011年に発表した『ユリゴコロ』が吉高由里子主演で映画化され、話題になりました。
本映画の原作にあたる『彼女がその名を知らない鳥たち』は、デビュー翌年に発表した著作第2作目。”イヤミス”(読後にイヤな後味が残るミステリー)という言葉が流行る前から、高く評価されていた作品だけに、未読の方も、本作鑑賞後に読むと、登場人物たちの心情をより深く感じることができるでしょう。
原作を未読の方はもちろん、物語の結末を知っている方でも、この衝撃のラストシーンには改めて打ちのめされてしまうはず。
あなたの心に深く残って離れない、衝撃のラブストーリー『彼女がその名を知らない鳥たち』は、10月28日(土)より全国公開です。
◼︎『彼女がその名を知らない鳥たち』公開情報
『彼女がその名を知らない鳥たち』【R15】
10月28日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:白石和彌『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』
原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
出演: 蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊
配給:クロックワークス
上映時間:123分
公式サイト: kanotori.com
©2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
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