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世渡り上手な女、下手な女

知人とも言い難い希薄なつながりでも、人前で「私たち、仲良しなんです!」と言いきり、楽しそうにふるまう女性はいる。大人の世渡りとしては上手いのだろうけれど、モヤッとする気持ちも……。

世渡り上手な女、下手な女

 あるパーティーで、知人に紹介された女性。そのときは一言挨拶を交わしただけだった。それからだいぶ経って、あるイベントの会場でばったり彼女に会った。ああどうも、と話しているところへ、広い人脈を持つことで知られる有名人X氏が通りかかった。仕事でお世話になっているので挨拶をしようとしたところ、彼女が「Xさん!」と声をかけた。

 ああ、と足を止めたX氏。彼女とはどうやら一度面識があるようだが、よく思い出せないようにも見えた。途中で隣にいる私に気づき、「あれ? 君たち知り合いなの?」と尋ねた。

 知り合いも何も、まだ二度しか会ったことがないし、仕事も交友関係もほとんど接点がない間柄だ。たまたま私の知人が紹介してくれたというだけで、正直言って、彼女のことは何も知らない。
 
 しかし、彼女はすかさず私の腕を取り、ピタッと体を寄せて言った。
「そうなんです! 慶子ちゃんとは、よくご一緒するの」
「へえーえ」
と意外そうなX 氏。私は曖昧な笑みを浮かべ、X氏に(そうでもないです)と目で伝えた。

 X氏が立ち去ると彼女はサッと私から離れて、向こうで立ち話をしている男女に声をかけた。そしてまた女性にピタッとくっつくと、仲良しなんです、とやっている模様。女性の反応は、やはり微妙だ。

 こういうのが平気な人が、私は苦手だ。もしかしたら大人の世渡りの基本のキなのかもしれないけど。

 別に大人に限ったことじゃない。小学生のときから、こういう子はいた。
 小学校6年の運動会。いつもは命令口調で、私を仲間はずれにすることもあった美少女Z子と私は、列の前後に並んでいた。そこへ写真屋さんがやってきて、私たち二人にカメラを向けた。

 Z子はするりと私に腕を絡め、大の仲良しみたいに体を押し付けて、にっこりピースサインをした。彼女にそんなことをされたことのない私は動揺して口をへの字にし、体を突っ張らせてぎこちないピース。後日、廊下に張り出された写真には、輝くような笑顔の美少女と、電信柱のように棒立ちの私が写っていた。

 レンズを向けられた瞬間に、反射的にこの好感度の高いポーズができる彼女の頭の中にはいつも「観客」がいるのだなと思った。きっと幼いときから人目を引く存在だった彼女は、どうすれば自分がより可愛く見えるかを熟知している。どのタイミングにどんな表情をすれば、自分のイメージアップになるか、ひいてはそれが「権力」になるかをわかっているのだ。

 写真の中のあの子は、私と仲良しだから笑ってるわけじゃない。そのほうが可愛く写るから、性格がよさそうに見えるから、腕を巻きつけてアイドルみたいに微笑んだのだ。私を小道具にして。これが一瞬でできるって、すごい反射神経!

 悔しくて、惨めだった。私も、無邪気そうに笑えたらよかったのに。

 「見られる自分」に自覚的な者同士だったら、ノリノリのツーショットで、場の華になることもできるだろう。ほんとはちっとも好きじゃない女とでも、つるめば「楽しそうなイケてる人たち」という地位が手に入るなら、大親友のふりしてインスタに写真をあげるのも平気なのかも。

 X氏の前で、彼女に腕を絡められたときに「そうでもないです」と目で語ってしまった私は、きっと意地悪で、子どもじみているのだろう。見え透いた演技でも、やはり彼女のほうが世渡り上手ってことなんだろうな……。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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