【駐妻のリアル #1】駐妻のセレブ生活 vs 積み上げたキャリア、どちらを選ぶ?

【駐妻のリアル #1】駐妻のセレブ生活 vs 積み上げたキャリア、どちらを選ぶ?

駐妻とは夫の海外転勤に帯同する、駐在員の妻のこと。プール・ジム付きの高級コンドミニアムに、メイドや運転手がいる生活。そんな駐妻になれば、セレブな海外生活が期待できる一方、閉鎖的な人間関係に悩まされたり、それまで築き上げてきたキャリアを犠牲にするリスクも……。もしパートナーが海外転勤になったら、あなたはどの道を選ぶ?


「4月から、タイ駐在になった」

数日前に入籍したばかりの夫からそう告げられたのは、もう1月が終わりに差しかかるある日の寒い夜だった。

来期からは自分が働く広告代理店で、リーダーとしてチームを持ちたい、と上司に伝えていた矢先だ。

仕事を辞めることは考えられない。でも、結婚直後だった私たち夫婦には、各々の仕事を優先して数年間別居する選択肢はなかった。

夫の仕事の性質上、いつか海外に行くことはうっすらとわかってはいた。ただ、決まったのがあまりにも突然で、2ヶ月後に東京を離れ、異国で生活をするという事実に、何から手を付けるべきかわからなかったのだ。

■夫との人生を選ぶなら、退職しか道はなかった

翌日、すぐに上司に伝え、人事部に相談した。休職は可能か、もしくは、タイにある関連会社に出向させてもらうことはできるのか。

人事部から返ってきた答えは、明確な「NO」だった。会社の決まりだという(私がもっと優秀な社員なら話は別だったかもしれないが、ここでは横においておく)。

つまり、夫との生活を選ぶということは、私が退職しなければならない、ということ。

当時、30歳手前。自分のことを特別キャリア志向だとは思わないけれど、同世代の女子たちが仕事の戦闘力をどんどん上げている中で、仕事を辞めて家庭に入ることに抵抗があった。

数年間社会と離れてしまえば、正社員として復帰できる保証もない。世帯年収も下がるだろう。

働きたいパワーはあり余っているのに、世の転勤族の妻はこんな悶々とした思いを抱えながら会社を辞めていくのかな……。

自分が選んだ道とはいえ、やりきれない感情をどこにぶつけたらよいのかわからないまま、会議室を後にした。

■タイで待っていたのは、セレブな駐妻生活。しかし……

タイで待っていたのは、想像以上に華やかな生活だった。

プール・ジム付きの高級コンドミニアムはあたりまえ。場合によっては運転手付きの車が用意され、タクシーを生活の足として使う。

メイドが掃除から洗濯、アイロンがけまで身の回りの家事はすべてやってくれるため、とにかく時間はたっぷりある。嫌でも将来について考える時間が増えた。

唯一出なければならないイベントのひとつに、夫の会社の奥様同士で集まる「奥様会」というものがある。目的は「新しい駐妻の歓迎」や「情報交換」。

赴任と同時に登録が義務づけられ、定期的にランチ会が開催されるのだが、ここでの人間関係に疲れ、苦しむ同世代の友人はとても多い。

コミュニティの狭さに、尽きない噂話……。言いたいことがあっても、夫の会社での関係性が悪くなることを懸念して、言い出せない。

目立ったら叩かれる。夫の立場を気にするあまり、何もできない息苦しさもある生活。

自由な時間を趣味やボランティアに費やし、海外生活を謳歌する「キラキラ駐妻」がいる一方で、外界から身を閉ざし、家に引きこもる「ぼっち駐妻」がいるのもまた事実だ。

■「駐妻はすぐ子供を作る」タイの就活中に覚えた違和感

この時間的に余裕があるタイミングで、子供を産み育てる、という選択肢もあった。実際赴任中に、出産する駐妻は多い。

ただ、一体いつ授かるのかわからないし、妊娠・出産しても働き続けたいと思い、タイで就職活動を始めた。

英語はそこそこ、タイ語はまったく話せなかったが、タイには日系企業向けの法人営業をはじめ、英語・タイ語不要の求人が少なくない。

想像はしていたが、駐妻の就職活動は難航を極めた。人材エージェントからも、「駐在の奥様が働くのは難しいですよ」と釘を刺された。

まず、「駐妻」ということで、書類が通らない。書類が通った場合でも、「駐妻なので、給料は通常の7割」など、何かしら条件を付けられた。

ある日系の大手企業の面接では「どうせ数年で帰るんでしょ?」「駐妻はすぐ子供を作るからなあ……」と心ないことを言われた。

積極的に声をかけてくれたのは、数年で転職することがあたりまえの外資系企業ばかりだった。

企業の言い分もわかる。夫の都合でいつ帰国するかもわからない駐妻を採用するよりは、その地でずっと働く可能性が高い人を選ぶだろう。

就職を諦めた時期もあったが、数ヶ月後ある日系企業とご縁があり、タイで働くことが決まった。

■働きたいのに働けない駐妻たち

私は運良く就職先が見つかったが、そもそも渡航先で配偶者が働くことを禁止している企業は多い。駐妻は、就職活動さえ制限されているのだ。

企業の言い分としては、配偶者が働く必要がないくらい手当を厚くしている、とのことだが、夫の会社が自分のキャリアを保証してくれるわけではない。

手当はもちろん赴任期間中のみで、お金をあげるから現地で働くな、とはなんとも帯同者の人生を軽視している制度ではないか。

駐妻が働く場合、就労ビザは夫とは別に取る必要があり、海外転勤手当は減るかもしれない。それでも長期的に見れば、妻が海外で仕事を継続させたり、キャリアアップに挑戦する意義は大きいだろう。

最近は公務員や一部の企業で、配偶者の海外転勤に伴う休職制度や転勤制度を設ける組織が増えてきた。しかし、それはまだほんの一部であり、人材のグローバル化の影で自分の仕事を諦めなければならない妻が多くいるのが実情だ。

海外赴任者数は年々増加しており、自分のパートナーが海外転勤になる可能性は誰だってある。そんな時代に、家庭を選ぶことで一方がキャリアを捨てざるを得ない現状は、変えていかなければならないと思う。

この記事のライター

タイ在住のフリーライター/駐在妻。広告代理店勤務を経て、夫の駐在を機にバンコクへ移住。2017年からは駐妻生活に終止符を打ち、自身も駐在員として働くことを決意。海外転勤族の夫&愛猫と一緒に暮らしながら、国に縛られないワークス...

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