生理で会社を休む「甘え」が許されない地獄を生きる知恵
生理痛・PMS(月経前症候群)など「生理にまつわる不調」を理由に休むことに罪悪感がある人、心身を労わることが甘えだと思っている人へ。無理に休めなんて言えないけれど、もしも日常生活に支障をきたしていて困っているなら、それは普通の体調不良です。トイアンナさんによるDRESS『「新」社会人に伝えたい生理の話』特集への寄稿。
「女って、男より肉体的に劣っているよね。だって生理があるんだもん」と、無邪気に言われてきた人生でした。
男だって勃ちの良しあしで人生変わったり、玉を蹴られて死ぬリスクを抱えて生きてるくせに! と、罵倒する力が身に付いたのはつい最近のことで。以前の私は無力でした。
追い打ちをかけるように、私はPMS(生理前症候群)が重いタイプ(生理にまつわる不調や体験には個人差がある) 。生理3日前ともなれば、世界は真っ暗に見え、電車に飛び込むことばかり考えます。これがウツじゃなくて、”生理”なんて一言で片づけられるなんてありえない。
地獄のような数日を経て、生理から復帰すれば「いや、男性でも片頭痛持ちとかいるし」とか「男よりデフォルトで5年も長生きできる女なる生き物が、肉体的に”劣る”なんてちゃんちゃらおかしいわ」と笑っていられるわけですが、生理前はのたうちまわりながら「子宮めえええ……」と呪いの言葉を吐いております。
■生理休暇を、実は誰もが取っていた
と、苦しんでいるのはどうやら私だけではないらしく。
ふと「生理で会社休んだことある人いますか?」とTwitterで調査したところ、女性の過半数が生理を理由に休んだことがあると判明しました。
ただし、生理由来の休みを「生理休暇」として申請する人は1%未満 (※1)。ほとんどの人は、貴重な有休をかっさばいてお休みを取っているようです。
ただ、そうしたくなる理由もわからんでもない。だって、「今日が生理」という事実すら、上司に伝えるのが恥ずかしいと思う人もいるでしょう。男性社員からセクハラを受けるかもしれないし、「そんなことで休むなんて」と、生理の軽い女性社員につつかれるのもイヤ。自分自身でさえ生理だけに、”生理現象”で休むだなんて、甘えだと感じてしまう。
それに、生理は時期を選んでくれません。大事なプレゼンの直前や、誰かの穴埋めをしているときでも、等しく生理はやってきます。
「入社したての研修期間で休みづらい」
「繁忙期で、それどころじゃない」
「私以外に代わりがいなくて、休めない」
「先輩の足手まといになるのが嫌だ」
「男性に”これだから女は”となめられたくない」
「自分に負けた気がする」
などなど、背景は多種多様ですが……生理休暇を取れない事情は山ほどあるのです。
■生理休暇を「甘え」にした私の末路
そんなわけで、私も生理休暇を取得したことはありません。PMSも出血量もひどいのに、無理に激務をこなしていました。おかげさまで、自分の身体のケアは後回し。生理不順に見舞われ、転職するまでの2年間は生理がほとんど来ませんでした。
それが直接の原因ではありませんが、私は今、医師から妊娠しづらい体だと言われています。「これだけ仕事をしてきたんだから」「妊娠しづらい体質は、生まれつきだったかもしれないし」と、思いつつ「せめて、あのときもう少し体を労わっていたら」と考える日はあります。生理休暇を「甘え」と片付けて出社するよりも、できることはあったんじゃないか、と。
それに、妊娠・出産以外でも体を壊していた可能性はあるんじゃないかとも、思うのです。今後体を壊したときに「やっぱり、あのとき体のことを考えて働いていたら」と後悔するのは、しんどい。
■生理の話を聞いて怖くなったら、まずは婦人科へ
じゃあ、私がもう一度当時にタイムスリップできたら、何をしたか。まずは婦人科へ相談したでしょう。そもそも、ひどすぎる生理痛・だるさ・イライラ・眠気は不調のサインかもしれません。
特に生理が理由で会社や学校を休むほどひどいなら、ぜひ婦人科へ行ってみてください。子宮内膜症や子宮筋腫などの、病気が隠れている恐れもあるからです。病気によっては不妊につながるリスクもあります。子宮より大事な会議があるものか、善は急げ。
私の場合は、PMSが薬でかなり楽になりました。私は17歳ごろから、ピルを婦人科でもらっています。ピルは生理前のイライラや眠気(=PMSの諸症状)をかなり軽減してくれています。また、生理中は肩こりがひどすぎて頭痛を起こすので、筋弛緩剤で頭痛を予防。
とはいえ、自分にとっていい婦人科の選び方が分からなくて悩む女性も多いはず。婦人科は病院によって「不妊治療」「中絶」「分娩」「性感染症」「更年期」「生理不順」など異なる強みを持っています。まずは近隣にある病院のウェブサイトを調べ、生理不順やPMSなどについて書かれているか読んでみてください。
また、口コミを読んでから来院するのもオススメです。
「女医さんだと思って安心して行ったら、生理ごときで甘えるなと叱られた」な~んて、トラウマを作らないためです。女医さんだから、プロだからといって、生理に理解があるとは限りません。生理が得意分野で、かつ優しい先生を見つけましょう。
なお、口コミサイトにはどこもサクラが紛れ込みやすいため、100%安心といえるページはありません。ただし、比較的公平性が高いとされているGoogleレビューは目を通しておくとよいでしょう。
■生理を薬で「ごまかす」の?
こんな風に書くと「でも、薬で痛みをごまかしてもいけないから……」「鎮痛剤の耐性ができたら困る」とおっしゃるかもしれません。特に、頭痛なども鎮痛剤を飲まずにガマンしちゃう女性にとっては、生理で毎月薬を飲むなんて……という気持ちがあって当然でしょう。
ですが、生理がきついのは「体質」または「病気」です。薬を飲むのは「ごまかす」のではなく「きちんと対処する」ためです。糖尿病の人が薬を飲んだり、目が悪い人がメガネをかけたりするのと同じです。
また、市販の鎮痛剤を月に10日以内で使う くらいなら、耐性がつくことはないとされています(※2)。しかも、鎮痛剤は痛みが我慢できなくなってから飲むより、「ちょっと痛いかも」くらいで飲むほうが効くそうです。今日まで鎮痛剤を飲まなかった人も、ぜひお試しください。
■生理休暇を取れ! とは言わない。でもご自愛してください
生理休暇を絶対に取れとは、私も言えません。自分だって、生理休暇の申請を「ちょっとやだ……」と思っています。生理休暇じゃなくて、病気休暇って名前だったら良かったのに。
ただ、せめて生理を「普通の体調不良」と同じように扱ってほしいな、とは思います。生理現象だから仕方ないなんて、思わないで。
生理の異変は、子宮の異変。他の内臓である胃や肺がおかしいと感じたときと同じように、大事にするクセをつけてください。今が研修期間や繁忙期で休めないなら、土曜の午前に受診できる病院を探してでも、きちんと薬を処方されてください。あなたが無理に働いて、子宮がダメになっても会社は責任を取ってくれないのですから。
いつか、この記事が「時代遅れ」として消えるよう願っています。でもそれまでは、お互いご自愛していきましょう。
産婦人科医 山中智哉先生からのコメント
世の中に「生理休暇」が認知されるようになってきても、それを男性だけではなく、同性の女性にも理解されにくい場面もあることかと思います。体調が悪くても、多少の無理をしても仕事に取り組むという日本人の気質も関係しているかもしれません。
医学的に「月経困難症」「過多月経」「月経前緊張症候群(PMS)」などという病名があるように、生理に伴う症状は疾患のひとつととらえられています。そういった症状が、日常生活や仕事に対してマイナスの影響を及ぼしているのであれば、産婦人科医は、その症状が改善するように治療を講じる必要があります。医師が、患者さんのすべての症状を同様に体感することはできませんが、その症状について理解しようとする姿勢を持ち、医学的知識を基に治療することはできます。
生理休暇を申請するときに、ためらいや後ろめたさのような気持ちを持ってしまうとしたら、それは「自分ひとりだけ」という気持ちから来るものかもしれません。医師は疾患の治療をするだけでなく、その患者さんの「味方」となって、患者さんが「ひとりじゃないんだ」と思えるように、サポートしていくことが大切だと思います。
※この記事は2020年4月8日に公開されたものです
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