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「人生のすべてを捧げて初めてトップに立てた」女子プロレスラー・紫雷イオの覚悟

女子プロレスラーとして活躍する紫雷イオさん(スターダム所属)。女子プロレス界をリードするトップ選手のひとりです。頂点に立つ人の強さやしなやかさの秘訣は――。インタビュー前編をお届けします。

「人生のすべてを捧げて初めてトップに立てた」女子プロレスラー・紫雷イオの覚悟

器械体操の経験を活かした華麗な空中技に定評のあるプロレスラー・紫雷イオさん。20代後半ながら、キャリア10年の中堅レスラーです。所属する団体「スターダム」を率いるエースであり、プロレス界で高く評価される賞を二度に渡って受賞。国内外で活躍する女子プロレス界の星といえる存在です。

6月には初の自伝『覚悟』を出版。プロレスラーという自身の職業に人生のすべてを捧げる覚悟をしてから、初めてトップに立てたと語るイオさん。トップに立ち、その状態を維持し続ける強さやしなやかさはどうすれば手に入るのか。ひとりの女性であり、プロレスラーであるイオさんに話を伺いました。

■やる気がなかった女子プロレスラー。最初の覚悟を決めるまで

――これまで二度、試合を観戦させていただき、自伝『覚悟』も読ませていただきました。高校生(16歳)でプロレスデビューした当時は、「プロレスラーになりたい!」という強い思いはなかったそうですね。

プロレスのルールやプロレスがどういうものかも知らないまま、わけもわからず始めましたし、「いつやめたっていい」みたいな中途半端な気持ちがありました。今となっては申し訳ない気持ちですけれど……。

――転機は何度もあったと思いますが、最初に「本気でプロレスをやろう」と決意したターニングポイントはなんでしたか。

現在WWE(アメリカのプロレス団体)に所属するASKA選手と私の実姉の紫雷美央(現役引退し、現在はレフェリーとして活躍)と私の3人でユニットを組んでいた時期があったんです。でも、「3人で一緒にいたら自分は一番になれないな」と考えるようになって。

一番になりたい気持ちが勝って、21歳のときにユニットを脱退しました。それからスターダムに参戦するようになり、ちょうど5年前の3月、スターダムに正式に所属することに。プロレスラー人生を振り返ると、スターダムへの所属自体が最初の覚悟だったと思います。

――ということは、所属するかしないか、相当悩んだということでしょうか。

私は3人姉妹の末っ子で、ずっと姉のすることを見て、なんとなくそれに乗っかるタイプの人間でした。自分で何かを切り拓くのは実は苦手で、選択を迫られてから覚悟を決めるまで、相当時間がかかります(笑)。

――サバサバとしたカッコいいイメージがあるので、なんでもサッと決めているタイプだと思ってました(笑)。

「紫雷イオ、スターダム入団」とかメディアで報道されるのは一瞬じゃないですか。話題になったとしても、せいぜい1週間くらいだと思います。でも、そこに至るまでとことん悩んで、信頼できる人に相談して、意見を聞いて……と、膨大な時間がかかっています(笑)。ものにもよりますが、悩みだすと止まらないこともあるんですよね。

――石橋を叩いて渡る、すごく慎重なタイプなのでしょうか。

叩きすぎてぶっ壊すタイプです(笑)。ただ、今は自分の人生でプロレスが一番だし、プロレスのためにすべてを捧げている点では、筋を通しています。それ自体に悩んだり、ゆらいだりすることはないです。

ただ、その大きな筋から枝分かれしている小さな選択肢は悩みがちです(笑)。新しいコスチュームやTシャツの色を決めるときも、何にするのが一番いいんだろうか……と決めるまでに時間がかかるんです。完成したら着てリングにあがったり、販売したりするだけなので、実は私がけっこう悩んだ末に決めている、というのは誰にも伝わってないですけどね(笑)。

■中途半端な向き合い方では、ひとつのものを極められない

――「プロレスのためにすべてを捧げる」と覚悟を決めたのは、何がきっかけだったんですか。

働く女性には共感してもらえると思うんですが、ある程度のキャリアを積んで、責任のある仕事を任されるようになると、重要な選択を迫られる瞬間がやってくると思うんです。仕事と恋愛、仕事と結婚、仕事と趣味……さぁ、どっちを取る? みたいなシーンが。

私はあるときまで、プロレスに100%を注ぐのではなく、プライベートに逃げてしまうこともありました。でも、それだとやっぱり足りなかったんですよね。トップにはなれませんでした。そこで覚悟を決めたんです。絶対に一番になりたいから、自分のすべてを仕事に振り切ろうと。

――プライベートは犠牲にしてもいい、と。

はい。プライベートは捨てて、プロレスに打ち込もうと決めました。そうやってプロレスにすべてを捧げるようになって初めて、トップになれたんです。プロレスに全力を注ぐようになって、いろいろな経験や苦難を乗り越えていると、いつの間にか自分に風が吹き始めた――今振り返るとそんな感覚がありました。

ベストを尽くして、ひとつのものを極めるには、自分の中の中途半端さを排除しないといけないし、他のものはすべて投げ捨てて、集中しなければいけない時期がある。10年弱のキャリアを通してたどり着いた現時点での結論です。

でも、人生を総合的に見たとき、私のようにプロレス(仕事)が一番で、仕事を通して突き抜けた存在になることに喜びを感じている人と、仕事が一番ではなくてもプライベートが充実している人のどちらが本当に幸せなのかな、と考えると正直わからないです。

――なるほど……答えを出しづらい問いですね。ちなみに今(取材当日は2017年8月4日)は欠場中です。8月13日の復帰まで、約1カ月半リングを離れていたわけですが、どんな思いでしたか。

試合をしているときが一番幸せなので、けっこうつらかったですね。欠場期間はあまり長くはなかったですが、プロレスをしていない自分には価値がない、と考えてしまうんですよ。覚悟を決めて人生をプロレスに振り切ったので。だから、その道が一時的であれ断たれたことに、すごく落ち込んでしまうんです。

――どんなに練習やトレーニングを重ねていても、どんなに試合の経験が豊富でも、プロレスラーは危険と隣り合わせな職業だと思います。体を張って魅せてくれることに、ファンは五感を揺さぶられます。一方で、どうしてプロレスラーになる道を選んだんだろう、と純粋に不思議に感じることもあります。

それは根源的な問いかもしれませんね。私もどうして数ある仕事のなかで、プロレスラーを選んだんだろう……(笑)。確かに危険はあります。でも、プロレスをしたい。何よりも「プロレスが好き」という気持ちが上回ってるんですよね。お客さんの歓声を聞きたくて、高い場所から飛んじゃいますし(笑)。

■女性ファンを増やして、女子プロレスをメジャーな娯楽にしたい

――どの試合も全力で戦い、出し惜しみしない。イオさんに限らず、いろいろなプロレスを見ていて、そう思うんです。

私自身は毎試合ベストを尽くしています。体を張って、プロレスに人生を捧げているので。ただ、毎回一番いいものを見せようと努力していても、見てくださるお客さんが少ないと、正直寂しいですよね。ファンの方が必ず見てくださっているのはわかりますが、より多くの方に見てほしいと思うんです。

――以前、試合会場に行ったとき、女性があまりいなくてびっくりしました。

女性のお客さんを増やす、という点では伸び代や改善点は山ほどあります。それは私たち自身の努力はもちろんですが、今回のDRESSさんのように違う業界の方に力添えをいただいて、女子プロレス全体やスターダムの知名度を上げていく必要があります。

どんなジャンルも女性ファンが増えると、一気にメジャーな娯楽になっていきます。例えば、女性アイドル好きな人といえば、昔は男性がメインでしたよね。でも今は女性アイドルに女性ファンもたくさんついています。ライブに行っても女性ファンは本当に多いです。女性ファンを取り込んだおかげでアイドル業界は活性化し、盛り上がっていますよね。

――たしかに。

既存の男性ファンは長く応援してくださっていて、もちろん大切な存在ですが、女性ファンも増やして、「スターダムでデビューしたい」とか「紫雷イオさんみたいになりたい」とか思ってもらえるようにしたいんです。

「YouTuberになりたい」と言っている子どもたちはたくさんいます。でも、今「女子プロレスラーになりたい」と言っている女の子はいったいどれくらいいるんでしょう……。現在の女子プロレス界を盛り上げるのはもちろんですが、私の引退後の未来の女子プロレスが繁栄していくためにも、女性から憧れられる存在にならないといけない、と強く思っています。

■女同士が殴り合う――異世界へトリップできるのがプロレスの面白さのひとつ

――イオさんが観客として女子プロレスを見たとして、どういう点が楽しめるポイントだと思いますか。

いろいろとありますよ。まずは、プロレスは異世界、非日常のものだと思うんです。普通に生きていると、なかなか変わったものは見られません。とくに女子プロレスは、女同士が殴り合ったり、髪の毛を引っ張り合って「なんだこの野郎!」と怒鳴ったり……日常的に見ませんよね、そんな光景(笑)。

――現実ではなかなかお目にかかりませんね(笑)。

だと思うんですよ。あと、いまどきのかわいい子が、リングの上で汗水をたらして一生懸命戦っているのも、女子プロレスの魅力だと思います。

――女子プロレスといえば、テレビ出演が多い神取忍さんやダンプ松本さん、北斗晶さん、ジャガー横田さんなど、レジェンド的な女子プロレスラーを思い浮かべる方も多いと思いますが、今は雰囲気が変わりましたね。

その時代に合わせているんだと思います。スターダムにも今風な若い選手がたくさんいます。小学生でデビューする子もいれば、17歳や20歳くらいの選手も。若い女の子が命をかけてでもプロレスをしたいと、切磋琢磨している姿を見てください。若いアイドルを見て「がんばってるなぁ」と感動するのと似たような気持ちが生まれるんじゃないかと思います。

――まずは一度生観戦をしてみてほしいですね。直近だとおすすめの試合はありますか?

8月19日から「5★STAR GP 2017」という、夏恒例のシングル(1対1)のリーグ戦がスタートします。スターダム所属選手のほか、各国から外国人選手が来日して、女子プロレスラーがしのぎを削る、まさに女の暑い夏が始まるので、ぜひ一度ご来場ください!

(後編につづく)

紫雷イオ(しらい いお)さんプロフィール

スターダム所属のプロレスラー。神奈川県鎌倉市出身。2007年3月4日にデビューを飾り、今年でキャリア10年。スターダムが認定する5つのタイトルを全制覇した実力派。2015年度、2016年度と2年連続で女子プロレス大賞を受賞し、女子プロレス界の頂点に君臨。著書に『覚悟』(彩図社)がある。Twitter( @shirai_io )

Text/池田園子
写真提供/スターダム

DRESS編集部

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