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本棚は別世界への入口。推理の海を漂う時間は愛おしい【本棚百景#2】

本棚の中身は、持ち主の脳内や心の中を映し出していることがあります。他人の本棚や読書スタイルというものは、意外に知らないものですが、読む本の変遷は時にその人の生き方さえもあらわしています。連載【本棚百景】2回目は、大阪在住エリさん(仮名)の本棚をご紹介します。

本棚は別世界への入口。推理の海を漂う時間は愛おしい【本棚百景#2】

思い思いのスタイルで過ごす読書の時間。本棚の中身は、そのときどきの持ち主の脳内や心の中を映し出していることさえあります。

だからこそ読書とは、もしかすると生きることそのものといえるのかもしれません。連載【本棚百景】2回目は、大阪在住エリさん(仮名)の本棚をご紹介します。

■本棚の持ち主 プロフィール

ひとり暮らしの部屋のリビングにあるソファとテーブル。

そのテーブルの下に、本を積んでいる。このスペースを超える量になったら即、売りに出す。

会社員(飲食業界)
エリさん(仮名)
大阪府在住・女性・39歳・独身・ひとり暮らし

生まれも育ちも、生粋の大阪育ち。子どもの頃からミステリーと音楽が好きだった。

地元の商業高校卒業後は、レコーディングエンジニアを目指して音楽専門学校へ入学。ドラムの勉強やレコーディングの授業は、単純に面白いと感じた。同時期にはドラムの師匠に師事して、ローディー(サポート業務)を始める。どっぷりと音楽漬けの毎日を送った。

卒業を前にして、スタジオで仕事をするスタッフ職に就くか、レコーディングミュージシャンを目指していくのか、進路について悩みに悩んだ。ところが、もっと違う道が他にあるのではないかと感じるようになり、不安定な音楽の仕事からは思いきって足を洗うことに決めた。

その後、20代前半はなかなか自分のやりたい方向性がつかめないままに、様々なアルバイトを経験。知り合いに声をかけられて飲食系の企業にパート社員として入社し、その2年後に正社員の道に進む。

気がつけば17年……。その間に管理職への打診も何回かあったが、自分はそういうタイプではないと固辞し続けている。ベテランの粋に入りつつ、現在に至る。

■幼い頃に好きだった、自分の基点となる本

玄関には季節の造花を欠かさない。

小学校低学年のときに、運命の出会いが訪れる。学校の図書館で偶然手にとった『シャーロック・ホームズ』。

あまりの面白さにすっかり虜になってしまい、読書そのものに興味を抱くきっかけとなった。いわゆる子どもらしい本ではなく、どちらかというと海外のミストリーに強く魅力を感じて、当然のごとくアガサ・クリスティーを読破した。

そういえば、母親の実家には、『名探偵ポワロ』の映画ビデオが数百本あり、これも大のお気に入りだったことを覚えている。学校帰りに、わざわざ立ち寄って見たくらいだから、よっぽど好きだったのだろう。

同じ頃、テレビでは『ジェシカおばさんの事件簿』という推理ドラマを放送していた。映像と相乗効果で、ミステリーにすっかりはまった少女時代を過ごすことになる。

■大人になってから読むようになった本

一番好きなのは宮部みゆき。東野圭吾作品ももちろん一通り押さえてきた。

横山秀夫や深水 黎一郎。刑事の世界や超心理学、天文……。違う世界を垣間見られて面白い。

綾辻行人、大好物の「館」系だ。

子どもから大人になっていく境目の学生時代は、何よりも音楽の世界に浸かっていたが、それでも読書は変わらず好きだった。

大人になってからは、日本人作家のミステリーに嗜好が変わって、宮部みゆきや東野圭吾は当然、通過する道であった。

特に、宮部みゆきは、時代ものに出てくる、ちょっと人情味溢れる言葉の数々に強く魅かれた。人生でつまずいたとき、励ましになる言葉が多くて素敵だなと、素直に感じた。

ただし、本音を言うと、作家のブランドにはそんなにこだわっていない。本屋に殺人事件モノがあったら、まずはちょっと立ち読み。冒頭を読んで面白そうだとピンと感じたら、無名の作家でも最後まで読んでみることにしている。

強いて言うなら、「館」系が特にお気に入りだ。ストーリーにあわせて、館の見取り図を見ながらひとりで大興奮している。

■本を読むことは別世界を泳ぐ時間

2回目で挫折した作り置きおかず。うまくできた。

ナニワの女に生まれたからには、年1回は吉本新喜劇にも足を運んだりと、アクティブに過ごすことも大好きだ。

でも、読書は基本的に、自宅の近くの川沿いのカフェですることにしている。休日はテラス席を陣取り、大好きなコーヒーを飲みながら、ゆっくりと過ごすのが極上の癒しの時間。

飲食業界は、とにかく毎日忙しい。人の管理や事務処理といった雑務に加えて、店頭にも立ちつづける毎日。接客は決して嫌いではないが、やっぱり体力を消耗するし、人の口に入るものの取り扱いは人一倍神経を使う。

学生時代に音楽を志したものの、自分で決断して違う道を選んだ。そして、この業界で長く勤めた結果、そろそろ違う世界を見てみたい気持ちも少し出てきている。

結婚については、年齢的にもそろそろと周りからも言われるが、こればかりはご縁。どうしても結婚したい、とは正直こだわって考えてはこなかった。ある意味では流れにまかせながら、行くべき道を見極めて決めていこうと考えている。

そんな風につれづれに思いをはせつつ、過ごす読書の時間。日常と現実、そして物語の中の別世界。ふわふわと境目なく泳ぐように横断できる時間は、やはり至極の時間だ。

本棚は別世界への入り口。推理の世界を漂いながら過ごすひとときは、ストレス解消であると同時に、現実逃避の旅でもある。

いや、案外こんな風に曖昧に行きつ戻りつすることで、現実を正面から見つめる時間にもなっているのかもしれない。

ナカセコ エミコ

(株)FILAGE(フィラージュ)代表。書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っています。「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中。 ...

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