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生理がつらい、イライラする、休みにくい…は女性だけの問題? 生理を個人の責任にしてきた社会とは

生理やそこにまつわる不調は女性だけの問題なのでしょうか。女性がイライラしたり体調を悪くしている、だから周りの人はそれを受け止めてあげている……一見、素敵な考え方に見えるけれど、そもそも”女性個人の問題”として成り立たせたままでいいのでしょうか。DRESS特集、社領エミさんのインタビュー記事です。

生理がつらい、イライラする、休みにくい…は女性だけの問題? 生理を個人の責任にしてきた社会とは

こんにちは! 社領エミです。

突然ですが、私にはほぼ毎月「生理」がきています! 現在すごく子供がほしい私にとって、毎月生理がきてくれるのは本当に大切でありがたいことです。

でも、生理って場合によってはとても大変ですよね。体調を崩したりイライラしたりと、日常生活に支障をきたすこともあります。
かといって、なんとなく会社も休みづらい……。イライラで周りの人に迷惑をかけてしまったり、旅行の日に月経になってパートナーをガッカリさせてしまったりと、なんだか申し訳ないと感じてしまうことも多々。大喜びで生理を迎えられる人ばかりではありません。

……しかし!

「なんか自分が迷惑をかけてしまっている」みたいな雰囲気ですが、果たして私たち人間は生理を「女性個人の問題」と捉えていいのでしょうか?

極端な話ではありますが、「生理」は人類の繁栄のために必要不可欠な生理現象。人類が続いていくために必要なものなのに、どうして生理やそこにまつわる不調は「自己責任」な風潮があるの……? 今ってあまりにも、「生理=女性だけの問題」になってしまっていません!?

もちろん「生理がある人は人類のために子供を産むべき!」となってしまう社会は危険です。”個人”の意思を無視して”全体”を重視してしまう考え方には大きなリスクが存在します。

ただ、「女性が勝手に体調が悪くなったり、イライラしたりしている、それを受け入れてあげているんだよ」っていう社会の空気感はしんどすぎる! 罪悪感を抱くことなく生理の不調をケアしていくためにも、女とか男とか関係なく人類みんなで「生理」について考えていけたらいいんじゃないでしょうか?

というわけで、大学の先生にお話をお伺いすることに!
大阪大学COデザインセンター副センター長、医療人類学者の池田光穂先生です!

池田光穂(いけだ・みつほ)先生。大阪大学COデザインセンター(CSCD)の[社会イノベーション部門]教授ならびに同センター・センター長。専門領域は、中央アメリカの民族誌学と医療人類学。主たる所属学会は、日本文化人類学会、アメリカ人類学会連合、日本ラテンアメリカ学会、日本保健医療社会学会等。

お喋りで、とても気さくな池田先生。そもそも、なぜ月経は「女性だけのもの」として遠ざけられてきたのか? 偏見を解消するために、私たちができることって? 先生の研究室から、遠隔でお話をお伺いします!

■ずっと昔から「穢れている」とみなされていた月経

社領エミ(以下、社領):今日はよろしくお願いします! 先生、そもそもどうして今の社会では、月経(生理)って「はしたないもの」「下ネタ」とか「恥ずかしい」みたいな認識を持たれやすいのでしょうか?

池田先生:これまで長い歴史の中で、月経はずっと「穢れ」とみなされて嫌がられてきたんです。有名な話だと、日本の西南諸島なんかを始めとする日本各地で、月経中の女性が日常的な生活の場から距離を置いた「不浄小屋(月経小屋)」に隔離されてたとかね。

社領:無茶苦茶だー! 聞いたことはありますが、本当だったんですね。

池田先生:日本だけでなく、世界中でもそうでした。世界各地には人に危害を加える呪術において経血が利用されたりしてたし、ニューギニアの男性なんかは月経を鬼のように恐れていたんです。一滴でも触ったら、死んでしまう! と騒ぎ出すくらいに。

社領:世界的におかしな扱いをされてきた歴史があるんですね……。そもそも、なぜ月経はそんなに恐れられたのでしょうか?

池田先生:医学も発達していない時代を生きる男からしたら、股間から血が出るってことが恐怖の対象だったんでしょうね。

社領:まぁ、定期的にどこかから出血するって、ほかにはない生理現象ですもんね。

池田先生:性的な話はほかにもいろいろ偏見がありますよ。19世紀のイギリスの医学書なんて、「男も女もオナニーをしたら脳が腐る」って書かれていたくらいですしね。

社領:ひ、ひどすぎるなぁ~!

池田先生:こういった「月経に対する態度」について、「男性中心主義の価値観が反映されている」と指摘している人もいます。

月経に対する態度は、それが理解・解釈され、一定の行動が当てはめられていく中で構築されてきました。しかしそもそもの調査研究は、往々にして男性の手によって、男性のインフォーマント(現地人の情報提供者)から与えられる情報をもとに行われたもの。これまで私たちの前に提示されてきた「月経が穢れている」という視点は、もしかすると、男性優位のフィルターを通して築かれたものなのかもしれません。

■偏見を解消するには「当たり前だ」と認識すること

社領:今回、「生理」をテーマにした取材ということで300名以上の女性の方を対象としたアンケートをとったんですが、「生理による働きにくさ・生きづらさを感じたことはありますか」という問いに対して「はい」と答えた方が64%もいたんです。

池田先生:具体的には、みなさんはどのような時に生きづらいと感じているんですか?

社領:いろいろあるんですよ! 具体例をいくつか紹介しますね。




・生理休暇がとれない。上司には「体調不良は我慢でなんとかなる」と思われている。

・家族に生理の話をするとすぐに切り上げられる。エロい話、下品な下ネタと扱われてしまう。

・恋人・夫がそもそも生理の仕組みを理解しておらず、勘違いが多い。「生理は夜くる」「自力で日にちをずらせる」など。

・父親に、「生理期間は穢れている」と言われた。





社領:など、主にこういった意見が多く見られました。要するに大半の人たちは、「まわりの人の月経についての無理解」が原因で生きづらさを感じているみたいなんです。

池田先生:ふむふむ。

社領:月経はいま、なぜか「女性が勝手にイライラしてる」「うまくできていない」みたいに「女性個人の問題」として収束されてしまっている。でも、それっておかしいなと思うんです。 極端な話、月経は人類が繁栄していくためにあるものなのに!

先生、このような偏見はどうしたら減らしていくことができるんでしょうか? 男とか女とかの問題ではなく、人類全体で月経をなんとかしていこうって社会が考えられたら、「なんか女性が迷惑をかけている」なんて認識にはならないと思うんです。もちろん、月経が人類繁栄に必要だからといって、「月経のある女性は子どもを産むべき」なんて個人個人の意思を無視した価値観を押し付けては絶対にいけないのですが。

池田先生:なるほど。歴史的な側面からいうと、そういった偏見は医学的に解明されることでなくなることが常ですね。例えば僕、このあいだ股間からめちゃくちゃ血が出たんですけども。

社領:えー⁉ サラッと言ったけど、だ、大丈夫ですか……?

池田先生:もうすっごく驚いて。大慌てで病院に行って、先生に「たくさん血が出た」と必死に病状を伝えたんです。そしたら先生は、ケロッとした顔で「前立腺炎と尿道炎やね、腎臓がんの可能性もあるから検査しましょう」と、ものすごい普通に仰って。つまり、人間は物事がどういうメカニズムで起きてることか理解して、「当たり前のことだ」と認識できれば、けろっと受け入れられるってこと。

社領:なるほど。月経をちゃんと理解している人が少ないから、偏見がのさばっているのかなぁ。男性はもちろん、女性にだってホルモンバランスやPMSのことをちゃんと学ぶ機会があったわけじゃないし……。

池田先生:なのでまず必要なのは、しっかりとした性・生理教育でしょうね。そもそも人間の身体や性の話って基本的に面白いんだから、もっと楽しく勉強してもいいんですよ。

池田先生:例えば月経とは話が違いますが、セックスという行為は動物の中でも人間だけが、愛とか恋とかフェチズムとかいろんな感情を持ち込んでる。非常に稀で、”変なこと”をやってるわけです。そう考えたらめちゃくちゃ面白いじゃないですか!

社領:たしかに……。私が学生だった頃の性教育って、当事者意識がまったく湧かないというかオブラートに包まれてるというか、セックスや性愛をどこか遠く感じる授業だったと記憶してます。でも、もっと純粋に身体の仕組みに興味が持てる授業になってもいいですよね。

池田先生:世界的にも、「夫婦間の性交でも明白な合意が必要」など、人権意識がどんどんクリティカルになってきているわけだから、オブラートに包まず素直に性教育をやれるといいなと思います。

■「男性が”月経”を経験する方法」って?

池田先生:あと、偏見を払拭するために必要なのがもうひとつあります。それは、公共の場でオープンに喋ること

社領:オープンに……! 難しいなー! やっぱりまだまだ、月経や性の話って「恥ずかしいもの」って空気が流れがちじゃないですか。

池田先生:そうですね。だから、オープンに喋るためのきっかけとして、性の話そのものに興味を持つタイミングがないといけません。例えば、今は全然テレビで放送されていない「動物の交尾の映像」ですが、あれはもうテレビでじゃんじゃん流してもいい。

社領:こ、交尾の映像を、じゃんじゃん……?

池田先生:そう。たとえばカモシカの男の子って、子供のうちに生まれた集団から去らないといけないんですよ。なぜかというと、妹や母親と生殖する機会を失くして、遺伝子を拡散させ多様性を確保しなければならないから。
そういうテレビを見た上で「人間は動物のうちのひとつ。だけど、人間ってカモシカと一緒でいいんだっけ?」など、議論することが大事です。そういった遺伝子が自分の中にもあるかもしれない、と自覚した上でこの社会の中でどう生きるのかということを考えてみたりね。

社領:なるほどー。語るチャンスを作ることで、性の話へのハードルがぐっと下がっていくわけですね。

池田先生:それこそ『DRESS』とかのメディアで個人の経験談をシェアすることも、偏見の敷居を低くしてくれるでしょうね。……あとは、男性に生理を経験してもらうのもいいかもしれません。

社領:男性に生理を経験してもらう? それってどうやるんですか?

池田先生:世界の各地に昔からある面白い習慣で、「クーバード/擬娩(ぎべん)」っていうのがあるんです。簡単に言うと、妻が出産する際は夫も一緒に「うーんうーん」と苦しんだり、妻の妊娠中~産褥期にかけては夫も家の中でじっと横になったりする習慣。つまり、男性が女性と同じように過ごすことを通して出産を経験する、というものなんですけども。

社領:ほうほう。

池田先生:もちろん生理そのもの、そこに随伴して起きる不調を経験することはできません。ただこの考え方を応用すると、月経中にセックスがしたくなっても我慢するとか、家事をより多く担うとか、男性が月経によって行動を変化させることは「社会的に月経の経験をしている」と言えなくもないんじゃないか、と僕は思うんです。

社領:な、なるほどー! めちゃくちゃ面白い。女性と全く同じではないですが、大なり小なり男性も月経の影響も受けているわけですね。

池田先生:そうすると、例えば「生理用品を買いに行く」という経験を男性にしてもらうこともありですよね。最初は売り場に行くのも恥ずかしいかもしれないけど、何度目かには慣れてきて、いろんな商品が目に入ってくる。すると、「こんなに種類が多いのか」「タンポンなんて製品もあるのか」「なんでこんなに高いんだ」と視野が広がって、月経に興味を持ち、しっかり知るきっかけになるかと思います。

社領:たしかに。それまで気にしなかったものでも、少しでも”経験”として蓄積されると急に解像度が上がって見えて、気になりだすものってありますもんね。……でも先生、そもそも月経を「穢れてる」とみなして近寄ってもこない頑固な人などには、どう対処したらいいのでしょうか……。

池田先生:そうですね……人間ってもともと学ぶことが好きな生き物なので、ぜひ自分から好奇心を持って勉強してみてほしいです。ポジティブなインセンティブをつけてあげたらさらによく学ぶので、その人が尊敬している人に正しい情報を発信してもらうのが一番効くかと。とはいえ、やはりその人たち自身がまずは知ろうとしなければなりませんけどね。

■次世代に偏見や差別を持ち越さないために

社領: 月経中の女性が生きやすくなるためには、「しっかり性教育をする」「オープンに話す」「男性と月経を共有する」ことが大切なんですね……勉強になりました。ただ、自分ひとりが頑張ったところで何かを変えられるのだろうか……とも思ってしまいますね。

池田先生:うーん。僕は、いま日本にある月経に関する偏見って、悪の連鎖だと思ってるんです。

社領:悪の連鎖。

池田先生:そう、上の世代から繋がれてきた悪の連鎖。それを断ち切るためには、偏見を持つ人に知識を身につけてもらうのはもちろんだけど、月経への偏見のために辛い目にあった女性たちに「あなたが言われた発言にはリスペクトがまったくない」「あなたの嫌だと思った気持ちは正しい感情だ」と寄り添って伝えていくこともかなり重要だと思うんです。

一人ひとりに正しい知識を循環させて、次の世代へつないでいく。それって、ゆっくり時間をかけてでも、みんなが正しくまともになっていくってことではないでしょうか。まぁ、社会的な通年も医学的な知識も、未来永劫に常識であることってなかなかないですからね。

社領:先生、今日は面白いお話をありがとうございました!

池田先生:どういたしまして。僕のホームページには、ほかにも医療と偏見の歴史(例えば、ハンセン病と差別)についてのエピソードなどがあります。ぜひ、みんなで読んでいろいろと議論してみてください。ネットの情報は、友人や家族の人とシェアしたり、ああだこうだと議論することで、その真贋(しんがん)を選別することができるでしょう。月経についてもしかり! 楽しく学んで、月経についての偏見をなくしていってもらえたらと思います。

取材・執筆/社領エミ
担当編集/小林航平

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