心を女優にするランジェリー選び。着飾るのではなく”整える”ように
“胸キュン”は女性にとって大切な感覚。頬をほんのり赤らめる出来事や、心が弾むような瞬間って、がんばるためのパワーになる。ランジェリー選びもそのひとつかもしれません。「最近ときめきが足りないなぁ」と感じるそんなあなたへ届けたいショートストーリーです。
女に生まれてよかった。
日常の中でふと、そう感じることがある。
ネイルをかわいくしたとき、新作のルージュを塗ったとき、お気に入りのスカートが風にふんわり揺れるとき。あと、大好きな彼に抱きしめられたとき、とか。
ときめきがあると、いつも以上にがんばれる。残業が続いて疲れていても、いろいろ上手くいかない日も。
今日、わたしがいるのはランジェリーショップ。繊細なレース、かわいらしい小花柄、ドキッとするような刺激的なデザイン。お店に入るだけで気持ちが高まる。
スーパーやコンビニみたいにこまめに立ち寄る場所じゃないから、ちょっと非日常で、特別感がある。なんだろう、女にとっての秘密基地、みたいな。
店員さんに声をかけられる。
「こんにちは」
「今日はどういうものをお探しですか?」
「えっと、新しいブラを」
「最近サイズは計られましたか?」
うーんと思い出してみる。うわっ、ちゃんと計ったのって結構前だなぁ……。正直に伝えると、奥の試着室に通される。「リラックスしてくださいね」とやさしく笑ってくれる店員さん。緊張がほぐれる。
■正しい着け方とサイズですか?
「少し前にかがんでください」
言われる通りにからだを前に倒すと、片方のストラップをちょっと浮かせて「失礼します」とカップの中に手を入れて胸を整えてくれる。
脇の方から中心に持ってきて、肩の方向へ引き上げる。力強く、ぐいっと。反対側も同じように。
「バストをきちんとカップにおさめます」
「それだけでも印象が変わるんですよ」
体を起こしてストラップを調節した後は、横を向くように促される。鏡に映るわたしを一緒に見ながら、説明してくれる店員さん。
ブラが水平になっているか、体をひねったときにズレないかどうか。他にもいろいろと教えてくれた。忘れないようにメモをする。
・カップの先が余っていないか
・フロント中心部分が浮いていないか
・腕を上げたときにずれ上がらないか
・アンダーが食い込んで痛くはないか
正しく着けると、胸がすっぽり綺麗におさまる。脇からお肉がはみ出ないし、いつもより胸がつんとしているのも、スタイルがよく見えるのも、うん、気のせいじゃない。
塗る。飾る。そうやって何かを加えて女でいることが多いけれど、ちゃんと“整える”ことも、女として忘れちゃいけないね。ブラに限らず。
「靴を買うときって試着しますよね。毎日履くものだからサイズをしっかり合わせます。それなら、毎日身に着けるアンダーウェアだって同じで」
「それに、体に合ったブラジャーは姿勢まで正しくしてくれます。背筋がぐっと伸びたら、それだけで前向きに過ごせるんじゃないかって、わたし、信じているんです」
■状況に合わせて選んでいますか?
「お探しのブラジャーはどういうときに身に着けられますか? 状況や目的によって、選び方も変わってくるんです」
そう、今回のブラには大事なミッションがある。何だか恥ずかしいけれど、店員さんに話す。ふたりだけの空間だから誰に聞かれることもないけれど、一応、こっそりと。
ふんふんとうなずいて、嬉しそうに笑うお姉さん。
「なるほど。わたしも責任重大ですね」
選び方もいろいろと教えてくれた。これも忘れないようにメモ。
ソファーにごろんと寝転んだり、伸びをしたり、リラックスタイムは普段より上半身のねじれが大きいもの。華奢なストラップや細い胴回りだと、力が加わって食い込みの原因になる。
ベッドやクッションに触れたとき、できるだけ肌にダメージを与えないものがおすすめ。
・ノンワイヤー
・パステルなどの淡くて落ち着いた色味
・通気性のよいもの(メッシュカップなど)
・コットンやストレッチ素材
シャツやカットソーの下に着けるから、ごわごわしたものだと仕事に集中しづらくなる。レースやリボンなどの立体感のあるデザインも洋服にひびいてしまうので要注意。
白色が透けにくい印象だけど、実際は自分の肌に合う色がおすすめ。
・抗菌、防臭素材
・汗やムレを抑える速乾性の高いもの
・シームレス(継ぎ目のないもの)
・肌色に近いベージュやモカなど
ドレスの生地って薄くて繊細。体のシルエットがはっきり出るし、ブラカップのデコボコは目立ってしまう。きっちりとラインを整えて、美しく見せる。
パーティーやデートだと普段より肌見せをすることも。特別な日だから、胸元美人でいられるように。
・繊細なドレスにはモールドカップ
・深いVネックやオフショルダーなどには、ハーフカップや3/4カップがおすすめ
・サテンやレースで気分を上げる
・女度を上げる色(ピンク、赤色)
■こっそりと女優になれる
「ブラってただの下着じゃないんです」
えっ……下着じゃない? どういうこと?
「洋服と違って外から見えない。洋服だと似合うかなぁ、周りからどう見られるかなぁって気にしちゃうこともあるんですけど、ブラは自分だけが知っているものです」
「だから思いっきり冒険していいんです。心の中でくすっと笑っちゃうような、どうだ! って威張っちゃうような、そういうものを身に着けて遊んでもいいんですよ」
いつもはクールに見られるけれど、本当は彼に甘えたいならかわいいものをしてみる。ちょっとセクシーな自分になりたいなら、うんと色っぽいものを。
“いつもの”自分じゃなくてもいい。
誰も知らないところで、こっそりと女優になれる。
――週末。
この前買った、新しいブラ。
店員さんが教えてくれたことを思い出しながら、丁寧に着けてみる。まっすぐ立つと、背中がピンとする。昨日と同じ自分のはずなのに、鏡に映るわたしはどこか誇らしげ。
自己満足でもいい。わたし自身が満足しているなら、今日はきっといい日になる。
勝負の日。ちゃんとできるかな。うまくいくかな。そう思うけれど、このブラが胸といっしょに心まで支えてくれているようで。
「がんばれ」って、背中をグッと押してもらっているみたい。自信が出てくる。
気分が上がるランジェリーは女の味方だ。
見えないところで魔法をかけてくれる。
ああ、わたし、やっぱり。女に生まれてよかった。
がんばる自分に、ときめきを贈ろう。
2017年7月24日公開
2019年8月7日更新
ライター/物書き