マジシャンが教える「大事なときに緊張しない方法」- 人前にでるのは得意ですか?
あなたは人前に立つのが得意ですか? 想像するだけでも緊張して、手がふるえて心臓がドキドキする……。だからこそ、上手に話すことができれば「ステキだ」と印象をあたえることができ、ワンランク上の成果をあげられます。今回は、舞台に立つプロマジシャンに「緊張しない方法」を伝授していただきました。
■人前にでるとき、どうすれば緊張せずにすむ?
マジシャンをしていると「どうすれば人前で緊張せずにすみますか?」と、質問されることがあります。たしかに〝人前にでなきゃいけないとき〟というのは、定期的にやってくるものです。
・飲み会でのあいさつ
・結婚式や式典のスピーチ
・仕事でのプレゼン
・発表会
・パーティや交流会の自己紹介タイム
・司会をまかされたとき
・突然「なにかひとことを」といわれたとき
想像しただけでも、緊張してしまいますよね。僕も学生のころ、教室で発表をするだけでも、前日に手がふるえて吐き気がしたものです。
いまも“緊張しやすい“のは変わりません。そんなことをいうと「ご冗談でしょう? あれほど見事にマジックをしていたのに」なんていわれます。
すると、こちらとしてはおどろくしかありません。この自分が「緊張してないようにみえた」というのですから。
実はプロマジシャンになったいまでも、涼しい顔の裏で、なんとか緊張をごまかしてやりとげているだけなのです。控室では毎回のどをおさえて、ゲエゲエいっております。
それでも「緊張しないんですね!」と感動されるのです。今回は「緊張と上手につきあう方法」とその秘訣をご紹介いたします。
■これだけは気をつけるべし! 緊張をほぐす3つのポイント
①奥歯をくっつけない
まず緊張していないように見せるのにおすすめなのが、とにかく上と下の歯をはなすことです。
ある歯科医師によると、人間は奥歯をかみあわせるだけで、普段の何倍もの力を、自動的にあごに入れることになるそうです。
ですから体の力をぬくには、まず歯の間をあけること。ふと「緊張してるな?」「集中しすぎたかな?」というときは歯をくっつけていたりするものです。
質のいい睡眠のためにマウスピースをはめることがあります。あれも「数ミリでいいから歯と歯の間隔をあける」ことで体の緊張をやわらげる目的があります。
歯のかみあわせは、体中のバランスもつかさどります。普段から健康をめざす意味でも、気をつけるようにしましょう。なにもないのに力を入れる必要はありません。あなたは、いま、歯をかみあわせていませんか?
②姿勢を正す
姿勢を正すとひとことで言っても、具体的には「骨盤を立てる」「胸をはる」「あごをひく」の3つの行為を指します。
リラックスには、ゆったりした呼吸が必要です。
この3つの行動を実行するだけで、空気のながれをスムーズにすることができます。
自分の体のなかに「大きなひとつのパイプ」を想像することもできます。それが縦に、自分の体内をつきぬけているイメージです。それを曲げたり、歪んだり、空気の流れが悪くなることのないように姿勢をつくると上手くいきます。
③しっかり息をはく
人間は、緊張すると息をすってばかりになります。「過呼吸症候群」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
それだと、どうしてもお腹に空気がたまってしまいます。鼻からゆっくり、意識して、息をはくようにしましょう。
8〜10秒ほどかけて、体のなかの空気をだしきるイメージです。吸うことを考える必要はありません。空気をはけば、あとは体が自然に吸い込んでくれます。
呼吸を整えることで、精神を整える。これは武術や、ヨガ、瞑想、自己催眠などにも通じる、昔からの知恵になります。しっかりと息をはきましょう。
■"緊張"は、本当は敵じゃない
マジシャンとして何百回も現場にでるのに、いまだに緊張はなくなりません。むしろホテルやブランドのパーティ……現場のランクがあがるにつれ、成功を期待されるにつれ、仕事人としてのプレッシャーは増すばかりです。
そこで、ある日「そうか、緊張はいつまでもなくならないんだ!」と、気づきました。
同時に「緊張をなくそう」と必死だった自分がかわいくも思えてきました。本当にめざすべきは「緊張をなくすこと」ではなく「緊張と上手につきあうこと」だったのですね。
そう、緊張は「悪いものじゃない」のです。
むしろ適度な緊張は、ちゃんとした結果を生んでくれます。緊張があるからこそ、私たちは、入念に準備をします。気合いをいれて本番にいどめるのです。たとえば、緊張感のないイチローにヒットが打てそうですか? 緊張感のないフィギュアスケートに感動できますか?
そう考えると、すこし気が楽になる気がしませんか? 緊張は、あなたの敵ではなく、ちょっとこわがりの味方なのです。僕も最近では、本番前に緊張してると思ったら「おお、緊張してるな!」と笑い飛ばすようにしています。
なくそうとするから意識してしまう。だから受け入れてあげる。
あとで知りましたが、この「体の抵抗を受け入れてあげる」という発想は、心理療法やセラピーの世界でも使われる、実に理にかなったものなのです。
緊張をなくすためには、まず緊張を受け入れることからスタートする。嫌なできごとも、言葉も、なんだって考えないようにすると、逆に考えてしまうものですから。
■緊張してるあなたも、本当のあなた
数年前のことです。アイドルのオーディションにでるという女性に「どうすれば人前で緊張せずにすみますか?」と聞かれました。最初に書いたとおりの質問ですね。
なんとなく、上に書いたような話をしたあと「でも、緊張してる姿も、ファンは受け入れてくれると思うよ」と僕はいいました。
だからといって「手をぬいて許される」というのではありません。もちろん、全力をつくすとしての話です。一生懸命やって、それでも緊張してる人を、だれが嫌いになれるでしょう?
現場に立つプロフェッショナルなら、たしかに完璧な姿をみせる必要があるかもしれません。そんなプロですら、舞台裏では、憂鬱になったり、ぴりぴり神経をとがらせているのです。
ですから、緊張について説明するとき。「そもそも緊張してる姿をみせてしまう」という考えも悪くないんじゃないかな、と最後にアドバイスするようにしています。あいさつの前に顔を赤くして「緊張してます」と白状しても、みんな拍手をくれると思いますよ。
とはいえ、びしっとキメたいときはキメたいものです。最後に、僕がいつも、心のなかに浮かべるとっておきの言葉を紹介しましょう。なにかの参考になればと思います。マジシャンという仕事の本質も、ちょびっと感じられるかもしれませんね。
「緊張するのはいい。でも、緊張してると悟られるのがだめなんだ」
たぶん今日も、僕は、どこかの舞台でカッコつける前に、控室で、のどをおさえてゲエゲエやっているはずです。そうでなければ鏡にむかって「僕なら大丈夫だ」と半泣きになりながら言い聞かせていることでしょう。
「プロマジシャンもそんなものかな」と、あなたも笑って、上手に緊張とつきあってやっていただければうれしいです。おたがいがんばりましょう。