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米ファッション界のカリスマたちが本音を語る『ファッション・アイコン・インタヴューズ』

NYファッション・ウィークの創設者・ファーン・マリスが、アメリカのファッション業界のカリスマ19人に行ったインタビューを収録。マーク・ジェイコブズ、トム・フォードらファッションデザイナー、フォトグラファー、エディターらが本音を赤裸々に語っています。訳者の桜井真砂美さんにその魅力を教えてもらいました。

米ファッション界のカリスマたちが本音を語る『ファッション・アイコン・インタヴューズ』

カリスマ19人の本音を引き出したインタビューアー、ファーン・マリス

口から出る言葉はその言葉以上に雄弁に語り手のことを物語る、と、この本を読むと改めて感じさせられる。インタヴュアーが語り手と親しい間柄ならばなおさら。

ファーン・マリスはアメリカ・ファッション界の組織づくりと発展に長年尽力してきた人物。そんな彼女のまえでは、ニューヨークをパリ、ロンドン、ローマに並ぶファッションの聖地に押し上げたアメリカ・ファッション界の偉大なるアイコンたちも知らず知らずのうちに素の自分を見せてしまうようだ。

ファーンがゲストに選んだのは、だれもが知っているとびきりのビッグネームばかり。マーク・ジェイコブス、トム・フォード、ダナ・キャラン、マイケル・コース、ブルース・ウェーバーなどなど。よくぞここまでアメリカ・ファッション界のスターを揃えたものだと、ファーンの交友関係の広さに感心しきり。

インタヴューというより世間話のような気楽な感じで会話が繰り広げられていて、ビッグ・スターの本音トークに、ときに驚かされたり、胸を打たれたり。アンドレ・レオン・タリーが全身ルイ・ヴィトンでテニスに興じた理由。実はカウボーイ・ファッションが大好きなトム・フォード。カルバン・クラインの名前を一躍有名にした映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』にまつわる秘話。

ビル・カニンガムのトレードマークの青いジャンパーの秘密。知られざるファッション・アイコンの魅力的なエピソードが満載で、ファンならずとも、ファッション大好き人間は、まるでスターのオフショット写真を手に入れたような、ちょっと得した気分になる。

でも、なにより痛快なのは、ジョークを交えながら、絶妙な間合いでビシビシと核心を突いた質問をゲストに投げかけるファーンのインタヴュアーとしての切れ味のよさ。ファーンの手に(口に?)かかると、ファッション界の重鎮たちもたじたじで、その動揺ぶりや狼狽ぶりを楽しめるのもこの本の魅力のひとつ。

ファーンの包容力で、しゃべりすぎてしまうカリスマたち

ファーン・マリスのインタヴューは、必ず生まれ星座についての質問から始まる。ゲストは、いきなり星占いをもとにぴしゃりと性格を言い当てられてしどろもどろになり、そこへ追い打ちをかけるように両親の話を持ち出され、なんとなくノスタルジックな気分にさせられる。

そうなるともうファーンの思うつぼ。そのままゲストは彼女のペースに乗せられ、苦笑いしながら普段は口にしないことまで訊かれるままについぺらぺらとしゃべってしまう。しゃべりすぎてしまった反省と後悔と開き直りと、いろいろな感情が入り混じって言葉につまるゲストを、ファーンが軽妙な物言いと大きな包容力でさらに深い核心へと誘っていく。

その流れはどこまでも自然で、かえってゲストの言葉がリアルに感じられる。心を許した相手に人は嘘をつけないものらしい。

いまをときめくファッション界のスターたちもその地位に登りつめるまでの道のりは決して平たんではない。優雅で華麗なダイアン・フォン・ファステンバーグの人生にアウシュヴィッツの歴史が影を落としていることを、ファッション界の貴公子マーク・ジェイコブスが心の闇に苦しみ続けていることをどれだけの人が知っているだろう。

インタヴューを通してたどるファッション・アイコンたちの生い立ちから現在までの人生ストーリーは、奇跡あり、災難あり、出会いありと、それぞれにとびきりドラマティックで、へたな小説よりはるかに読み応えがある。成功は決して幸運だけがもたらすものではない。

華やかに見える人生も、実は失敗や挫折の連続で、それをどう乗り越えるかが成功の鍵であることをゲストたちは教えてくれる。あのファッション・アイコンにこの人生あり。七転び八起きのその人生に、親近感を覚え、励まされ、しまいには、波乱万丈であればあるほど人は魅力を増すのだろうかとさえ思えてくるから不思議。人生の荒波を乗り越えてきた人は本当にカッコいい。

彼らの作品がどうしてあんなに素敵なのか、どうしてこんなにも人を惹きつけるのか。その謎を解くカギはこの本のなかに。おしゃれをすることに、人生を生きることに、今まで以上に前向きになれる一冊。

著者プロフィール・ ファーン・マリス

NYファッション・ウィークの創設者でありオーガナイザー。IMG Fashionの上級副社長、CFDAの事務局長を務めており、次のような数多くの業界の賞の受賞者である。Pratt Instituteによる2012年度Fashion Industry Lifetime Achievement Awardや2013年度FIT President’s Lifetime Achievement Award、2014年度など。イギリスのオンライン・メディア『Business of Fashion(ビジネス・オブ・ファッション)』が選ぶ、ファッション業界を形成する人物のトップ500人にも選出された(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

訳者プロフィール

桜井真砂美(さくらい・まさみ)
早稲田大学第一文学部卒業。主な訳書に、『VIVIENNE WESTWOOD ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』、『ブルックリン・ストリート・スタイル ファッションにルールなんていらない』(以上、(DU BOOKS)、『メンズウェア100年史』、『ウィメンズウェア100年史』、『ブリティッシュ・ファッション・デザイナーズ』、『アンダーグラウンド・ロックTシャツ』、『ヴォーグ・ファッション100年史』(以上、スペースシャワーブックス)など。

『ファッション・アイコン・インタヴューズ ファーン・マリスが聞く、ファッション・ビジネスの成功 光と影』

ファッション アイコン インタビューズ

序 文:ラルフ・ローレン
著 者:ファーン・マリス
発 行:DU BOOKS
価 格:4104円(税込)
発売日:2017年4月7日
B5変型 / 480ページ / 並製

トランネット編集部

出版翻訳専門の翻訳会社。年間約150冊、累計1800冊以上を翻訳。日々、日本の読者に読んでもらいたい海外の書籍を探している。

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