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酔った勢いの後始末【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

男と女の友情は成り立つ?朝、二日酔いとともに目が覚めたら、隣にはよく見知った男友達が横になっていた。な〜んてことは、四十年も独身をしていれば、たまにはあるはず。ですよね?

酔った勢いの後始末【甘糟りり子の生涯嫁入り前】

それまで、まったく男として見ていなくて(端的にいえばセックスの対象ではなかったってこと)、あちらの恋愛相談にのっていたり、平気で手抜きのメークや洋服のまま会っていたり、なんて相手が、自分の真横ですやすやと寝息をたてている。

それも裸で! 寝てんだか寝たふりなんだか、いきなり腕や脚をからめてきたりもして。

年齢のわりに経験不足の私だって、そのテのこと、一度は、いや二度ぐらいはあった……気がする。
友達がいきなり「男」になる。

あれは、複雑な心境になりますね。まずはあせる。あ〜、お酒のばかばか! って叫びたくなる。で、後悔の後に続くのはこそばゆい照れくささ。

それから、ほんの少しの期待。自分たちはこれから、恋人同士という甘い関係になるのかもしれないというささやかな期待も、心のどこかで生まれたりもする。

しかし、性格がまったく「女子」ではない私は、そういう時、とにかく照れが勝ってしまう。意識していなかった人の腹筋とか肩とかその他いろいろを知っている自分が、その場から逃げ出したいぐらいに恥ずかしい。で、昨晩のあれはどうってことないから、ほとんど何もなかったようなもんだから、みたいな態度をとってしまう。ほんと、カワイクない。

もちろん翌日に電話やメールなんてしない。後日、何かの集まりで顔をあわせても、無視はしないし、慣れ慣れしい態度もしない。周囲に勘ぐられない程度の会話で済ませる。←勘のいい人は案外気づいているかもね。

男の人に「あれは何だったの?」と言われても仕方がない。本当は、私だって聞きたいよ、あれは何だったの?って。酔った勢いという答えはわかっていても、内心は別の言葉を待ち望んでいるわけ。でも、期待している言葉じゃなかった時のことを考えると、怖くて確認なんてできないのだ。

結果論だけれど、それで良かった気もする。まず、元に戻りやすい。時間がたてば生々しい記憶も薄れる。薄れるとともに戻ってくるのは、友達という間柄である。

お酒の勢いの延長で恋愛関係になる場合だってあるのは知っている。でも、いったんは冷却したほうが、やっぱりいいと思う。照れくささを乗り越えるのも、恋愛の醍醐味。照れは「クルマのブレーキの遊び」みたいなものだ。

なんてことをあれこれいってみたけど、私は、お酒の勢いのあやまちの後、気まずさを受け入れてきちんと連絡をくれる男性が好き。その先、友人に戻るにせよ、恋愛に進むにせよ、結局そのままフェイドアウトしていくにせよ。二日酔いしてない?とか、元気?とか、なにげない会話でいい。じゃあ、またね、なんて社交辞令があったら、さらに好感度はあがる。また、なんて来なくても、楽しい気持ちになる。

自分では後日の連絡なんて、一切しないくせにね。女尊男卑といわれても仕方がない。差別とか平等とか権利とか、そういうものから解き放たれるのが恋愛でしょ。

開き直ってみました。

男と女の間に純粋な友情は成立する。ずっとそう信じていた。でも、年季の入った大人になると、男性の性欲はほとんど食欲のようなもので、お腹が空いていれば、目の前にあるのがフォアグラだろうがカップヌードルだろうが喰らうという、彼らの性質も理解できる。そんな奴らと友情を成立させるには、こちらも用心しなくてはいけないのだと悟った。

二人の間では、絶えず友情と下心が押しくら饅頭をしている、というか。そういうのもおもしろいと思う。女友達とでは味わえない関係だから。

ところで、この連載のタイトルは「生涯嫁入り前」である。念のため。いつかやってくる、私が嫁ぐその日までの長い紆余曲折の物語なのだ。それなのに、こんなことを暴露して、Xデーがさらに遠のいた気がしないでもない……。

まあ、四十過ぎて、あやまちのひとつも経験していない女はつまらないってことにしておこう。
あ、そうそう、私はここ半年お酒を断っている。理由は、酔った勢いのあやまちが多過ぎて、ではありません。

ただ単に健康のため。信じて!

Illustration / Yoshiko Murata

DRESS OCTOBER 2013 P.37掲載

甘糟 りり子

作家。都市に生きる男女と彼らを取り巻くファッションやレストラン、クルマなどの先端文化をリアルに写した小説やコラムで活躍中。『産む、産まない、産めない』など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」主宰。公式ブログ http://ame...

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