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生理が“自己責任”になってしまうディストピア。その原因は男性の無知にあり?

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男性にとって生理はどんな存在なのだろう。めんどうなもの? よくわからないもの? 知識はあるよって人もいる。僕たちが生理ときちんと付き合っていくためには、正しい知識だけじゃなく、いま目の前にいるその人がなにに困っているのか、なにをしてほしいのか、相手の言葉に耳を傾けることも大切。清田隆之による特集コラムです。

生理が“自己責任”になってしまうディストピア。その原因は男性の無知にあり?

■「じゃあ口でして」という彼氏からの横暴な要求

大学生の頃、知人女性といいムードになり、キスしたり抱き合ったりを経てセックスが始まりそうになったことがあった。しかし、すんでのところで「実はいま生理で……」と告げられた。こちらのリビドーは高まりきっていただけに、正直「えええーーーっ!」という落胆の気持ちがなかったわけではないが、それ以上どうすることもできないので、「そ、それならやめておこう」と私は言った。

内心では「あとで自分でしよう」と考えていた。しかし彼女から謎に感動され、とても戸惑った。「そんな風に言われたのは初めて」と言っていた。「不機嫌になられると思った」とも言っていた。性的な経験に乏しかった私は彼女がなぜそんなことを言っているのかイマイチ理解できず、「そういうものなのかな?」と思っただけであまり深くは考えなかった。

私は普段、恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員として女性たちの恋愛体験や悩み相談に耳を傾け、そこから見える恋愛とジェンダーの問題をコラムやラジオで発信している。この活動を続ける中で、あのとき彼女が言ったことの意味が少しだけわかるようになった。女性たちの語る恋バナには、生理を理由にセックスを拒まれた際に機嫌を損ねてしまう男性がしばしば登場する。彼氏から「じゃあ口でして」と横暴な要求をされたという話も少なくないし、相手に気を遣って自らそれを申し出てしまう自分に嫌気がさすという女性も一定数いる。

こういった経験を経て、我々の中には「俺たちは生理のことをあまりに知らなさすぎるのではないか……」という認識が生まれた。生理に無知な男性が女の人たちからどう見えているのかを想像するとゾッとした気分になり、基礎的なところから学ぶ必要性を痛感した。 そして桃山商事のPodcast番組で「男子が学ぶ生理のはなし」という企画を立て、男性たちに取材をしたり、自分たちの体験を振り返ったりしながらこの問題について考えた。

これらの取り組みを通して見えてきたのは、多くの男性が抱いている生理のイメージが、「セックス」もしくは「女性の不機嫌」に関わることに偏っているということだった。

■腹痛、腰痛、貧血、うつ症状……人によって異なる生理の影響

「生理についてどんなイメージを持っているか」という質問に対し、男性たちから得られた回答は正直言ってかなりひどいものだった。最も多かったのは「セックスできない日」と「女性が不機嫌になる日」という答えだった。他にも「女子社員に頼みごとがしづらくて困る」「彼女が旅行中に生理になって行動範囲が狭まった」という声もあったし、中には「どうせセックスを断るための言い訳でしょ?」「俺は血とかついても気にしない」「中で出しても大丈夫な日」という目を覆いたくなるような回答もあった。

あのときの女性も、このような体験をたくさんしていたのだろうか……。しかし私も他人事ではいられない。特に学生時代や20代の頃は、生理に関して知識ゼロのまま女性と接していた。旅行中に生理になった恋人を長時間歩かせ、体調を悪化させてしまったこともあった。無知や無理解によって身近な女の人たちに負担や違和感を与えてしまったことは一度や二度じゃないと思う。 身体的に月経を経験したことのない我々にとって、生理と直面するシーンが限定的になってしまうのもある程度は仕方ないことなのかもしれないが、当然ながら生理はセックスと不機嫌だけに関わるものでは決してない。

『月経のはなし──歴史・行動・メカニズム』(武谷雄二/中公新書)によれば、月経とは「妊娠の準備状態を作り出すために起こる生理現象」であり、より狭義には「子宮内膜からの周期的出血」のことを指す言葉だ。「生理」とはこれを婉曲的に表現したものだが、生理現象は「生命を営むことに伴って生物体に生じる諸現象」のことであり、呼吸や排泄、睡眠や代謝、咳やくしゃみ、あくび、まばたき、発汗、しゃっくり、げっぷ、嘔吐、おなら、勃起……などがそれに当たる。

月経の詳細なメカニズムに関してはぜひこの本を読んでもらえたらと思うが、妊娠の準備状態を作り出すために体内のホルモン環境がくるくる変動し、それに伴って女性たちの心身にはさまざまな変化が生じるという。また、妊娠が成立しなければ厚みを増した子宮内膜が体外へ排出され、その際に子宮内の筋肉がギューッと収縮して痛みや重みが発生する。

その影響は非常に個人差が大きく、腹痛や腰痛、頭痛や発熱、下痢や貧血、さらにはイライラやうつ症状など、身体的・精神的な影響が出るという人もいれば、逆に痛みがほとんどない人もいる。同じ人であっても常に一定の症状が現れるというわけではなく、また月経そのもの以外にも、人によっては「PMS(月経前症候群)」や「PMDD(月経前不快気分障害)」のほうがつらいというケースもあり、一概にこうと言えるものではないそうだ。

生理が脳、子宮、卵巣という広範囲の部位が連携して妊娠の準備状態を作り出すためのサイクルであり、環境やストレスなど外的要因の影響を受けやすいとても繊細なものであることを思うと、「セックスできない日」「女性が不機嫌になる日」という認識がいかに横暴なものであるかを痛感させられる。それは無知で済まされるどころか、具体的な迷惑やストレスを与えかねない実害的なものとすら言える。はたして俺たちはこのままでいいのだろうか?

■「個人モデル」から「社会モデル」へ



〈毎月1回×平均5日×約42年=2500日を占める、男女最大の格差〉



『月経のはなし』の帯にはこんなコピーが書かれている。呼吸も代謝もおならもまばたきも、大体の生理現象は女性と男性でそう変わらない。しかし月経だけは異なる。あまりに違いすぎる。まさに「男女最大の格差」と言える。

「格差」という言葉が使われているのは、女性が社会的に不利を被る機会が多いからだ。月経には多くの国で不当な差別や偏見を受けてきた歴史があるし、日本では低用量ピル(経口避妊薬)の認可に40年近い年月がかかっている(ちなみにバイアグラはわずか半年で認可され、当時多くの女性から怒りの声が上がったそうだ )。

生理用品は生活必需品であるにもかかわらず、コンビニやドラッグストアで購入するとなぜか紙袋に入れて提供されるという謎の慣習があるし(女性たちが多様な生理ケアを選択できる社会を目指す「#NoBagForMe」というプロジェクトも広がっている)、ほとんどの会社では生理による体調不良を念頭に置いた上でシステムやスケジュールが組まれることなどまずなく、そこで生じる無理や齟齬は女性の“自己責任”として押し付けられているのが現状だ(生理休暇というものもあるが、取得率が1%を割った(※1)ことがニュースになるなど名ばかりの制度になっている)。

こういった不利や偏見の原因は生理そのものにあるのだろうか? 答えはどう考えてもNOであり、これらを生み出している原因は間違いなく社会の側にある。

脳性まひの身体を持ち、「当事者研究」という分野を切り開く東京大学先端科学技術センター准教授の熊谷晋一郎さんは、論文や講演でたびたび「個人モデル」と「社会モデル」という概念を紹介している。いわく、「障害を持つ個人のほうが社会に合わせて変わるべきだ」と考えるのが個人モデルで、「多様な人たちを包摂するよう社会のほうが変わるべきだ」と考えるのが社会モデルとなる。私はこの考えにとても感銘を受けた。

例えば環境設計によって障害を解消していく「バリアフリー」は社会モデルの一例だが、生理にまつわる不利や不都合もこちらのモデルで考えていくべき問題ではないだろうか。しかし、悲しいかな現状では個人モデル的な捉え方になってしまっている。 会社のシステムやスケジュールに女性側が合わせなければならない状況などはまさにそれだ。さらにこの社会ではルールや制度を作る立場にいる人間が男性ばかりだし、身近にいる男性たちも生理に対する理解度が低い。生理にとって、男性の無知や無理解はとても大きな障壁 なのだ。

男性が月経を体感的に理解することはどこまで行っても不可能だと思うのだが 、メカニズムを学んだり、女性たちから話を聞いて一人ひとりの違いを理解したり 、想像力を駆使しながらコミュニケーションを取ったりすることは十分にできる。知識を学ぶことはもちろん大切だが、最終的には目の前にいる個々人の話に耳を傾け、要望や要求に対してできる限り柔軟に対応していくしかないだろう(手助けすればいいというものではなく、適度に放っておいてほしいと望む人も当然いる)。

我々が女性たちのよき隣人になれれば生理にまつわる不利や不都合は着実に減っていく。生存のために必要な生理現象がマイナスになってしまう社会などディストピア以外の何ものでもない。

(※1)厚生労働省の調査によると平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に生理休暇を請求した女性労働者は0.9%

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清田 隆之

文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。著書に『生き抜くための恋愛相談』『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(イースト・プレス)『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)など。イラスト:オザキエミ

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