特別展「きもの KIMONO」の公式サイトです。2020/6/30〜8/23、東京国立博物館で開催。
日本文化の象徴として、その過去・現在・未来を見つめる特別展「きもの KIMONO」
日本が世界に誇る民族衣装「きもの」。鎌倉時代から現代までを通覧する大規模なきもの展が、東京国立博物館で開催中です。DRESS着物部の北野さんが、展示会の見どころをレポートします。
皆さんこんにちは。着物部の北野です。 コロナ禍で開催が心配されましたが、会期を変更して東京国立博物館(平成館)で特別展「きもの KIMONO」がはじまりました。 感染予防・混雑緩和のため、事前予約制となっていますが、早速鑑賞して参りました。
日本人の美意識を投影した世界に誇る民族衣装「きもの」。 今回の展示では鎌倉時代から現在まで、染織品や工芸・絵画約300点もの作品が展示される、あでやかで贅沢な構成となっています。主な展示品をご紹介しながらレポートします。
記事表紙に掲載のきもの:
第5章に展示 TAROきもの 岡本太郎原案 東京・岡本太郎記念館蔵 昭和49年頃(1974頃) 撮影:堤 勝雄
■序章 国宝と重要文化財
「きもの」の原型である小袖は、室町時代後期より、染や刺繡、金銀の摺箔などで模様を表し、表着として花開きました。
こちらでは十三世紀鎌倉時代の二陪織物表着、16世紀室町時代の綾織の小袖を鑑賞。 鎌倉時代の織物が色、原形を保って現存していることに感動します。
■第1章 モードの誕生
安土桃山・慶長期、元和・寛永期のモードが展示されています。
豊臣秀吉が天下を統一した桃山時代には、縫箔(ぬいはく)など、豪奢壮大なデザインに紅や萌黄をベースにした明るい色調が流行しました。
徳川家康が覇権を握ると型紙による金箔文様を施した瀟洒な草花文様を全身に施したデザイン、茶や紫といったシックな色調に変化します。時代の変化がファッションの転換にもなっていったようです。
元和から寛永期には「浮世」という儚い世の中を享楽的に過ごそうという思潮が反映された風俗が生まれました。刺繍や金箔、絞りなどで全面に模様を施した「地無」小袖が特徴です。繊細で緻密な加飾に感嘆しました。
重要文化財 縫箔 白練緯地四季草花四替模様 安土桃山時代・16世紀 前期展示:6月30日(火)〜7月26日(日) 京都国立博物館蔵
全身を十字に割った大胆な構成。新春の雪持ち笹、 春の八重梅、夏の藤、秋の紅葉と四季模様がたっぷりの刺繍で表されています。モチーフは丸みを帯びていたり、配色の妙で柔らかな印象を与えならがも植物の生命力が溢れた一領。美しいです。
■第2章 京モード 江戸モード
寛文・元禄期のモード、友禅染の時代、光琳ブランドの流行、江戸のミニマリズム、町家・豪商・太夫・大奥の装い。 寛文のはじめに現在でいうファッション誌のような小袖模様雛形本が刊行されました。新しいデザインが次々と発表され、目新しいファッションに人々が関心を寄せていきました。
寛文期の肩から片身、裾にかけて弧を描くように動きのある模様を大胆に表す特徴的なデザイン様式。幕府の禁令により新たな染めの技法として京都から発展した多彩色による繊細で絵画的な表現を可能にした友禅染。
身分や役職によりきまりがあり、しきたりに応じて着用された江戸大奥の威厳と格式が感じられるよそおい等。各時代の様式の違いがわかりやすく理解出来る、大変見応えのある章です。
上層階級の絢爛豪華な衣装はどれほどの手間暇が掛けられたのか。目を見張る美しさでした。
見返り美人図 菱川師宣筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
皆さんもよくご存じの見返り美人図。華やかな文様と鮮やかな 紅色の振袖姿の若い女性が、振り返る一瞬の描写。玉結びの髪 型、人気女形役者によって広まった吉弥結びの帯。当時の最新 ファッションを描いた作品。
重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
現代でもファンの多い、花鳥の輪郭を簡 略な光琳風に表し、絵画や工芸品のデザ インを手掛けた尾形光琳。光琳の自筆とされる小袖。墨絵と透明感のある藍が目を惹き、画力の高さがうかがえます。
■第3章 男の美学
信長・秀吉・家康の陣羽織や胴服。若衆風のファッション、つうの美学ー下着、江戸っ子の粋ー火消半纏、国芳の浮世絵、印籠や煙草入れなど男性のお洒落小物を鑑賞します。
歴史上の人物ゆかりの衣装は威厳たっぷりです。男のお洒落は裏に凝ると 言われますが、江戸時代から通人は派手な下着を身に着け、隠れたお洒落 を楽しんでいました。
こちらの章では火消半纏が見所の一つです。火事と 対峙する火消に力を与えるような勇壮な描写と刺し子が印象的。火消たち も無事に仕事が終わると半纏の裏を表に返して、裏地の描絵を自慢気に見せて帰ったそうです。
陣羽織 黒鳥毛揚羽蝶模様 織田信長所用 安土桃山時代・16世紀 東京国 立博物館蔵
戦国時代の武将たちは独特な意匠を凝らした衣服を作らせ、 勇壮な姿を印象づけました。信長所用の陣羽織は、黒鳥毛が 用いられた個性的なデザイン。
■第4章 モダニズムきもの(明治・大正・昭和初期)
文明開化とともに、ヨーロッパから産業革命の導入をし殖産興業により国内の生糸生産が活性化しました。
男性の外出着は正装が洋服となり洋 装化が進み、一方で女性は第二次世界大戦前まではきもの姿が一般的でした。西洋文化の流入で素材や技法、模様に新しい風が吹き込み、明治 時代に化学染料が輸入され鮮やかな色彩が表現できるようになり、それ らがデザインに大きく反映されました。
アールヌーボー、デコ、抽象な ど模様の変遷が見られます。上流階層の人々の間では洋花や異国風景などを染めた友禅染が流行し、庶民の間では、華やかな模様を染めた銘仙が流行しました。モードが活況となった時代の息吹が感じられる、華やかさと楽しさがある展示でした。
振袖 淡紅綸子地宮殿模様 昭和時代・20世紀 千葉・国立歴史民俗博物 館蔵
大きな波模様を織り出した地紋の綸子に、中世ヨーロッパの宮殿の室内装飾のような模様の友禅染の振袖。窓の格子が黒で彩色されモダンさが強調されています。
■第5章 KIMONOの現在
こちらの写真のデザインに見覚えありませんか?! 三越のショッピングバッグのデザインは、このきものの模様を元にしています。 友禅の技法で人間国宝の認定を受けている森口邦彦さんの作品。
同じく人間国宝であった父・森口華弘さんが生み出した「蒔糊(まきのり)」の技法を用い、フランスに留学しグラフィック・アートを学んだ素養を活かした作風でモダンなデザインに構成されています。
友禅訪問着 白地位相割付文 「実り」 森口邦彦作 平成25年(2013) 前期展示:6月30日(火)~7月26日(日) 東京・株式会社三越伊勢丹蔵
このほか、芸術家の岡本太郎原案の作品や、辻が花染を蘇らせた久保田一竹のインスタレーション、 現在の人間国宝による作品、そしてアーティストのYOSHIKIさんの作品が鑑賞出来ました。
日本人が育み、守ってきた衣装美、手技、美意識。その感性の凄さを再認識する大充実の展覧会でした! このきもの文化がまたどのような変遷を辿っていくことになるのでしょうか。
平成が終わり令和時代のモードを創造していくのは私達です。染織の素晴らしさを繋いでいきたいですね。 それから豪華な装丁の美術学術書のような図録も素晴らしいですよ。東京へのお出掛けが難しい方は通販もされていますので、ぜひご覧になってください。
夏の暑い期間ですが、ぜひ和装でお出掛けして楽しんでいただきたいです。必見です!
■開催概要
会 期:2020年6月30日(火)〜2020年8月23日(日)
前期展示:6月30日(火)〜7月26日(日)
後期展示:7月28日(火)〜8月23日(日)
会 場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間:9:30~18:00 (総合文化展は17:00まで、夜間開館は実施いたしません)
休館日:月曜日、8月11日(火)(ただし、8月10日(月・))は開館)
入場料:一般1,700円
事前予約制(日時指定券)の導入
混雑緩和のため、本展では事前予約制(日時指定券)を導入します。入場にあ たって、すべてのお客様はオンラインでの日時指定券の予約が必要です。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。