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【運命よりも、幸せになる。 #1】不幸のどん底には宝物が落ちている

約8年前、乳がんを経験した鈴木美穂さん。職場復帰後は、がんで苦しむ人のためにと、様々な活動に励みます。現在はがん患者と支える人の相談センターをつくるNPO法人maggie’s tokyo 共同代表を務める鈴木さんによる「何があっても、今も幸せに生きる方法」を探る連載、始まります。

【運命よりも、幸せになる。 #1】不幸のどん底には宝物が落ちている

あの絶望感は、なんて表現したら伝わるだろう。
胸がキューッと締め付けられて頭が真っ白になり、まさに人生で一番「がーん」と感じた瞬間でした。

24歳の春、私は乳がんを宣告されました。

「結婚も出産も世界一周も夢は夢のまま、わたしの人生はゲームオーバーなんだ……。これまでの人生を楽しみすぎたから、きっとほかの人の3分の1の長さで一生分の幸せを使い果たしてしまったんだ……」

がんの進行度を示すステージは4段階中の3。
右胸の3分の1くらいを占めるのではないかというほどの大きな塊が写るCT画像を見て、人生おしまいだと思いました。

■自分の運命を呪ったあの日

ゼミにサークル、アルバイト、ママチャリで日本縦断してみたり、バックパックを背負って世界を巡ってみたり。
これでもかというくらい学生生活を謳歌した後、幼い頃からの夢だったテレビ局に入社した私は、今振り返ると恥ずかしくなるくらい怖いもの知らずの生意気で幸せな小娘でした。
努力さえすれば手に入らないものはないと信じていました。

そんな私から、がんが奪っていったもの。
当たり前にあると思っていた右胸と髪の毛。
当たり前に続くと思っていた仕事。
当たり前にすると思っていた結婚。
当たり前にくると思っていた明日でさえも……。

眠ったらそのまま起きられないのではないかと不安で眠れなくなり、身体だけでなく心まで病んでいた頃。
自分がみじめで悲しくて、お見舞いに来てくれる友人の笑顔でさえも恨めしく思うほど笑えなくなって、まさに不幸のどん底。
自分の運命を呪い、再び幸せを感じられる日がくるとは到底思えませんでした。

■避けられない死を嘆いても仕方ない

……というのは、私の8年前の話。
ドラマや映画では、こんなふうに誰かががんになると、だいたいそれは死への伏線で、最期まで健気に生きる姿や支える側の愛を描いて涙を誘うのが鉄板だけど、私はそのストーリー展開はまっぴらごめんです。
そもそもがんになっても人生すぐに終わるわけではなく、がんになる前とは少し景色が違う人生が続いていくだけなのに、物語でも、著名人の訃報でも、その先にある死ばかりが悲劇的にフィーチャーされて、いざ同じ病気になってみたら、たまったもんじゃありませんでした。
おかげで闘病中、私は必要以上に死ぬことばかり考え、何度も天国にいく夢を見ました。
そして、生きるのを諦めそうになるギリギリ手前でふと思いました。
生きとし生けるものは必ず死ぬわけで、大切なのは死ぬまでをどう幸せに生きるか、だって。
誰も避けられない死を嘆いて今を不幸に生きているのはもったいなさすぎるって。

■大切なのは今をどう幸せに生きるか

だから、8ヶ月間の闘病を終えて、なんとか復職した頃から行ってきた社外活動や、本業の記者としての取材の裏テーマはすべて「変えられない運命をいかに受け入れ、より幸せに生きるか」ということ。
若くしてがんになった患者を応援するフリーペーパー「STAND UP!!」の発行。
がんになった女性向けのワークショップ「Cue!」の開催。
そして、東京・豊洲に今秋オープンする予定の、がん患者や家族などがんに影響を受けるすべての人のための「maggie’s tokyo」の運営。

人に支えられて今がある。
だから今度は私が、闘病中の自分と同じような思いをしている人のためにできることをやりたい。
そんな強い思いでやってきたつもりのあれこれは、実はすべて自分のためでもあるんだと最近気づきました。
幸い今は再発も転移もないけれど、この先の人生、何があるかわからない。
もし再び壁にぶちあたったとき、死が間近に迫ってきたときに、人生ごと奪われたような気がしたあの日のように絶望せずに幸せでいられるように、と。

■逆境は人を強くする

そうしてがんと幸せを追いかけること8年、中堅記者となった私はおそらくこれまで1000人を超えるがん患者や経験者と出会い、自分の運命を呪いたくなるほどの逆境を機に、より強く深く優しく、魅力的に幸せに生きている人たちがこんなにもいるのだと知り、たくさんの生きるヒントを教えてもらってきました。

そして、思うようになりました。
不幸のどん底に落ちたときにはまるで世界の終わりのように真っ暗で何も見えないものだけど、実はそこにはそこでしか見つからない人生にとっての宝物が落ちているんだって。
それは、自分らしい生き方だったり、価値観だったり、学びだったり。
そして一度それを見つけられたら、実はそこから脱出するための階段も抜け道もジャンプ台もあって、どんな壁も乗り越える方法はひとつじゃないとわかったんです。
私自身まだまだ修行中ですが、私なりに宝物を見つけ、順風満帆に生きていたら知ることもなかったであろう道を開拓しながら、がんに奪われたものよりも多くのものを得て(右胸はまだないまま、結婚もまだできていないですが……!)、冒険し甲斐のある人生を全力で幸せに生きているつもりです。

生きていれば誰でも思い通りにいかないことがあると思います。
この連載では、自分の宝物を見つけた人たちに学びながら、がんになっても、何があっても、今を幸せに生きる方法を探ります。
2人に1人ががんになる時代、読んでくださった方にとって、いざというときに心が軽くなったりそっと背中を押したりする一助になったら嬉しいし、もちろん「がん」を「失恋」など、今皆さんが直面している困難や試練と置き換えて読んでもらってもいいと思います。
自分の運命を投げ出したくなったときに、ふと思い出してもらえるコラムを目指せたらと願っています。

鈴木 美穂

日本テレビ報道局記者、NPO法人マギーズ東京共同代表。 1983年東京生まれ。2006年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、日本テレビ入社。2008年、24歳の時に乳がんが見つかり、8ヶ月間休職して闘病。復職後、社外活動とし...

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