美容の買い物は物語を買うのと似ている
行きつけの皮膚科で「目専用のクレンジング」を見つけた小島慶子さん。使ううちにまつ毛が元気になり、まつ毛美容液でケアすると、まつ毛のボリュームもアップ。間違いなくきれいになるアイテムなんて、きっと誰にも決められないけれど、使うときれいになるよと寄り添ってくれる医師の親切心は、高い施術代とセットであっても嬉しい。
前にも書いたが、私は日本に戻る度に、行きつけの皮膚科でフォトフェイシャルをしてもらっている。紫外線の強いオーストラリアでは、気をつけていても海や森で遊べば日に焼ける。海があれば入りたいし、波があれば乗りたいので、ボディボードをしたりもする。
そんなときに日焼けを気にするのは馬鹿らしいが、テレビに出るのが仕事なので、メイクさんにあんまり手間をかけさせるのもどうかと思う。というわけで、日本に戻るたびにシミの芽を焼き払ってもらうのだ。
もう8年くらい担当してくれている、話が面白くて肌がピカピカの女性の先生は、ついでにコラーゲンを励ましたり、毛穴を叱ったりするレーザーも当ててくれる。さらに半年に一度は、超音波だか高周波だかのスゴい波を当てて、肌の代謝を促してくれる。落ちてきた瞼が若干上がったりして、目つきが明るくなるので助かっている。
そのわりには笑うとシワがいっぱいできるじゃないかと思った人もいると思うが、もちろん先生は、隙あらば私の目尻の深いシワにボトックスやコラーゲンを打とうと狙っている。でもアレルギーと針が怖い私は踏み出せずにいるのだ。で、もっぱらメイクさんと照明さんとフォトショップに助けてもらっている。まあ、44歳でシワがあるのは、生きてる証拠だしな。
■目専用のクレンジングと出会ってから……
その皮膚科では、一番偉い男性の先生のおすすめのシャンプーとか化粧品を売っている。決してドーンと大々的に並べているわけではなく、地味な感じで並べている。看護師さんも欲がないというか、特に売り込みもせずほったらかしな感じなのだが、先日その中に「目専用のクレンジング」というものを見つけた。
いや、アイメイクリムーバーじゃないのだ。まつげの根っこの汚れやら脂やらをしっかり洗うためのジェルで、まつ毛が伸びると謳っている。えー、ほんとかなと思いつつも、このところ花粉で目をこすりすぎたせいかやや抜け毛気味で、しかも下まぶたにぷちっと毛穴詰まりができたりすることもあるので、試しに買ってみた。1800円。
青いボトルに入った透明なジェルで、眼科医お墨付きの目にしみない処方とある。確かに、まつ毛の根元をしっかり洗うつもりで使うと目に入らざるを得ないが、痛くない。洗い上がりがスッキリしたので、これはいいかもと思い3日ほどすると、明らかにまつ毛が元気になってきた。
おっ、とやる気になって、さぼっていたまつ毛美容液を塗ってみたところ、相乗効果か1週間で見るからにまつ毛が増えた。会う人皆に「その毛、本物ですか」と聞かれるようになり、大満足。
■どれを使うと確実にきれいになるか、なんて誰にも決められない
早速担当の先生に報告したところ、ああ、あの目専用のクレンジングは一番偉い先生がゲキ推ししたので売ることにしたものの、皆半信半疑で患者さんにもとくにおすすめしていなかったが、効果を実感してくれたなら良かった、とのこと。
一番偉い先生は、痛がりの私がまったく痛くないように超音波だか高周波だかを当ててくれるゴッドハンドの持ち主なので、恩がある。
彼の推しアイテムは地味だけどヒットが多く、誰も知らないイギリスのシャンプーなんかも使ってみると確かに良くて、先生の「いいものをおすすめしたい」という熱意を感じずにはいられない。そのわりには商売気がないので、私のように客が自ら手に取らない限り、彼の伝道は成功することがない。まあそれがいいんだけど。
美容のお買い物は、物語を買うようなものだ。まつ毛が増えたのはたまたまそういうサイクルだったのかもしれないし、食べ物が理由かもしれない。
だけど、こんな地味で説得力に欠ける、仲間からもウケの良くない商品を「でも、きれいになるから使ってほしいんだよな」と、たいした儲けになるわけでもないのに商品棚に並べた先生の思いに、たぶん私はお金を払っているのだ。
数多ある化粧品や美容施術のどれが「間違いない」かは、きっと誰にも決められない。だけど自分の顔でもないのに「これやったらきれいになるよ」と言ってくれる親切は、高い施術代とセットとはいえ、やっぱりありがたいのであった。