1. DRESS [ドレス]トップ
  2. ワークスタイル
  3. 「全員が平等」な会社は、「全員が幸福」な会社ではない

「全員が平等」な会社は、「全員が幸福」な会社ではない

「右にならえ」がよしとされた古い世代の価値観を捨てきれず、体育会系マネジメントで社員を縛っている会社はまだまだ多いはず。そんな組織が女性社員、そして全社員が働きやすい会社に生まれ変わるためにはどうすればいいのでしょうか。自由な働き方が有名なサイボウズ株式会社で、人事制度を構築してきた取締役副社長・山田理さんが語ります。

「全員が平等」な会社は、「全員が幸福」な会社ではない

■「体育会系マネジメント」はどうして今も残っている?

「空気を読もう」、「我慢しよう」、「がんばろう」、「あきらめるな」……。

これらの言葉は、私たち昭和世代のオジサンの大好物です。私は昭和42年生まれ。平成4年に新卒で銀行員になったのですが、当時はそれが世の中の常識でした。

学校も会社も、効率を重視した「右にならえ」の一律な教育。空気を読み、我慢して、がんばって、あきらめなければいいことがあるという価値観が蔓延していました。会社に忠誠を誓う人が評価され、いつでもどこでも、上司の言う通りに働く人が偉くなる。「普通」の幸せのカタチは、結婚して家族を持ち、男性は働き、女性は家事と育児に専念すること。僕もそんな家庭で育ちました。

そんな背景から生まれたのが、上下関係に重きを置き、部下を一律で管理しようとする、いわゆる「体育会系マネジメント」なんだと思います。この令和の時代の組織に、昭和の価値観を色濃く反映した体育会系マネジメントがどうしてまだ残っているのか。それは、昭和のオジサンたちが今もなお権力を持っているからです。

言い方を変えれば、このやり方で、経済がそれなりに回っているんです。なぜ経済が回るのかといえば、昭和世代よりも若いみなさんが、そんな価値観や常識に対して、我慢をしてくれているからです。

けれど、その歪みは着実にみなさんの心に蓄積されているように感じます。国連世界幸福度ランキングで日本は2013年の43位以来、毎年順位を下げ、2020年にはなんと153カ国・地域の中で62位となりました。古い常識がまかり通っている組織の現状と私たちの幸福度に、まったく関係がないと言えるでしょうか。

■脱・体育会系の組織づくり──サイボウズの場合

では、どうすれば、組織は変われるのでしょうか。キーのひとつは、「女性の働き方」にあると思っています。

というのも、私が人事制度を構築してきたサイボウズも、創業からしばらくは業績成長を重視するがゆえに前時代的なマネジメントを持ち込み、離職率が30%近くあるブラック企業でした。そんな組織だったサイボウズが、入社したいと思ってもらい、社員に活躍してもらえるような企業に生まれ変わるために注目したのが、女性の働き方です。

私は前職の銀行員時代から、明らかに男性より仕事ができる優秀な女性もたくさんいるのに、出世するのは男性がほとんどであることに疑問を抱いていました。女性は結婚・出産によって産休をとったり会社を辞めたりするかもしれず、だから責任のある立場は任せられない、という風潮がありました。

女性はこれまで、個人の業務に関するスキルや能力ではなく、働く時間や場所の制約がある、もしくは、あるかもしれないだけで、責任と権限ある役割を任せてもらえないという環境だったと思うんです。だからこそ、時短や長期間の産休といった多様な働き方・休み方を受け入れさえすれば、当時のサイボウズのような創業間もない中小企業でも優秀な人材を採用し活躍してもらうことができると考え、働き方改革を進めていきました。

当初は、育児休暇の期間を当時日本では最長だった6年間としたり、場所と時間の9種類の組み合わせの中から働き方を選択できる制度をつくったりと試行錯誤をしながら制度を整えていったのですが、「子どもが熱を出したので家で働きたい」「台風で帰れなくなりそうなので今日は出社しない」といった突発的なケースにも対応したりしているうちに、自分の好きな働き方をみんなに共有して、場所も時間も自由に選ぶことができる「働き方宣言制度」という今の形ができました。

この制度が成り立っているのは、「情報をフラットにする」ことを徹底しているからです。役職、年次、性別、場所など関係なく、プライベートやインサイダー情報以外のすべての情報を、できるだけチームメンバーに共有してもらうようにしています。こうすることによって、誰かが休んだり時短勤務になったりといった急な事態にも対応できるようになり、場所や時間の制約を大幅にカバーすることができています。

■会社は「女性特有のつらさ」とどう向き合うべきか

サイボウズがすべての女性社員にとって本当に働きやすい会社になっているとは、口が裂けても言えません。年々社員数が増える中で、まだまだ課題は多いです。とはいえ、ここまでいろいろと取り組んできて、生理などの体調不良を含む「女性特有のつらさ」への理解については、思うことがあります。

ひとつは、組織の中で男性と女性が平等になっていない点があれば、無条件で是正すべきということ。女性ということで不利益を被らせることがあるのなら、しっかりと法の下で対処していくべきです。

また、女性特有の体調不良などを実際に経験することのできない男性には、たとえ制度面では平等になっていても、日常の習慣や行動、発言などに無意識にバイアスがかかり、女性に働きにくい環境を強いていることもあります。#MeToo(※1)や#KuToo(※2)運動のように、苦痛を感じた人が勇気を出して声を上げる活動はネット世代を中心に世界でどんどん広がっていますので、男性もそういった活動をきっかけとして自分から学ぶことで、理解がより一層進むことを期待したいです。

一方で、気をつけないといけないと思うのは、「平等」の世界から「幸福」の世界への変化についてです。平等が幸福につながることも多いとは思いますが、厳密には平等と幸福は違います。

たとえば、ひとつのケーキを3人で分けるとき、3等分するのが平等です。しかし3人のうち、Aさんは甘いものが苦手、Bさんはダイエット中、Cさんは甘いもの大好きで腹ペコだった場合、Cさんにひとつのケーキを丸ごとあげると、3人全員が幸せになりますよね。逆に3等分すると、3人全員が微妙に不幸になります。

つまり平等は「一律」で、幸福とは「個別」なんです。世の中の制度や習慣は平等にこだわりすぎるがゆえに、実はみんなが微妙に不幸になっていることが多いように感じます。これから、今以上に価値観が多様化していく世の中になれば、多様な個性がより重視されるようになります。

生理などの女性特有のつらさへの対応についても、もしかすると「私だって毎月生理はあるけど、なんとかやってるんだから、あなたも自分で解決しなさい」ということを部下に言ってしまう女性の上司もいるかもしれません。そんなときに大事なのは、一律であることにこだわるのではなく「個別」で捉えること、つまり、目の前の「その人」がどうしたいかを尊重することです。

「あなたが体調不良で休みが必要なのであれば、あなたの問題として休んでくださいね」と伝え、「はい、私は休みたいので休みます」ということであれば、心置きなく休んでもらう。そんな対話が、今以上に必要になってくるのではないでしょうか。

■「正々堂々と、我慢しない」働き方へ

生理などの体調不良による休暇取得もそのひとつですが、組織の中で大切なことは、「正々堂々と、我慢をしない/させない」ことです。

前述したように、たとえ同じ女性であっても、体調には個人差があります。自分がしたいことと他人がしたいこと、自分の体調と他人の体調は違って当然。どちらが正解かではないんです。ただ、チームの中で業務を効率よく進めるために、優先順位をつける必要があるだけ。だから組織は、議論をオープンにして多くの人の意見を聞き、隠しごとをなくすよう変化する必要があるんです。

「100人100通りの働き方がある」。これがサイボウズの人事制度の根幹にあるコンセプトです。100人100通りのライフスタイルがあり、100人100通りの幸せのカタチがある。我慢せず、忖度せず、自分の気持ちを言える環境をつくることこそが、本当の意味で「みんな」が働きやすい組織のための第一歩です。

この文章の最初に、体育会系マネジメントがまだ残っている理由は、若い世代の方が古い価値観や常識に対して我慢をしてくれているからだと書きました。実は、昭和世代のオジサンたちの多くは、世の中の価値観や常識が徐々に変化していることに気づいています。ただ、どうしていいのかがわからないんです。私自身も、かつてはそうだったと思います。

ヒトがふたりいると、すでにそこには多様な個性があります。まずは職場にいるヒトの顔を思い浮かべ、「女性」や「若者」ではなく、固有名詞で、一人ひとりの個性と向き合い、対話することから始めましょう。アフターコロナでワークスタイルの変化は加速します。急がば回れ。個性との対話こそが新しい時代のワークスタイルへの第一歩です。ぜひ、一緒に踏み出してみませんか。


Text/山田理
サイボウズ株式会社取締役副社長兼サイボウズ米国法人社長。1992年日本興業銀行入社。2000年にサイボウズへ転職し、取締役として財務、人事および法務部門を担当。初期から同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2007年取締役副社長兼事業支援本部長に就任。2014年グローバルへの事業拡大を企図しUS事業本部を新設、本部長兼米国法人社長に就任。同時にシリコンバレーに赴任し、現在に至る。著書「最軽量のマネジメント」「カイシャインの心得」



※1#MeToo:セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する際にSNSで使用されるハッシュタグ

※2#KuToo:日本の職場で女性がハイヒールおよびパンプスの着用を義務づけられていることに抗議する社会運動

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

関連記事

Latest Article